第四百八十八話 stand up for the victory
「・・・アモン君
そりゃ無茶振りも良いトコロじゃろ。」
情けなそうな表情で
カシオはそう言った。
ユークリッドもそれに続いた。
「それで起きるなら苦労しませんよ。」
俺は不敵に笑い答えた。
「無茶も苦労もあるものか
ここまで、いいか
ここまで全てミネバの策略だ。」
「・・・消えかけとるんじゃが。」
「勿論、それも含めてだ。
勝つにはこれしかなかったんだ。
負ければ全てお終い
どうせ消えるんだ。
同じ消えるなら
リスク覚悟で勝率を上げた方が良いだろう。」
俺はミネバに届く様に演劇調で続けた。
「冷静に見て見ろ
神側にはこれ以上無い好条件で
戦いは推移している。」
「ワシもついこの間までボロボロじゃったんじゃが」
「私も疲労で倒れる寸前でしたよぉ。」
ユーのは嘘だ。
「いや、してやったりだ。
まず最重要項目、人類の保護
今、神側は守るべき人間と共あり防衛している。
そして第二の重要項目、敵の殲滅
これは悪魔側が担当している。
いいか、先に疲弊するのは悪魔側なんだ。
倒せば良し、負けても悪魔の消滅だ。
そして神々は疲弊した敵を相手に出来る。
戦力削減ご苦労さんトドメはお任せ だ。
これが好条件じゃなきゃ
何が好条件なんだ。」
ユークリッドは真面目モードになって言った。
「・・・確かに。
逆は遠慮したいですねぇ
守るべき対象と離れ怨敵が力を温存したまま
竜との戦いに挑まねばならない。」
「そして、俺が勇者を連れて来るまでの
このボロボロ状態も想定の事だ。」
「なんでミーちゃんはそんな事を・・・。」
俺は語気を荒げて言った。
「そうでもしなけりゃ
お前ら神々は決して
絶対に一つにまとまらないからだよ。
前降臨から今までもモメっぱなしだったんじゃないか
もしかして?」
「ぐっ・・・。」
言葉に詰まるカシオ。
ウルラハの愚痴を聞いていた事は伏せ
読まれたと言う方が効果的だろう。
「何百年か何千年かは知らないが
降臨に対して真面目に取り組んで来たのは
こいつだけなんじゃないか?
まぁ冠するのが戦だから
当然ちゃ当然だが・・・。
神によっては戦そっちのけで
人間の女の尻ばっかり
追いかけまわしていた神もいたそうじゃないか。
それを見てこいつはどう思っていたんだろうな。」
ここで何で俺を見るビビビ。
めげずに続ける俺。
マリオ、お前の劇団員みたいな力を貸してくれ
「髪の毛より細い可能性
しかし、確かに存在する可能性
しかもそれを幾つも紡いで
それこそ自分の命まで掛けて
こいつはここまで事を運んだんだ。」
界外の力の露見。
前回が初めてでは無かったかもしれないが
確信を得たのは間違い無く前回だった。
ヴィータに取り付いた何か
アモンを乗っ取った何か
そしてそれがケイシオンの界記録を狂わせた。
この界外の力は法則を壊す。
確保、最低でも監視下に置く事は必須だった。
「なので前回、わざとミカリンを助けなかったんだ。」
天使の力をより上位の力で返した。
しかし神と言っても12柱の下から二番目だ。
ミネバは3位、それに当時は最高神の力すら流れていた。
助勢して助ける事は可能だった。
しかし敢えてしなかった。
「界外の力の所有者、その監視役に
自身の最高の部下、天使長は最適だったんだ。」
神側と悪魔側
決して話し合いなど叶うハズも無い。
しかし界外力の保有者は前回の降臨で
神とともに旅をし
同時に魔王をもコントロールした。
如何なる神も持ちえない悪魔側とのパイプ。
間接的ではあるがミネバは
それを手に入れた。
「そうしてミカを通して俺を
度重なる異界からの侵略者討伐に
上手く仕向けたんだ。
俺の手が回らない時はミカに補佐させ
失敗のリスクを極限まで下げた。
神々が安全なままだぞ。」
「バングの世界に乗り込んで
勇者を奪還されたのもお二人ででしたね。」
やはり思い入れがあるのか
ユークリッドは感慨深げにそう言った。
「ああ、そして俺が勇者保護に
手が離せない時、飛行型を頼もしく焼き払ったのがミカだ。
あの圧倒的破壊力は記憶に新しいだろ。」
本来なら共同戦線など張れるハズも無い二人は
呪いを介する事で機能した。
そしてこれまでの脅威を全て排除する事に成功した。
「俺を倒すつもりならミネバインで出来たんだ。
だがそうしなかった。
何故か、そうすれば今までの降臨と同じ
悪魔との凌ぎの削り合いに終始してしまい
竜にしてやらる事が分かっていたんだ。
しかし、事前にそれを打ち明けようにも
竜という界外の力にはケイシオンの権能も通じない
裏の取りようが無い説得の方法が無い。
竜などとワケの分からない敵に準備するより
目の前の悪魔に神々は捕らわれてしまう。
そこでわざと失態を繰り返し
自らを瀕死状態にする事で
神側の戦力を一時的に落とし
攻勢に出られない様にし
強制的に避難するように仕向け
自らが動けない替わりにミカを使い
俺をコントロールしたんだ。」
ケイシオンを救助したのは誰だ。
バング・メタボを退けたのは誰だ。
今、この歓喜に溢れかえるこの場
原因の勇者を連れて来たのは誰だ。
そしてヴィータを節制の縛から解いたのは誰だ。
「俺だ。そして裏から
それを誘導していたのがミネバだ。
ここまで全て筋書き通り
流石は戦略神だ。
正に神業だ。
そして茶番は終わりだ。
ミネバの弱体化を止められるのは誰だ。
全て導かれてここに今ここに俺が来た。
なぁ最終決戦に向けて
そろそろ起きて欲しいんだが」
いつの間にか透過状態から回復していたミネバが
ベッドから飛び起きた。
「ハーッハッハッ!!
何と言う戦略、すごいんだな私って!!!
自分でも驚きだ!!」
この大根め台無しだ。




