第四百八十四話 球体の正体(仮)
何とストレガはあの蠅、初見ではないそうだ。
毒の沼に沈んだセント・ボージ城で
対戦した過去があった。
「その時とは、少し違うタイプの蠅ですが
あんなキテレツな術を使用出来る者が
何人もいるとも思えませんし。」
このVerの差異は出す毒の種類の差だと
何となく思った。
今回のは死に至らしめる事の無い無害な毒だ。
「どっ・・・どうして秘密にしたのですか!?」
アリアの驚きっぷりから
皆の調査に対する苦労が窺えた。
これは憤慨してもしょうがない。
すんごい苦労して頑張っているのに
とっくに知っている仲間がいたのだから。
「原因が魔王だった。
私はこれはお兄様の策の一環だと
予想したからよ。
ずっと言ってるけど徹頭徹尾
私の行動は基本お兄様の為のみ
お兄様最優先。
だからぶっちゃけ人類がどうなろうと
二の次なの、ごめんなさいね。」
ストレガは静かで優しい笑顔で
さらっと言った。
アリアの方も怒るより脱力の方が大きい
「そう言う人だった」そう思って居る様だ。
「で、どんな作戦なのですか」
期待タップリの視線で
俺にそう聞いて来るストレガ。
どんなって
こっちが聞きたいよ。
俺は俺でもシンの方の俺だからなぁ
でも何か流れ的に
二人の為にはもう
俺じゃない
とは言い出しにくい。
どうするか
裏取ってないけど
いいか。
他に理由が見当たらないのだ。
もうコレで良いだろう。
「ストレガ、空中の黒い球体には
気が付いているか・・・。」
ストレガの表情が曇った。
「も申し訳ありません。
見逃しています。」
ビルジバイツとの話の中で
あの黒い球体が出現したのは
最近で、しかも日に日に大きくなっている
との事だ。
そうなるとストレガが原因を確認したのは
初期も初期で最近は行っていない事が窺えた。
「ああ、良いんだ。最初は無かったからな。」
俺の言葉にアリアが続いた。
「出現してたのはつい最近だと言う事ですか。」
「そうだ。そしてもうすぐベレンは戦場になる。
それもかつてない規模の戦闘が予想される。」
二人共、険しい表情に変化した。
「何なのですか・・・・その黒いタマって。」
俺はゆっくりとした言い回しで確信をもって
俺の適当な思いつきを断言した。
「竜の王だ。その転移の兆候なんだ。」
クリスタルドラゴンは降ろす事に成功したと言っていた。
しかしそんな大それた竜が今暴れているなら
俺や魔王、神共が気が付かないはずが無い
来ていないのだ。
正確には
まだ来ていないのだ。
転移
行先の方にしてみれば
何も無いトコロに突如として出現するが
送り出す側は大変な手間暇が掛かる。
転移する物体の大きさや保有する力によって
難易度は勿論
掛かる時間も異なるのでは無いだろうか。
ネトゲなどでもムービーシーンが入ると
それまでのノリをぶち壊す
Now Loading画面だ。
長い動画で、しかも回線が遅いと
壊れたのかと心配する程
その画面で固まってしまう。
転移中は非実体だ。
そうなれば如何なる攻撃も通じない
無敵時間中だ。
如何にシンアモンと言えども
無いモノは破壊出来ないだろう。
まぁその代わり向こうも何も出来ないのだが
つまり竜の王はこれまでの
どの竜と比べても
ケタ違いの力を持っていると予想されるのだ。
「で危ないから逃げてくださいって言ったトコロでな」
復興の最中だ。
指揮する側、支配者層にしてみれば
そんな投資をドブに捨てる様なマネは出来ない。
作業に当たっている方だって
今、平和なのに仕事その他を放り捨てて
どこへ逃げろと思うだろう。
「説得しても転移なんてピンと来ないだろう。」
「ですね・・・私もストレガさんを
見ていなければ信じないと思います。
とても全員を説得しきれるとは・・・。」
ストレガのは転移じゃないんだが
いきなり消えたり
突然、現れたりという現象としての理解は
それでもいいのか。
「時間だって限られています。
成程、この異臭騒ぎは人々の命を守る為の
強制的な避難誘導だったのですね。
流石です。
お兄様。」
キラキラした瞳でそう言うストレガ。
でもお前、人類なんてどうでも良いんだよね。
ストレガとは対照的に不安な様子の
アリアが言った。
「ベレン全域が戦場になるのですか・・・。」
「ああ、竜との最終決戦だ。
俺と竜の王が全力で戦う事になる。」
悪魔光線首振り照射でゴーストタウンが半壊。
その破壊力を生で見ているアリアには
避難の必要性を理解出来る様だ。
アレが複数でガチで暴れ回るワケだからな。
額にうっすらと油汗を浮かべていた。
「出来ればそうならない様に阻止したかったんだが
そこは竜共も必死だ。
してやられた格好だ。
なので、調査は打ち切り、ここも安全とは
言えない、お前たちもクリシアなり
ヒタイングなりに避難しろ。」
さも裏で努力してましたみたいな
雰囲気を醸し出し俺は言った。
まぁでも指示としては間違っていないだろう
俺の全開戦闘を考慮すると
バロードではベレンに近すぎる。
前回のミカ戦でもこの位の距離は
戦火の範囲に入るのだ。
それにこう言って置けば
黒い球体の正体が
全然、竜の王と無関係だった時
「寸での所で阻止成功した」とか誤魔化しが効きそうだ。
「分かりました。
お兄様、猶予はどの位ありそうなんですか。」
!
どの位だろう。
朝顔やヒマワリなら
つぼみの段階から開花日を予想出来るが
うーん
あの黒い球体が膨らんで竜の王の大きさになるなら
って竜の王の大きさ知らねぇし
膨張速度も細かい数字取ってないし
まぁ最低でもクリスタルドラゴンより
巨体なんだろうから
「何しろこれ程の規模の転移は前例が無い。」
俺は全く分かっていないのに
良く分かっているかのように
かなり緩く、外れた時の保身マージン多めで話した。
「数日は大丈夫だから、準備の時間はあるぞ。」
「では魔導院関係は明朝から準備に移行します。」
ストレガは一礼してそう答えた。
「市民の方は・・・どうしたら良いですか。」
アリアの問い掛けにはストレガが即答した。
「ハンスさんの判断に任せましょう。」
ハンス居るのか。
居るか。
「武」だもんな。
そういえばヴィータの周囲に現れなかった。
奴も責務を果たす為
己が欲望を我慢しているのだな。
「じゃそう言う事で、一旦俺は戻る。」
「「どちらに戻るのですか」」
どっから来たか言って無かったか。
そういえば不在時の魔導院側の動きを聞いたが
俺の方の話はしていなかった。
俺は別行動からの流れを
取りまとめざっと説明した。
キャラバンの位置がストレガ的には
予想外に近かったようで
ストレガは呆れた声を上げた。
「まだ、その辺りをウロウロしているんですか。」
コラ妹
何万人の徒歩だぞ。
飛行出来る俺達基準の行動力で考えるじゃない。
「幼い子供や老人もいますから
仕方が無いと思います。」
この場での唯一の人類であるアリアは
やはり一番まともだ。




