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ぞくデビ  作者: Tetra1031
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第四百七十九話 デスマーチ

ベレンの再興は順調だった。

俺達の浄化作業(主にビルジバイツ)終了後

俺が戦争回避に奔走している間に再興事業は進み

近隣に避難していた貴族、それに伴う市民が

インフラ関係からベレンに戻った。


その女神が降臨したのは

そんな時だった。

12柱、序列第二位

慈母神:ユノだ。


第一位、絶対神エグザスを夫とし

女神では最高権力者だ。


エグザスはいない。

降臨は行われたものの

消息は不明。

降臨によるユノの監視下からの解放

大方、これ幸いと女の尻を

追っかけまわしているのではとの

神々の予想だそうだ。


うん

俺がエグザスでもそうするだろう。

これは仕方が無い。



キャラバンの進行

俺が仕掛けた大騒ぎのせいで

今日はここまでとなり

「復活祭」と銘打ったお祭り騒ぎになった。

聖騎士に完全ガードされたキャリア

くつろぐ俺達の元にパウルが訪れたのは

夜も更けてからだ。

パウルは俺が居ない間の出来事を

説明してくれた。


「まず、初手を完全に誤りましたね。」


四大天使への俺抹殺指令だ。


「そうか、結果はともかく

判断としては誤りとは思えない。」


皮肉のつもりは無い。

本当にそう思って居た。

しかしパウルは悲愴な表情になった。


慌てて追加説明をした。


俺が神なり天使だったならば

反対を振り切ってでも独断専行しただろう。

出来る限り客観的に見て

俺でも俺の持っている力は危険だと思う。

いくら「誰の味方もしない」と本人が言っても

何の保証もないのだ。

「気が変わった」とか言い出されても何のペナルティも無い。

保障も保険も無い状態だったワケだしな。


「・・・言いそう。」


ミカリンの呟きを無視し

説明を続けた。

アレは俺が迂闊だったのだ。

自身ならまだしも同行した仲間まで

危険に晒す大失態だった。


まぁ結果的には

皆無事で万々歳だったが


ここまで言ったのに

まだパウルは変な顔してやがる。

少しイラついた俺は嫌味を言ってしまった。


「大体、司教だってその案に賛成したんだろう。」


結果にガッカリする事はあっても

決定そのものを後悔するんじゃないよ。

ガックリと俯くパウルを見て

ヴィータがすかさず割って入った。


「私でも無理なのに

人間風情が抗えるハズ無いのだわ。」


慈母を冠している神だが

その権能の一つに「節制」があるそうだ。


「どんな能力なんだ?」


電気を細目に消せとか

水出しっぱなしで歯磨くなとかか

母なる神というよりは

かぁちゃんみてぇな神なのか


「配下に絶対の服従を強いるのだわ。」


例えば

電気を細目に消せと言われたら

そうしてしまうし

水出しっぱなしで歯を磨くなと言われれば

そうしてしまうのか

問題児を抱えた全国の母親

切望の力だな。


「更に自身の希望との相違に

疑問を持つ事も出来ないのだわ。」


ジュノを思い出した。

魔神13将、序列4位

磔とよばれた彼女の能力は

限定的ではあるが

禁止事項を広範囲に渡って行使出来た。

それが戦闘力を持たないにも関わらず

4位たらしめたのだ。

自身への攻撃を禁じればもう手は出せない。

上位には通じないので

俺は攻撃し放題だが・・・。


JUNO


もしかしたら

ひとつの根源

それが発した光が神側に映り

発生した影が魔界に映るなんて仕組みで

ユノもジュノも本来は同一の存在だったりしてな。


「だとすると、ミカリンは良く抗えたな。」


ブリッペの放ったメイセラティが

ラハを貫いた瞬間

それまでの冷酷な表情が消え

いつものミカリンに戻ったのだ。

それでも完全に解放されていたワケではなく

その後の問答ではユノに関する事柄には

記憶に霞が掛かった様になって

思い出せなくなってしまってはいた。


「神ですら抗えないのに

いくら最高位とは言え天使が解除した。

この事実は神々の間でも大問題になったのだわ。」


「すげぇなミカリン!」


胸を張って威張るかと思ったのだが

照れくさそうな様子のミカリンだ。

意外だ。


「すごいのはミカリンでは無いのだわ。」


何やら真剣な様子でヴィータは語り出した。


「自分で体験して確信したわ。

アモン・・・力を以て全てを破壊する魔神。

あなたに関わると神の摂理ですら

ぶっ壊れてしまうのだわ。

この子はあなたと長く過ごしすぎた。

そして、覚えてはいないのだけれども

・・・私も。」


ヴィータ秘匿

こいつにしては

良く大人しく従ったモノだと思ったが

ユノの権能によるものだったのか。

そして俺の呼びかけでそれが破壊されたのか。


破壊

確かに一周目も今も

それしかして来なかったな。

何でだろう

壊したいワケじゃあ無いんだが

結果的にぶっ壊してしまう。

争いを好まない大人しい俺

その俺が破壊したいモノなんて

薄い膜ぐらいで十分なのに・・・。


「・・・何を考えているのだわ。」


「いや、うん。あー今までの事をな

どーだったかなーって」


ヴィータは

絶対に信じていない視線のままだった。

それでも根性で続けた。


「神や天使ですらコレなのだから

人間などは考えるまでも無いのだわ。」


ヴィータはそう言って

キャリアの外から今も聞こえる

お祭り騒ぎに耳を傾けた。

歓喜の復活祭は終わりの見えない騒ぎだ。


「そうか・・・悪い事を言ったな。

許せパウル」


こいつにしてみれば

俺と神が争うなど

体を引き裂かれる様な事態だっただろう。


「身に余る慈悲に感謝を」


俯いたまま首を横に振り

パウルは言葉を絞り出しそう言った。


「パウル。私はチンドン屋をやっていたせいで

知らないのだけれども

仲間の様子は如何なのかしら。」


チンドン屋なんて

今時、見た事無い人の方が多いぞ。


「はい。皆様、順調に回復をして居られます。

しかし、それが仇になってしまわれる方も・・・。」


「アモンと最悪の関わり方をしてしまったせいだわ。」


戦略を頂く神は度重なる失態に神格の危機だそうだ。

まず

崩壊に巻き込まれた際に神器ミネバインを展開したのが

マズかった。

あれ程のエネルギー消費に結果が見合わなさすぎだ。

続けて俺討伐失敗、四大天使半壊。

神なので知らないが

仏なら残機は後一個だ。


慎重にならざるを得ない。

そしてそれが不幸にも悪手になってしまった。


神々への信仰が揺らぐ事を恐れた神々は

失態をひた隠しする方向へと舵を切った。

存在そのものを秘匿

降臨も伏せる事で人々の信仰を保とうとしたのだ。

平時ならそれで十分だろうが

全国規模で始まった竜の襲撃

人間の手に負える相手では無かった。


「そこで末端の天使を派遣したのですが」


「馬鹿!!下級じゃワイバーン一匹に全滅食らうぞ。」


丁寧に説明してくれているパウルに

俺はつい大声で突っ込んでしまった。

猪にすら勝てなかったレベル1から

地道に経験値を稼ぎ強さの上昇を体感している。

ミカリンと俺の下級解放

弱ーっ何これワクワクを返せイベントで

下級の強さを体感しているのだ。

あの時にワイバーンと遭遇していたら

食われる自信がある。


ワイバーンを相手にするなら

悪魔騎士デモナイト主天使ドミニオンクラスを派遣すべきだ。


「はい。仰る通りの結果になりました。」


人間を食らう未知の魔物、その恐怖

ネルネルドでは

若いとは言え訓練を積んだ戦士でも

強姦魔に成り果てた。

非戦闘員なら言わずもがなだ。


阿鼻叫喚の地獄の中

黄金の光

希望の光が大空に幾つも連なって現れた。

天使だ。

救いに人々は歓喜し祈りを捧げた。


そしてその希望は

民衆の目の前でことごとく

未知の魔物に敗北した。


人々は絶望のどん底に落とされた。


「成程、史上最大級の葬列が出来上がるワケだ。」


キャラバンを目にした時の衝撃を思い出し俺は納得した。


主天使ドミニオンの軍勢は居るんだろう

何故、導入しなかったんだ。」


これ以上の損失を恐れたユノが節制を行使

温存を選択したそうだ。


切り札を切るに切れないまま

徐々にエネルギーは枯渇

それが二の足を加速し

切り札はどんどん弱体化していく

最悪の選択だ。


慈愛を冠する神が指揮を執ったのも悪条件だ。

死んで来いとは言えない神だ。

ここでこそ戦略神の出番なのだろうが

その頃には存在の力を大幅に失い

生ける屍状態だったそうだ。


「悪い歯車がこれ以上無いタイミングで噛み合っちまったな。」


今現在のこの歓喜は

俺を否定した事

神を秘匿した節制が間違いだったと

決定づける歓喜だ。

なのでユノとミネバの回復は思わしくない。

むしろ悪化しているそうだ。

これがパウルの言う仇だった。


「それにしても良く全滅しなかったな。」


ドラゴンを物ともしない

軍団がキャラバンを救った。


「大変だったよ~。」


思い出しても疲れるのか

項垂れてミカリンは言った。


「救世主が御遣わし下さった使者。」


パウルは涙ながらに語った。

節制の制御下から逃れたミカリンは

炎の剣を使い悪しき空の侵略者を

痛快に焼き払い。

火を噴く巨大な移動するトーチカは

地上の竜を頼もしく屠っていった。


しかし、それは限定的な勝利で

全国規模で広がる恐怖には

焼石に水だった。

アベソーリが破壊されてからは

ミカリンは近場から得られる僅かなエネルギーで

孤軍奮闘だったのだ。


「偉いな。よくやったぞ。

撫でてあげよう。」


俺は気持ちの悪い笑顔でミカリンを

ハグすべく近づいた。

拒否のリアクションを期待したのだが

ミカリンは抱き着いて来て泣き出してしまった。


仕方が無いのでしばらく

頭を撫でてやった。


何かヴィータの視線が痛い気がするが

振り返らない様にしよう。


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