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ぞくデビ  作者: Tetra1031
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第四百七十七話 勇者ここに

俺とウリハルは

そこからは驚きの連打に翻弄される事になった。


まずはキャラバンの規模だ。


「???何でしょうかアレは」

「・・・・何だろう。」


ミカリンと会った場所から進む事

数キロ、小高い丘を超えて見えた光景

初めはそれが何なのか二人共理解出来ずに固まった。


大地という果物が一部痛んだかの様な

黒いシミが所々途切れながらも

街道を染めていた。

先頭は見えるが最後尾は遠すぎて

どこまで続いているのか視認出来ない程先だ。


「って、おいおい何人居るんだコレ!!」


近づくにつれ

それがキャラバン、人や馬車の塊だと分かると

それはそれで別の恐怖が沸き上がって来た。


「全部・・・避難民なのですよね。」


ネルネルドから撤退する先々皆同じ状態で

雪だるま式に膨れ上がった。


言葉にすればそれだけだが

想像力が足りなかった。

ミカリンは確かにそう言っていたのだが

実際に目にして圧倒された。


「コミケよりすごいんじゃないか・・。」


これはスパルタ兵に警備させた方が良い。

開催!!コミ☆ケット


「魔勇者様、コミケとは。」


元の世界のミサみたいなもんだと

ウリハルには説明しておいた。


東京ドーム満員で4万6千だから

今見えているだけでも

その2~3倍は居る。

まぁベレンだけでも数十万の市民が居るワケだから

見えていない行列の最後尾まで含めると

そうなるのか・・・。


人の力、それは個別の強さで無く

集団としての力だと

クリスタルドラゴンに偉そうに言ったが

今、その脅威に俺が圧倒されていた。


こいつら全部、毎日

飯食ってクソすんだよな・・・。


一体どれだけの物資が必要になるんだ。


俺もウリハルもポカーンと口を開け

キャリアの操作も無意識のまま

ゆっくりと巨大キャラバンに近づいて行った。


そして黒い塊を構成しているモノが

人や馬車だと判別出来る距離まで近づき

人々の様子を見て


二度目の驚きだ。


「・・・・ヒドイ。」


そう言葉を漏らすウリハル。

俺は絶句してしまったので

ウリハルの方がすごいな。

何だかんだでお姫様だ。

大勢の人、集団に馴れているのだ。


俺の頭に浮かんだのは

何かゾンビ映画のラスト近くのシーンだ。

皆、ボロを纏い、俯きフラフラと歩いていた。

顔なども埃や泥で汚れるに任せたままだ。

これだけ人が居るというのに

話し声も聞こえてこない。

それも不気味さを増す要因だった。


俺はミカリンの状態を薄汚れていると感じたが

全然綺麗な方だった。


俺はミカリンが客室で寝ている事も忘れ

つい半魔化してしまう。

なだれ込んで来る大量エネルギーに

思わず歓喜の声が漏れそうになってしまった。


純度の高い絶望の味だ。

怒りや嫉妬など思考の味

弾けるような刺激的な味とは対極の

上質なカツオ出汁のような

薄いがこれはこれで良い

むしろ濃いと下品になる独特の味だ。


難民、敗残兵、落ち武者

この大群だ。


「これじゃミカリンもジリ貧になるワケだ。」


むしろマイナスの影響が心配された。

かと言って離れる事も出来ず

乏しい供給量をやり繰りして凌いで来たのだろう。


「魔勇者様・・・・。」


快楽に独り悦にいってルンルン気分な俺の横で

ウリハルが涙声だ。


「わ私は・・・勇者だというのに姫だというのに

彼等は皆、大事な民なのに・・・。」


焦燥感、無力感

その他、色々な感情の波に飲まれまくりだ。


元々、自分はどんなヒドイ扱いでも平気な奴だが

他人、特に信頼を置いた人の処遇には敏感な奴だ。


その時キャラバンの集団から飛び出す人影が見えた。

人間とは思えない素早いダッシュで

一直線にこちらに走り始めた。


「マスター!!!!!」


アルコだ。

無事だったか。


俺はキャリアを停車させると

御者席から下りて

冒険者ゼータにチェンジした。

あの勢いで抱き着かれたら

半魔化で無いと危ない。


そして予想通りだった。

一切減速せずにアルコは泣きながら

飛び掛かっ・・・抱き着いて来た。


俺は抱きかかえながら

体を回転させて勢いの運動エネルギーを消費した。


わんわん泣きながら言葉にならない事を口走り

アルコはしがみ付いていた。

すんごい力だ。

生身なら潰れていただろう。


俺はアルコの頭を撫でながら

御者席で肩を震わせているウリハルに言った。


「見てろ、こういう時はなあ」


「・・・はい。」


ウリハルが俺を見たのを確認すると

俺は正面に向き直り続けた。


「こうするんだ。」


俺は声帯や肺を強化すると

大声を張り上げた。


「ヴィータアアアアア!!!いるかぁ!!」


アルコの飛び出しに気が付いた先頭から

行軍は停止した。

左右を固めている馬上の聖騎士も

停止の合図を後方に伝えていた。

何十万もの虚ろな視線が集まる。


集団の中、一つの馬車から会話を拾った。

「いけません。」「お止め下さい」と制止する声の中

振り切り扉を開けヴィータは姿を現した。


「ここに居るのだわ。」


葬式の時に使うような顔を隠すベールを放り捨て

ヴィータはあらん限りの声で答えた。

それまで死人の群れだった軍団が

たちまちザワつき出した。


いいね。

中の人が違っても

肝の据わり方は変わらないようだ。


「俺だぁゼータ・アモンだあぁ!

借り受けし豊穣の力ぁ今、使うぞ!許可を!!」


突然、俺が現れたというのに

何の打合せもしていないのに

ヴィータはさも自然に神々しく答えた。


「許可するのだわ。」


その声を合図に大袈裟にマントを翻すと

俺は注錫を改良した高錫を構え

暴走陣を引き

大幅に数値を改変した石壁を唱えた。


キャラバンの真横の平原に

巨大な魔法陣が浮かび上がり

オリンピックでも使わない程の

巨大なプールを生成、続けて

ウォータシュートを最大量でぶっ放す。


杖の先から

あり得ない幅、さながら滝の様に

水が吹き出しプールをあっという間に満たした。

勢いで波となった多すぎる水が

キャラバンを襲い、軽い悲鳴が上がった。


「汚いと思う者は身を清めよ!!」


ヒートアローを打ち込んで適温に上げた。


「空腹な者にはコイツだぁ!!」


俺は適当な呪文を唱える振りをしてから

ストレージから

これまで貯めるに貯めまくった肉

(割合的にはほとんどドラゴン)を

取り出してはテーブルサイズの石壁を生成しながら

ジャンジャン乗せて行った。


都合良く追い風がその匂いを

群衆方向へ流した。


大量の水と食料

そして前降臨の英雄の名。

人々の目に輝きが戻って行く


「ゼータ・アモン?」

「ヴィータ?」


群衆から口々に洩れる言葉。

先程までの美味しい感情が嘘の様に

不味い感情へと変わり

後方へ伝播していった。


「そして、ご指名の人物をお連れしたぜ。

思いのほか時間が掛かっちまった。悪いな。」


俺はそう言って仰々しく

後ろの御者席を両手で促した。


ウリハルが俺を見る。

俺は小さく頷いた。


ウリハルはさり気無い動作で

涙を拭きとると片足を御者席の先端に乗せ

堂々と名乗りを上げた。


「遅くなり申し訳ございません。

ウリハル・ヒリング・バルバリス!ここに!」

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