第四百七十二話 なんとなくじゃなくクリスタル
たなびく尾、その最先端が
ヴァサーのガイドの正確さを証明した。
成層圏、ここまでの高高度になると
飛行機雲は発生しない。
大気が薄すぎて発生源となる水分が無いのだ。
それでもたなびいている軌跡は当然、雲では無かった。
光の粒子とでも言おうか
さながら流星のようだった。
視点変更を駆使して標的の外観を見ようと試みた。
「かっけー。」
思わず声が出た。
初見の印象は一言で言うなら
クリスタルで出来たステルス戦闘機だ。
全長10m程度の三角錐
その表面はCDの記録面の様に
見る角度、その僅かな差で様々な色を
表面に醸し出していた。
機体後方部、翼に当たる三角の一辺から
対角の翼までに射出口が二つ等間隔で並んでいた。
そこから光の粒子がすごい勢いで噴出されていた。
デビルアイで解析しても、成分はよく分からなかった。
ただ体外にでた瞬間にその物質は数万倍に気化していた。
その文字通り爆発的な膨張を推進力にしている様だ。
膨張し終わった物質は発光現象を伴う粒子となっていた。
これがたなびく尾の正体だった。
「ジェット機というよりはロケットだな。」
これなら推進力を得るために酸素を必要としない。
まぁそうでなければこの高高度は飛行出来ないのだが
「それにしても美しい・・・な。」
視点変更が可能になってから
いつだったか自分の飛行状態を客観的に
視聴したことがあったが
お世辞にも美しいとは言えなかった。
下半身ケダモノのマッチョな大男
背には蝙蝠の翼、頭部には角だ。
禍々しさ満載だ。
「ミカも綺麗だったな。」
ミカリンでは無い
最終決戦の序盤の空中戦を
俺は思い出していた。
炎化しての飛行は移動の際に
光と言うよりは火の粉をたなびかせていた。
互いに空力に依らない完全重力制御での飛行
その全力ドックファイトでは
大気の精霊が悲鳴を上げて引き裂かれていたっけな。
そう言えばこのドラゴン。
・・・ドラゴンには見えないが
とにかくこいつは空力を意識した外観だ。
重力制御は補助的な役割
主に姿勢制御で使用している事が見て取れた。
まぁとにかく
あのミカとの空中戦以来
久々の本気の空中戦だ。
「捕えた!行くぜ。」
恐らくモニターしているであろう
ヴァサーに向けてそう呟くと
俺は一気にストレガバーナーを使用し
最大巡行速から最大戦速に移行し
ドラゴンの下方部に潜行すると
どてっ腹に体当たりをぶちかました。
真後ろ
最後尾を避けたのにはいくつか理由がある。
光の粒子に接触した際に何かしらの影響がある場合
後方にいるのは宜しくない。
更に後方から突撃ではドラゴンが
少し避ければ簡単に回避されてしまうからだ。
上下方向からの突撃の場合は
多少の回避運動をされても
こちらの軌道修正は容易だ。
当てやすい。
躱された場合でも
後方からの突撃では
今度は自分がケツを取られて
攻守が逆転しピンチになっしまうが
上下方向なら上下が逆になるだけだ。
下を選んだのは
ドラゴンの限界高度がココだった場合
弾き飛ばした先は有効圏外になる。
俺は宇宙空間でも平気なので
更に有利を取れるからだ。
体当たりは成功した。
体当たりの衝撃で鱗が散らばった。
遠目ではつなぎ目が確認出来なかったが
クリスタルと思われたのは
奴の鱗の表面が半透明だったからだ。
継ぎ目が見えない程、精巧に折り重なっていたのだ。
『★%”!!』
悲鳴のようだ。
無理に訳そうとせんでもいいぞ。
普通に耳に聞こえたギャオーで良いんじゃないか。
してやったり
俺は体当たりの成功に
ほくそ笑んだが
事態は予想外な方向に展開した。
「ガハッ!!」
体当たりし返された
それも、刹那の瞬間にだ。
ドラゴンが吹き飛ばされるつもりでいた俺は
油断もあって綺麗に体当たりし返された。
「!?」
一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。
取り合えずデビルバリアを全力展開して
追撃から身を守ったが
追撃は来なかった。
ドラゴンは滞空する俺に構う事無く
墜落の状態に移行していた。
三角錐に見えたのは
首や手足、翼を器用に折りたたんでの飛行形態だったようだ。
互いの体当たりで飛行形態は崩れ
ドラゴンの外観にフォームチェンジしていた。
巨大な三角錐は今度は
幾つも三角錐からなる
クリスタルドラゴンの姿になっていた。
態勢を立て直すべくもがいていた。
少しカワイイ。
「見事な変形フォームだ。」
〇ガイムMarkⅡよりも見事な変形だと思った。
「何だ?」
今の体当たり返しは
体当たりでは無かったのか
まるで体当たりした先に壁でもあったかのような事態だった。
それならば、このクリスタルドラゴンの惨状は
理解出来る。
体当たりで吹き飛ばされ
壁にぶち当たり跳ね返って俺にぶち当たったのだ。
今も態勢を立て直すべくもがき
翼途中の噴射口からミスファイアの様に
光の爆光が不規則に瞬いていた。
しかしその努力も虚しく
錐揉み状態に入り
その体を炎が覆い始めた。
超音速で大気の濃度が高い高度まで落下していたのだ。
「そのまま燃え尽きないかな。」
俺の期待通りにはならずドラゴンは
大気のブレーキを上手に利用し姿勢制御に成功したようだ。
錐揉み状態から立ち直ると
飛行形態に体勢を戻し
一度だけ俺を睨むと高度を急速に落として行った。
「逃すか。」
バリアに割いていたリソースを移動に戻すと
俺は再加速して後を追った。




