第四百七十 話 いつもすれ違い
「すんげぇ爆睡したと思ったんスけどね。」
目が覚め、キャリアから出て来たチャッキーは
外が夕暮れである事を理解し
そう言った。
小一時間の睡眠だったと思って居る様だ。
「丸一日、すっとばしてるから」
24時間以上も寝ていたのだ。
これまでの旅路が如何に過酷なものだったのかを窺わせる。
チャッキーは俺の返事に驚かなかった。
確認の為の一言だったようだ。
大量の水分排出と補給を済ませると
空腹を訴えた。
俺はストレージから適当に食料を取り出すと
選ぶ様子もなく出されるがまま
かぶりついた。
ミカリン作のハズレ肉も
文句も言わず平らげていく
すまんな。
「すまんな、こんなモノで」
元敵の用心棒に上等肉を食わせたのに
かつての仲間、最終局面では恩人でもある
チャッキー君にハズレ肉だ。
ちょっと罪悪感を感じた。
「上等ッスよ。」
本気で不満は無い様だ。
腹が膨れた頃を見計らって
茶を出し、話を始めた。
アンドリューはまだ爆睡中。
ウリハルは食料調達の狩りをさせてたので
この場にいない。
チャンスだ。
「マジで気が付いていないんじゃないスか。」
アンドリューが勇者の剣を光らせた。
この事から、裏の事情に勘付いたのではないか
俺はそう相談したのだが
チャッキーは意外にも心配していない様子だ。
「いや、いくらアイツでもおかしいと思うだろ・・・。」
「それだけで、事実まで辿り着くのは無理があるッスよ。
みんながみんなアモンさんみたいに裏を読んだり
考え込んだりしないですって」
勘付いていない。
チャッキーの推察通りならば
ウリハルの様子に変化が見られないのも納得だ。
この事実を知りつつ周りを気遣い
平穏を装っている可能性よりも
納得しやすい。
平穏を保てるような内容じゃないからな・・・。
「ただ、やっぱり居合わせ続けるのは危険っス」
そこは同意だ。
「そう言えばドコへ向かっていたんだ?」
ドコでもないそうだ。
単純に竜の襲撃からの逃避行の末だった。
「ならバリエアに向かえ」
「どういう仕組みか分かんねぇけど
アイツ等は確実にアンドリューを補足し
執拗に襲って来やがる。
だもんで首都に危険を持ち込むのはマズいっすよ。」
支配種である人類
その勇者には種としての存在の力が強大なのだろう
相手としては、この戦いにおいて真っ先に亡き者にしたいNo1だ。
この戦いを想定してでは無かったが
ハンスがガバガバやセドリックに秘密してまで
アンドリューを隠した事は最善手だったと言えた。
バングやメタボには有効だったが
残念ながら
竜には嗅ぎ分ける能力があったようだ。
「だからこそだ。」
俺はヴァサーの防空網
ベネットの地上線をかいつまんで説明した。
「魔王と魔神が人類を守ってるって事ですか?」
突拍子も無い話だが
チャッキーの表情には疑念の色は無かった。
まぁ俺という実例を知っているからな。
「悪魔としても人類に滅んでもらうと
都合が宜しく無いんだ。
餌には健康な状態で居てもらいたいんだよ。
だから感謝の必要は無い
上手に利用してしまえ。」
俺は現在のバリエアの状態を説明した。
エロルは竜を迎え撃つための準備を
急速に進めるだろう。
彼等の戦力はバリエアにとって朗報だ。
拒否するハズは無いが
念の為、エロル宛の書状を持たせよう
まぁガバガバとは旧知の仲だから
会えば顔パスだろうが
そこでも出来ればアンドリューは
鉢合わせたくない。
「逃げながら迎え撃つよりも
安全に眠れる場所を確保して戦う方が良いだろ。」
「ハハ・・・それは身に染みました。」
無理を推しては緊急時のみの手段だ。
通常では絶対に継続してはいけない。
「戻りました。あ、お目覚めですね。」
これからの方針の打合せが終わった時
丁度よくウリハルが帰ってきた。
自分よりも何倍も大きい牛の様な獲物を背負っていた。
学園からこれまでで
ウリハルも大分野外活動スキルが上達したな。
ウリハルの狩りの成果を早速調理し
夕飯の準備をした。
出来上がる頃、アンドリューも目を覚まし
皆で食事をなった。
さっき食ったばっかりだと言うのに
チャッキー君は普通に夕飯も平らげた。
食事中、ウリハルが露骨にアンドリューを
無視している事に気が付き
俺は慌ててウリハルを連れ出し
普通に接しろと言った。
「え?よろしいんですか。」
「ああ、俺はもう大丈夫だ。
それよりもアンドリューがショックを受けている。」
今も俺の悪魔耳では
席を外したチャンスにアンドリューが
チャッキーに相談している声を捉えていた。
「俺、何か気に障る事しちゃいましたかね・・・。」
「女心は考えても分からん。」
チャッキー君、もう少しマシなフォローを




