第四百六十九話 告げるべきは
「会わせちゃマズいって言ってるじゃないスか。」
戦闘が終了し、互いの無事を確認し合う
ウリハルとアンドリュー。
外から見ていて非常に微笑ましく
照れくささとギコちなさ加減が
青春そのものだ。
うーん
汚れ切った俺には眩しい光景だ。
そんな二人に
近づけず遠くから眺める俺に
チャッキーは小声でそう詰め寄って来た。
「何言ってんだ。ウリハルが飛び込まなきゃ
アンドリュー、ヤバかっただろ。」
間に合う様に投げたんだけどね。
「ソレ結果論っすよ。前提の話っす。」
論点ズラしも通じず
キッチリ戻された。
ちぃ
意外と言うのは失礼かもしれんが
チャッキー君賢い。
「前提ねぇ・・・俺はお前らに
どうしてろって言ってたっけか。」
仕方が無い真面目に話すか。
会わない様に気を使って行動していた自信はある。
困るのはそっちだぞ。
ヒタイングでの邂逅時
二人には勇者の隠れ里に引きこもって
鍛錬してろと言っておいたのだ。
「・・・それなんですが。」
痛いトコロを突かれたと
弱気になるのかと思って居たが
予想外に声は低いトーンに変わり
肝が据わった様な目になった。
そうしていたかったが
それが出来ない状況になったと言う事だ。
好きで飛び出して来たんじゃないのか。
「何かあったのか。」
俺の問いかけにチャッキーは
言葉を選びながら淡々と事実を
時系列に沿って話てくれた
話は感情に左右されると
しっちゃかめっちゃかになってしまいがちだ。
それを避ける為にチャッキーは
まるで他人が書いた文章を読むかのように
事件を説明してくれた。
お陰ですんなりと理解出来た。
一言で言うと
勇者の隠れ里は竜の軍団の襲撃を受けた。
今どうなっているのか彼等にも分からない。
何故分からないのかと言うと
戦闘の最中
チャッキーは竜がアンドリューを狙っている事に気が付き
里への被害を食い止める為に
アンドリューを連れ強引に里を飛び出したのだ。
チャッキーの予想通り竜は
二人を執拗に追撃して来た。
そんな状況なので人里に逃げ込むワケにも行かず
出来る限り人気の無い場所を選んで
ひたすら逃避と迎撃の日々だったそうだ。
「良く生き残って来れたな。」
栄養補給や睡眠を必要とする人間が
安全な居住スペース無しに
大したモノだ。
俺は素直に感心した。
「いやぁ恥ずかしい話ッスけど・・・。」
竜達は大体が大型なので
洞窟や峡谷など狭く入り組んだ地形を
選んで進めば迎撃は
さほど大仕事でも無いそうだ。
「恥ずかしくない。賢いぞ。
それは英知という人類の武器だ。」
武闘家のチャッキーとしては
卑怯な感じがして気が引けた様だが
相手はケダモノだ。
こっちの誠意に感動して
心を開く事はあるまい。
一対一の決闘の申し出に
応える事は無いだろう。
蹂躙されて終わりだ。
「空を飛ぶ奴が結構厄介だったんですが
ここら辺に来ると不思議とパッタリ遭遇しなくなったんで
助かりました。まぁそのせいで気が抜けたのが
今回の騒ぎなんですけど・・・。」
ヴァサーの防空網だ。
ワイバーンに関しては安全だからな。
視線の先
アンドリューがウリハルに勇者の剣を
返却しているが目に入った。
あの銀色の輝きは実に見事だった。
だったが
剣の腕は素人だ。
勇者の剣の力で斬る事が出来たが
普通の剣だったらアンドリューは助からなかっただろう。
俺はその事を思い出し
チャッキーを責めた。
「それにしても何だ。アンドリューの剣の腕は
素人以下だぞ。」
「はい。教えてないっス。」
悪びれる様子も無いチャッキーに
俺は少し苛立ち追及した。
「何故教えなかったんだ。」
「俺が出来ないっス。」
そうだった。
話したい事が沢山あるが
今の彼等に必要なのは休息だ。
俺はアモンキャリアをストレージから出し
今日はここで宿泊する提案をした。
久しぶりの風呂とちゃんとした料理に
二人は喜んだ。
その日の夜はロクに話せずに
二人は熟睡した。
俺とウリハルが見張りをするから安心しろと言うと
チャッキーは恥ずかしそうだったが
喜んで享受しアンドリューもそれに倣った。
「すごいいびきですね。」
夕飯の後片付けを終え
休憩している俺達の後ろ
キャリアの中から豪快ないびきが聞こえて来た。
不快ではない様子
むしろ微笑ましくウリハルはそう言った。
「気が休まる暇が無かったんだろうな。」
今は完全に無防備だ。
「どっちのいびきなんだろうな。」
どうでも良い事だが
何となく俺はそう言った。
「チャッキー様ですよ。」
ウリハルはそう断言した。
どうやって判別してんだ。
まぁいいか
今の内に二人で話す事を話してしまおう。
俺は改まってウリハルに話しかけた。
「ハル。」
「・・・今はウリハルで大丈夫ですよ。」
身分を隠す為にアンドリューの前では
前回と同様偽名のハルで通していたのだ。
「ウリハル。」
「はい。魔勇者様。」
意を決して話を切り出したものの
どう話して良いか分からない。
アンドリューこそが勇者。
そこをボカして話など不可能だ。
そしてこの事実は幾つも刃となって
ウリハルを切り刻んでしまう。
ウリハルは勇者では無い。
二人は血縁関係。
アンドリューとの恋は叶わぬ願いなのだ。
隠し子の存在は
両親への信頼関係に良い効果は
どう考えても無い
自分が勇者と信じて
物心つく頃から文字通り血のにじむ鍛錬に
その身を投じて来たのに
ウリハル自身が真の勇者を守る為の疑似餌
囮だった。
この事実は心を破壊するに十分だろう。
言えねーよ、こんなの!
一体、どうなっちまうんだ。
俺の葛藤に気が付いていないのか
ウリハルはその大きく綺麗な青い瞳で
俺を覗き込み、俺の言葉を待っていた。
黙ってるとカワイイな・・・。
「ど・・・どうかなされましたか?」
やっぱり、声は変だな。
俺の沈黙が長かったようだ。
ウリハルはそう聞いて来た。
これ以上沈黙は出来ない。
しかし良い切り口も見つからない。
考えがまとまらないまま
患部を放置し安全圏から
俺は話し出した。
「ア・・・アンドリューとはあまり仲良くするな。」
なんだそりゃ
駄目だ俺は
毎回言っているが
嘘は苦手なんだ。
真実直球勝負がしたい。
「・・・え?」
ウリハルは覗き込んだ状態から
ちょっと引きつつそう言った。
目をパチクリさせて
俺の言葉の裏の意味を推察している様子だ。
良かったー!
ここで「何故ですか」と聞かれたら
その時点で俺の詰みだ。
いいぞ考えろウリハル。
そして俺も思いつかなかった
とても良い理由を言うんだ。
さぁ早く
「えっ?ええ・・・やだぁ」
ウリハルは両手の平を両頬に当て
クネクネしながらそう言った。
「魔勇者様・・・嫉妬しているのですか?
ウフフやだぁ。」
はぁ?
何を言っているんだこのチンチクリンは
・・・しかし
俺が思いつかなかった
誤魔化す為の良い嘘ではあるのか
仕方が無い
俺は若干悔しさを滲ませ
それに乗った。
「そうだ。」
何、この敗北感。
俺が謎の敗北感に見舞われている最中でも
ウリハルはご機嫌に「やだぁ」を繰り返し
クネクネしていた。
くそムカつく
「違いますよ。アンドリューとは
そういうんじゃありませんよ。」
俺とだって
そういうんじゃあないだろう!
・・・え
そう思っていたのは俺の方だけなのか
・・・嘘だろ。
一頻りクネクネ悶絶をして
落ち着くとウリハルは
妙に優しい笑顔で言った。
「安心してください。」
いや
余計不安だよ。
一体、どうなっちまうんだ。
俺の方が




