第四百六十五話 ご指名案内係
シキ家当代の説明によると
この指輪が保証する身分、これより上は
王族しかいないそうで
いかな貴族だろうが大臣だろうが
平服するのみだそうだ。
「あのような軽々しい態度不敬極まる。教育が足りなかったようだ。」
ナインだけでなくアラハにまで
カミナリを落とす当代に
居心地が悪くなった俺は
俺自身が無礼講で良いと言ったのだと
当代に説明し
ようやく叱責を止めさせたが
全然、納得しては居ない様子で
そう独り言を呟いた。
まだぶつぶつ言いたそうな当代に
俺は聞く耳を持たず言った。
「いいからもてなせ。」
叱るにしても客人の前でするなよ。
このカミナリ親父め
まぁでも裏表の無い実直な人物である事は十分伝わって来た。
貴族などと言うと裏では何を考えているか分からず
表向きの好人物の仮面を脱いだ裏では
汚い暗躍を想像しがちだが
この当代に限ってはそれは無いと思える。
それが騎士の筆頭と言うのだから
バルバリスはかなり健全と言えた。
そうなったのは時代背景の影響も大きいのだろう。
魔族との抗争、前降臨での大破壊。
他種族の手を借りて、そこからの復興だ。
策を巡らせてる余裕などありはしない。
大勢を束ねるカリスマと信頼は
この実直さと実力だ。
この当代の実力を
見てはいないがテーンの実力を見れば
想像はつく
それも戦乱の中を生き抜いて来た。
実戦の生きた剣なのだろう。
「ハッ!昼食会を急いで準備させます故
しばし別室でおくろぎください。」
当代は俺にそう言うと背後に振り返り叫んだ。
「お☆ghjk!!」
話し方のクセが強すぎて
何て言っているの俺には分からなかったが
当代の号令で執事メイド軍団は
一斉に動き出した。
分かるんだ。
馴れれば分かるのだろうか
それとも淘汰の果てか
理解出来た者だけが残ったのか。
「ご案内いたします。」
執事長と思しき老人がそう申し出て来た。
かなりの高齢に見えるが
背筋もピンと伸びいて年齢を感じさせない。
それに強そうだ。
気になったので
解除されてから表示を止めていたレベル表示を
俺は再起動させた。
表示されたレベルは39だ。
「ディーンより上じゃねぇか。」
ディーンだけじゃない
ブットバスでも敵わないだろう。
なんで執事が裏の世界でちょっとは名の知れた用心棒より強いんだ。
この館の仕事は裏の世界よりも過酷って事なのか。
流石は筆頭騎士の館と言うべきなのか。
思わず声に出てしまい
「何でしょうか?」と怪訝に思われてしまった。
俺は笑いながら何でもない気にするなと言い
笑い続けた。
まだ笑って居る俺をよそに
ナインとアラハは人目の少なくなった廊下の辺りで
執事長と親し気に会話を始めた。
会話の内容から察するに
この執事長は引退した戦士で
当代の配下、多くの戦士団を纏めていた
所謂、右腕的存在で
幼い頃のナインやアラハも遊びがてら
剣を教わっていたようだ。
どうりで強いワケだ。
「時間まで館内を案内いたします。
案内係を寄越しますので
こちらでお待ちください。」
俺達は館の一室まで案内され
執事長にそう言われた。
「ん?じいさんが案内してくれるんじゃないのか。」
ナインとアラハの様子を見ていると
このまま執事長を一緒の方が良い様な気がしたので
俺はそう尋ねた。
「ハイ、私もそう出来れば光栄なのですが
親方様から直々に案内係を指定されておりますので。」
力関係的には俺の方が上のハズだ。
指輪を翳して命令すれば断れないのだろうが
そこまでする必要は無いだろうし
こんな事で主の意を背かねばならない苦痛を
与えても意味は無い。
俺は大人しく待つ事にした。
待っている間もナインとアラハは
執事長の思い出話に花を咲かせていた。
あまりに盛り上がるアラハにナインは
突然何かに気が付いた様に窘めた。
「君の仕事は国賓のお世話だ。」
完全に放置状態になってしまった俺を気遣ったのか
別に良いのに。
「あっ!!スミマセン!!つい!!!」
ナインに言われてアラハも気が付き
顔面蒼白になって謝罪を始めた。
俺は笑って快諾した。
面白いから続けろとも言ったのだが
流石に「そうですか」と続行するような厚顔無恥な二人では無く
何とも妙な沈黙が始まってしまった。
気まずいとまでは行かないのだが
居心地の悪い静けさだ。
俺から話を振るべきか。
いや
何で俺が気を使うんだ。
そんな微妙な空気を
ぶち破る救世主が到着した。
案内係を指名されたメイドが入室して来たのだ。
背が高く、髪はどうやってんのか分からない結び方で
綺麗に纏められていた。
顔は
おいおい
何ですか
シキ家はメイドまでシキ顔なんですか。
そういう顔しか存在出来ない空間なんですか
まるでテーン先輩がメイドに
「テーン!!」
「お・・・お兄様!!どうして!?壁外で任務では」
まるでじゃなくてテーンそのものだった。
「テンちゃん!!やだカワイイ!!」
「げっ!アラハさんまで!!何で居るんですか」
「いやああカワイイカワイイ!!」
急激にテンションMAXになるアラハ。
対象的に羞恥心に翻弄されるテーン。
「止めて下さい!!見ないで下さい!!」
「何で!もっと見せて絶対カワイイよ!!キャーっ!!」
参戦するか。
「どれ俺にも良く見せろ!!」
アラハが盾になって隠れるような位置になっていた俺は
アラハの陰からそう言って躍り出た。
俺を確認したテーンは
見た事も無い程、目が丸くなって叫んだ。
「げぇええええええ!!」
じっくり料理しよう。
打合せした訳では無いのだが
三人の方針は一致していた。
取り囲み舐める様に見て回る。
「鎧より似合うんじゃないか。」
「いやーウチでメイドになってぇええ」
「うん。カワイイぞ先輩」
羞恥に悶絶するテーン。
何かこっちのMPを吸い取られそうな動きだ。
恥ずかしさで人が死ぬなら
間違いなく今逝くだろう。
そのぐらいテーンはワケわかんなくなっていた。
「うはは、ちょっと空飛んでクワン連れて来るわ。」
一番喜びそうだ。
「駄目だぁあああああ!!!!」
物凄い力で俺はテーンに取り押さえられた。




