第四百六十四話 シキ家の当代
その後の話は奇妙な事になった。
この仲良しチームの人数に
アラハとナインで記憶違いが発覚したのだ。
この二人にバイスを足した三人組だと主張するアラハに
もう一人誰か居た四人組だとナインは言った。
もう一人誰かって
ナインも随分だな。
ほぼ忘れたも同然じゃねーか。
俺の心の突っ込みそのままに
アラハがナインを責めた。
名前すら思い出せないナインは
強くは言い返せず恐縮するが
当時の行きつけの店
お決まりのテーブル
その四人掛けのテーブルは満員だったと言うと
アラハの態度も変わった。
「・・・確かに・・・そうだった気がする。」
「それに僕は花寮代表で君は星寮
バイスは月寮・・・後、雪寮の代表が居たハズなんだ。」
まるで自分に問いかけているような
ナインの自信無さげなその一言は
アラハを決定的に混乱させた。
「そうよ!各寮の代表の集まりが
私達チームだったわ!!
どう言う事??何故、思い出せないの・・・。」
ピンと来た俺は
話に割り込むべきか悩んだ。
これは移動だ。
その雪寮の代表君とやらは
既に移動を終えているのだ。
存在の力ごと、この世界から離脱してしまったのだろう
人々の記憶からも消えてしまうのだ。
恐らくはスイッチを切る様に突然消えるのでは無く
湯が冷めて行くように
薄い雲がやがて見えなくなる様に
ゆっくりと軟着陸し現実との齟齬を
最小限にしているのだと思われた。
しかし、今この二人に起きている様に
過去の事実と符合しない証拠が
消えた記憶を再点火させようとしているのだろう。
しかし、無くなってしまったモノは
もう無いのだ。
思い出す事は不可能だ。
勘違いとして記憶を修正していくのだろう。
俺は割り込むのを止めた。
移動を理解してもらえるか微妙だ。
というか面倒くさい。
仮に力説して納得させたとしても
やがて自身にも訪れるであろう移動に
不安と恐怖を植え付けるだけだ。
そして対処法は無い。
いや対処しちゃいかん。
無事に次世界に移動してもらわねばな。
ゲカイは無事に移動出来たのだろうか。
俺のゲカイの記憶もゆっくりと消えてしまうのだろうか
パンツだけでも貰っておくんだった。
まぁ次世界に移動してさえしまえば
世界が滅んだ事にも気が付かずに
合流した事すら気が付かず
いきなり普通の日常がスタートしているハズだ。
俺は改めて割り込むのを止め
長椅子に戻った。
二人は奇妙な記憶の異常に
熱心に語り合っているが
当然、結論は出ない。
消化不良のまま馬車はアップタウンにある
シキ家に到着してしまった。
「デアス様、到着致しました。」
寝ている振りをしている俺を
アラハはそう言って起こして来た。
まだ混乱の最中だろうに
それを感じさせない普通の調子だ。
「・・・ん?あぁ今起きる。」
俺の演技の方がイモかもしれない。
狸寝入りに気が付いているのか
アラハの返事からは俺には察する事が出来なかった。
まぁどっちでも良い事だ。
シキ家の邸宅は居城と呼んで良い大きさだった。
ヒタイングの城より間違いなくデカい。
ゴメンよオコルデ。
歴史のある家柄にも関わらず建物は新しい。
王城と同様に立て直されたモノなのだ。
執事やメイドもスゴイ人数出て来て
一列に並びナインを迎えた。
そんなに出て来る必要無いだろうに
こう思うのは庶民の発想か。
「ナイン!貴様ぁ仕事はどうしたのだ!!」
エントランスの奥からナインが年を取ったような
大男がそう大声を出して出て来た。
「お久しぶりでございます。おじ様」
ナインが答えるより速く
アラハが上品に挨拶をして
理由を簡潔に説明した。
うん、便利だなインスペクター。
あらゆる事が円滑に運ぶぞ。
アラハの説明に大袈裟に相槌を打・・・
いや、これがこの人の普通っぽいな。
相槌の声も怒鳴っているのかと思う程でかい。
この初老の大男。
恐らく、いや間違いなくナインの親父だ。
顔には深い皺が刻まれ
頭髪も少し寂しいが
顔を構成しているパーツは
ナインやテーンとそっくりだ。
何だ
シキ家って
この顔以外は認められない決まりでもあるのか。
俺が笑いを堪えていると
流れでアラハが俺を親父に紹介して来た。
俺は合わせる様に指輪がハマった手を見せた。
指輪を確認した親父は
更にデカい声で吠えて跪いた。
「皆の者!!頭が高いぞ!!!」
シキ家の当代が地面を砕く勢いで
跪き大声を上げた。
それまでの優雅な雰囲気が一瞬で消え
執事メイド軍団は慌てふためき
当代に続いて跪き始める。
親父が跪いているのに
自分が突っ立っているワケにもいかない。
ナインも慌てて親父の横に移動すると
一歩下がった位置で跪いた。
俺も全力でナインに同期し
ナインの横で跪いた。
こうして全ての人々はアラハに屈した格好になった。
「いやあああああああ!!」
冗談だったのだが
アラハからは
後で涙目で激しく抗議された。




