第四百六十三話 花の九期生達
バルバリスの基幹と言える二つの派閥、教会と王家だ。
実は三つ目の基幹がこれらに隠れる様に存在している。
商会、要するに金を牛耳る組織だ。
弱小国家だったバルバリスが教会を迎え入れ
国教を制定してからは破竹の勢いで
勢力を拡大していった。
商会は教会とも王家とも
密接に結びついては影で二つを支えて来た。
歴史上、度々対立があった教会と王家だが
商会は対立などどこ吹く風だ。
何にせよ金は必要なのだ。
どちらが覇権を握ろうが
商会的にはどちらでも良いのだ。
強いて言えば、より金を回す方の味方だろう。
対立に及ぶ主義が無いのだ。
ガルド学園、花の九期生。
奇跡の世代と呼ばれているそうだ。
教会のサラブレッド
伝説のスーパー生徒会長、バイス・ヒルテン。
筆頭騎士、その次世代を担うナイン・シキ。
王家にも教会にも会計として深く結びついている商会の一族。
そのファミリーの中でもぶっちぎりの商才を持ち
次期当代を期待されている才女、アラハ・バキ
この三名が同級生として在籍していた黄金の期間だそうだ。
手下の一人が俺にそう教えてくれた。
同級生ね。
それは会えば
さぞ昔話が盛り上がるだろうさ。
俺は完全に放置され
ナインとアラハは笑顔で話しっぱなしだ。
いい加減にしないと爆破すんぞお前ら。
わざとじゃない。
本当に痰が絡んだのだ。
俺は自然に咳払いをしてしまった。
しかし、二人はギョッとしてしまい
会話は中断になってしまった。
「もももも申し訳ございません!!!」
「彼女は悪くありません!私が話掛けてしまったせいです。」
あゴメン
怒ってないよ。
「ナイン・・・何でも罪を被るクセ
止めなさいっていつも言っているのに。」
「こればっかりは引けないね。私は騎士なのだから。」
「・・・もう。」
「ふふ。」
即再開しやがった。
すげぇ根性だな二人共。
成程これが奇跡の世代か
手の打ちようが無いぞ。
よし
諦めよう。
しかしただ、突っ立っているのも嫌だ。
座りたいぞ。
俺は会話を遮るようにアラハに
次の目的地を要求をした。
アラハの返事の前にナインが声を上げた。
「わっ私の家ですか?!」
「筆頭騎士の御屋敷とやらを是非見てみたい。」
本当は幽閉されているであろう
テーン先輩をからかいたいだけなのだが
俺は異論を認めない勢いでそう言った。
「お・・・お願い出来ないかしらナイン。」
アラハの所属している組織の権限では
強制出来ない様子だ。
「いきなりは・・・それに今は警らの任務中です。」
おい
何が警らだよ。
手下ほったらかしで
がっつり同級生と談笑してたじゃねぇか。
俺は指輪を見せつつ
先程、俺に二人の関係を解説してくれた手下に
凄もうとした。
何となく彼が副隊長っぽい気がしていたのだ。
しかし副隊長は俺がそうする前に
気を回して発言して来た。
「警らは我々だけで続行可能です。
隊長はどうぞ国賓の警護に着いて下さい。」
気が利く男だ。
ウチの女子連中も見習ってほしい・・・
アリアとグレアは除く・・・アルコも除こうかな。
うーんミカリンも何だかんだで気を使ってくれているしなぁ
あれ
どう言う事だ?
ブリッペ以外は気が利くぞ。
・・・・そうか俺が悪いんだ。
俺は考えを振り払い言った。
「決まりだ。直ぐ出発するぞ。」
俺は強引にナインを連行しアラハと馬車に戻った。
足を伸ばして横になりたい。
少し眠るのでトバすなと念を押し
二人を御者席に誘導した。
好きなだけ話すが良い。
ナインは優雅な仕草でアラハをエスコートし
アラハもこれまた馴れた様子で御者席に乗り込んだ。
その後に自身も乗り込む。
手綱はナインが受け持つ様だ。
ゆっくりと馬車は走り出した。
「ナインの御屋敷、私何年ぶりかしら。」
「ベレンの別宅では無いこちらの本家だと
学園に入る前だから、もう随分と前になるよね。」
悪魔耳も使用していない。
盗み聞きをするつもりも無いのだが
自然と会話が聞こえてしまっていた。
「試練の塔、まだあるのかしら。
また登頂して見たいわ。」
「あるよ。ふふ、やっていくかい。」
何ソレ
噂に聞くシキ式ブートキャンプのメニューに
そんなのあるんですか。
何
各階にボスが居て
そいつらを倒しながら最上階を目指すのか
子供の頃からそんな事しているから
二人ともガタイが良くなったのか
話はその後も盛り上がり
話題は今ここに居ないバイスに移った。
「しかし彼との交際を断るとは予想外だったよ。」
俺は長椅子から転げ落ちた。
他人の趣味に口出ししてもしょうがないが
おい伝説のスーパー生徒会長
お前の趣味、ちょっとおかしくないか
お前程のイケメンなら
あんなおっかない顔のアラハより
もっと美人といくらでも付き合えただろうに
「とにかくモテモテだったよね。
角を立てずにどう断るのか
苦悩していたバイスに良くアドバイスしたものさ。」
以前、バイス本人から聞いた
女子への対応アドバイザーがナインだったか。
タイプは違うがナインもイケメンだからな。
俺はしたたか床に打ち付けた肘をさすりながら
長椅子に戻ろうともがいた。
「以前も話たけど・・・私・・・怖いの。」
長椅子に帰還しようとしていた俺は
再び床に転がった。
いや
怖いのはお前の顔だって
「彼の中の黒い炎だっけ・・・。」
「ええ、揺るぎの無い確信に裏打ちされた
執念と言えば良いかしら。
その野心がいつか彼を周りを破滅に導く気がしてならないの。」
「・・・彼の根底は間違い無く正義と信仰だよ。
決してアラハの心配している様な事にはならないさ。」
いや
危なかったぞ。
あのまま野望に突き進んでいたら
確実にクーデターコースだった。
もう大丈夫な事を教えるべきかとも思ったが
こいつらなら今のバイスに会いさえすれば
直ぐに分かる事だろう。
俺が余計な世話を焼く必要は無いな。
俺は長椅子に戻って再び寝転んだ。




