第四百六十二話 職質されると自分ってそんなに怪しいのかと不安になるよね
会計の手続きはアラハが行った。
背後からその様子をじっと眺めるのも
何だか失礼な気がしたので
先に表へ出た。
庶民が暮らすダウンタウンだが流石首都だ。
無駄に皿がデカかったり
ソースが筆記体の様に掛けられていたりと
小洒落ていた。
たらふく食って膨れた腹をポンポンと叩いていると
屈強な肉体を持つ男達に取り囲まれた。
「失礼ですがミスター。」
その男達の中でもリーダー格と思しき人物が
そう言って俺に話しかけて来た。
ミスターって
翻訳機能がおかしいのか
本当にそう言っているのか
どちらにしても面白い。
俺はたまらず噴いてしまった。
手下共はあからさまに嫌悪の表情に変わるが
リーダー格はまるで動じる事無く続けた。
見事な体格に反して綺麗な顔立ちだ。
尖がった鼻に切れ長の目で
一見すると強面だが
声の調子や物腰の丁寧さで
見た目を裏切る好印象だ。
なんだろう
誰かに似ている気がする。
俺か?
『ブッ!!』
幻聴ババァルがマジ受けした。
はいはい
どうせ俺の場合はただのブサ面ですよ。
「身分証を確認させて頂いてもよろしいでしょうか。」
俺の考えをよそにリーダー格は話を続けて来た。
連中の服装は統一されておらず
各自バラバラだ。
しかし誰もが帯剣していた。
高価そうなレイピアから
使い易そうなショートソードなど
得物もそれぞれだ。
これはわざとだ。
所謂、私服警官的な存在なのだろう。
仲間が何人いるのか一見で判断されない為だ。
ポケットに突っ込んだ手を出し
指輪を見せれば即解決なのだが
面白そうだし
アラハが出て来るまでヒマだし
俺はからかう事にした。
「はぁ?お前こそ何者なんだ。」
俺の反応に先ほどまでの嫌悪の表情から一転
愉悦に満ちた笑みに変わる手下共
リーダー格だけは冷静なまま
俺の質問に答える様に
自身の肩を隠している短めマントを捲った。
その腕には腕章が付いていて
金属プレートに凝った腕章が刻まれていた。
リーダーの仕草に連動する様に
ある者は懐から手帳タイプを
ある者は胸ポケットに入る様にぶら下げていたバッジを
それぞれ取り出してドヤ顔で俺に見せた。
折角のドヤ顔に申し訳ないが
そんな紋章知らん。
リアクションが取れず
呆けている俺にリーダー格は言って来た。
「ジャッジメントの者です。」
俺はまた噴いた。
くそぅ
流石はリーダー格
面白いじゃないか。
「おい、ふざけるなよ黒髪野郎!」
笑う俺に対し
手下共の中から、いかにも尖がった新人っぽいのが
俺にそうすごんで来た。
連動して他の手下共も恫喝を始めるのかと思ったが
事態は予想外の方向に流れた。
「おい!バカ!!」
「差別発言です!」
「これは報告書に記載されますよ!」
他の手下共が一斉に尖がった新人に詰め寄った。
これまで表情を変えなかったリーダー格までもが
狼狽えた様な顔をしていた。
「・・・訴えますか?」
リーダー格は恐る恐る俺にそう聞いて来た。
「はぁ?何を」
意味が分からない。
「今の差別発言です。我々の明らかな失態です」
アホかこいつら
「訴える事は無い。
現に俺はふざけていたし黒髪だ。
彼は事実を指摘しただけだろう。
それが罪なら俺の存在そのものが罪だぞ。」
仲間から一斉にやり込められ
泣きそうな顔になっていた尖がった新人君は
俺の言葉に目を輝かせた。
意外な所からの助け船だったようだ。
リーダー各は胸を撫でおろし
説明を入れた。
「いえ、存在そのものが罪とは
決してそのような事はありません。
しかし未だ解決を見ない魔族問題を
考えると過剰とも言える対策を
取らざるを得ないのも事実なのです。」
黒髪=魔族。
そう言う事か
確かにバリエアに来てからこっち
微妙に感じていた居心地の悪さがあったが
この髪の毛の色のせいだったのか。
そう考えると
一周目の髪の毛の色変更は
ナイスな判断だったんだな。
「因みに俺は魔族じゃない
角も生えていなければ尻尾も無いぞ。」
本体にはあります。
「角・・・やっぱり本当に生えているのか魔族って」
「俺は学園で見たって言ったろう。」
「想像出来ない。人体に角があるなんて」
手下共は口々に言い合っていた。
見た事も無い者もいるようだ。
確かにバリエアでは見かけていないな。
「ナイン?!止めてその人は国賓よ!!」
背後から会計手続きを終えたアラハが出て来て
そう叫んだ。
「アラハ?!君がここに居るなんて
そう言う事なのか。」
ナインと呼ばれたリーダー格は
そう返事した。
不意に脳裏を過るテーン先輩の顔。
俺は大爆笑した。
性別や体格の違いで気がつかなかったが
言われてみれば顔を構成する各パーツは
テーンとそっくりだ。
間違いなく兄妹だ。
アラハが出て来た事で茶番の継続は無理だろう。
俺は諦めてポケットから手を出し
指にハマった指輪を見せた。
「ゲェ!!」
「何とぉ!!」
驚愕する手下共。
良いリアクションだが
その言葉の中に
「どうして先に見せてくれなかったんだ。」
その呟きには申し訳ない気持ちになった。




