第四百五十九話 Devilman in the Valiare
俺がドワーフ達と戯れている間に
ウリハルはナンド村防衛強化の為の
兵士の派遣をエロルに要求していた。
並びに同様の問題を抱えている地方を
炙り出す為の調査の必要性も
理路整然と訴えた。
親族はその立派な姿に感動の涙を溢した。
それまで甘やかされた我儘な姫だと
陰で揶揄していた反対派の大臣達ですら
ウリハルの成長ぶりに驚嘆と賞賛だったそうだ。
「かわいい子には旅をさせろと言うが
あんなに成長するとは・・・嬉しい反面
少し寂しいよ。かわいい赤ちゃんのウリハルは
もう居ないんだね。」
セドリック
胸の辺りはかわいいままだぞ。
「猪突猛進、飛び出した事を折檻するつもりでしたが
あの演説を聞いてしまっては叱るワケにも参りません。
本当に魔勇者殿には親子二代に渡って
世話になりっぱなし、何とお礼を申し上げれば良いやら・・・。」
おい、ガバガバ
ウリハルの猪突猛進はどう考えても
お前の遺伝とその折檻のせいだぞ。
「為政者としての血筋バルバリス。
勇者としての血筋ヒリング。
その両方を併せ持った究極の救世主ウリちゃん。
生きてて良かったと心の底から感じる。」
エロル。
ウリちゃんって完全に猪だぞ。
勝手に飛び出したからこそ得た経験。
言う事を良く聞く良い子では決して得る事の出来ないモノである。
敷かれたレールの上には転がっていない危険な石
人生とはその危険な石をどうやって処理していくかと言う側面がある。
しかし今回は良い結果に転がったからであって
その危険な石で命を落とす事も十分に有り得るのだ。
だからこそ育てる方としてはレールを敷くワケだが
それでは成長出来ない場合も多い
痛し痒しである。
「はーい、そうかそうか。」
子供自慢。
親族はしたがるが
聞かされる方はたまったモノでは無い。
俺は適当に聞き流しながら
料理に集中していた。
一応は連れ戻した礼を言っているワケだから
出て行くワケにもいかない。
だが、速く終われ。
「今回の一件で自分の未熟さを思い知りました。
もっと・・・もっと見識を広めたいです。
人を知りたい世界を知りたい。」
縁起の良い魚でごわすか
それは
鯛ですたい。
「その為の学園だったんだけどねぇ・・・。」
おいおいセドリック
ガルド学園の創設の真の理由が
その親バカじゃあないだろうな。
ベレンは壊滅状態のまま
当然、学園も再開の目途が立たないまま
封鎖休校だ。
学位とかどうなるんだろう。
「ふむ、残念な事態だが
ここは逆に考えて良かったと思うことにしよう。
そうで無ければ魔勇者殿との貴重な経験は
得られなかったのだと。」
ウリハルのポジティブ思考は
バルバリスからの贈り物か
エロルも能天気な所があるな。
「ええ、魔勇者殿との旅
それは限られた者達だけの特権。
聖導者、魔導者、技師、為政者
どの方もいずれ劣らぬ世界の宝。
・・・私は差し出した手を払い除けられてしまいましたが
娘はその手を取ってもらえたのですね。」
ん?
何だガバガバ
最後に棘があったぞ。
アレか
カッコよく飛び出したものの
どうしていいか分からなくなって
ストレガを探した時の事を言っているのか。
恨んでいるのか
えーっでもお前と同行は無理だって
あの輝きに晒され続ければ
俺は灰になるぞ。
「ウリハル、決してその手を離してはなりませんよ。」
「母様!」
「私たちはいつまでもここでお前を待っているからね。」
「父様!」
あれ
この話の流れだと
「バルバリス帝王が命じる。
アモンと共に行けぃ勇者よ。」
「じじ・・・ハイ!ウリハル参ります!!」
何か今後も同行すると誤解しているっぽいな。
失礼だとは思ったが
言うタイミングはここだろう。
俺はモグモグしながら言った。
「いや、連れてかないよ。」
温もりに溢れた温かい空間が
俺の一言で氷結地獄になった。
何か
ピシィ!!って音が聞こえた気がした。
どいつもこいつもスゴイ表情で
俺を見て固まってしまった。
俺もモグモグが止まる。
えっと・・・・。
「そんな・・・。」
「何という・・・・。」
「バ・・・馬鹿な。」
何この罪悪感
何で
俺全然悪く無いだろ
「あの・・・我はバルバリス皇帝なんですが」
「俺は臣下でも国民でも無い。」
何でも言う通りになると思うなよ。
俺はバッサリとエロルを切って払った。
青ざめた表情でセドリックが食って掛かって来た。
「娘の何が不満だと仰るのか!」
成長しないレベルとか胸とか・・・。
いや
言ったら殺される。
「いや、不満とかそう言う事じゃないだろ。
話のスジが通って無いって言ってんの。
何度も言うが俺はバルバリスと無縁だろ。
エイリアン、ゲスト、ストレンジャー、エトランゼでしょ。
部外者だ。
皇太子の1人娘を預ける方がどうかしてるだろ。」
ガバガバも真剣な眼差しで言って来た。
「魔勇者殿、此度は前回の降臨をも
超える人類の試練。今こそ
今度こそ勇者と共に当たる時だと思いませぬか。」
いや
ウリハルは勇者じゃないし
危ねええええ
勢いで言いそうになったぞ。
お前は本当に冷や冷やする切れ味だな。
実際斬られた事もあったっけな。
でもコレ
何て返事しよう。
良い返事が浮かばないでいると
ウリハルが口を開いた。
「先ほどの私の演説を爺様、父様、母様は
褒めてくださいましたね。
ナンドだけでなく同じ様に苦しむ村をも気遣った事を
ナンドだけ救えば良しで終わりにしなかった事を・・・・。」
変な声だが
真剣味を含んだ口調だ。
「魔勇者殿は仰いました。
今回の事件、どこの国にも組織にも
依怙贔屓するつもりは無いと。」
ここで気合の入った決め顔のウリハル。
声は変なままだ。
「バルバリスさえ助かれば良いと言う事では無いのです。
魔勇者殿は生きとし生ける全ての民をお救いになるおつもりなのです。
故にバルバリスの姫を連れては行けないと仰っているのです。」
「・・・ぬぅ。」
呻くエロル。
バルバリスの事だけ考えていた様だ。
だが皇帝なんだから
それで良いんだぞ。
「そうだ。いつだってそうだった。
この方はあらゆる壁を障害を越えて
人々を結びつける力を持った人だ。
僕とハニーが結ばれたのだって
アモンさんの導きだよ。」
セドリック・・・。
俺、それ導いたつもり無いぞ。
俺が血ィ噴き出してもがいてる横で
お前ら勝手にイチャイチャしてたじゃねーか既に。
後、ハニーって呼んでんのか。
「無論、バルバリスだけでは無い。
世界を救う為の・・・。」
食い下がろうとするガバガバに
ウリハルは言った。
「故にバルバリスの姫ではいけないのです。
同行するならば私はバルバリスの肩書を
捨てねばなりません。
全てを等しく救う為に
全てから無縁でいなければならない。
その覚悟の無い者には出来ないのです。
私も魔勇者殿と同様
ええと・・・
あり得ないゲスのスカベンジャーやっとれんぜ
にならねばならないのです!!」
全部、間違えてるぞ。
後
そんなモノになるな。
やめてくれ。




