第四十六話 コタツとの戦い
ミカリンのフィアボールの直径は
デスラーホールの坑道内径とほぼ同じだった。
全てはオレンジ色になり
炎で蓋をされた様な錯覚を覚える
魔法の炎は対象物以外に効果を
発揮しないと頭で理解していても
やはり恐怖を感じるが
一瞬で飛び去る。
飛び去りながらバングを貫通破壊した。
ファイアボールが開けた穴からは
まだ明るい夕方の空が見えた。
「ナイスだ」
俺がそう言った瞬間、
デスラーホールの効果が切れ
地面は元の姿に一瞬で戻る。
もの凄い勢いで俺達は空へ放り出される。
恐らく俺達はバングの体内を通過した
最初の人類になった。
バングを通過しきるその最後に
アルコは盾をバングに突き立て
両足はミカリンと俺達を引っ掛けた。
アルコの下半身は弧を描き
4人ともバングとエルフの待機軍勢の
間に放り出される格好になる。
抜群の運動神経を誇り
デスラホールで遊び馴れた
アルコとミカリンは
空中で綺麗に回転し着地した。
俺は特別な事情でプルから手を
離せなかったので、プルの落下耐性に
今度は助けられる恰好で軟着陸出来た。
「足だ!」
「マナだよ。ギャラは言えないよ!」
俺はミカリンに指示を出した。
次のボディプレスを出来ない様に
してしまうのだ。
俺の指示無しでも同様の事をする気
だったのだろうミカリンは
脚にファイアボールを打ち込む。
マナ=魔力だから合ってるのか
ファイアボールは左前足付け根に
着弾すると、その部分だけでは
消費しきれず斜め上方向に
胴体をも貫通した。
千切れた前足は即時煙化を起こした。
「うわー効くね炎」
ミカリンは楽しそうにそう言うと
もう一発を右前足に打ち込む
「プル、黒い部分ならどこでもいい
攻撃魔法を!」
「は・・・はい」
流石にもう不自然だ。
名残惜しさ万感だが
俺は手を離してプルに
そう指示を出したが
プルは目を回している様だ。
フラフラしながらも呪文の詠唱に入った。
長い
途中で不審がったアルコが
何かあったのかと振り返って確認する程だ。
うーん
俺やミカリンが速いだけだぞ
圧縮言語を用いない場合は
こんなモンだろう。
その間に残った後ろ足だけで
無理やり前進を試みようと
バングは雑巾がけでもするかのような
姿勢を取るが左後足はミカリンに
右後足は俺がスパイクで粉砕した。
「行きます!ウィンドエッヂ」
プルがカッコよくそう叫ぶ。
おお
やっぱり風系の攻撃魔法なのか
俺はワクワクして注目した。
俺もミカリンも風系は使えないのだ。
派手なアクションのプルの指先から
緑色の半月状の淡い光が
飛び立っていく。
弱そうだ。
届け
届け
もうちょっとだガンバレ
仮面の脇に命中すると
プスっと刺さり見えなくなった。
煙化が確認出来たが煙は
すぐ治まった。
うん、俺の仮説を裏付ける現象だ。
弱いからと言って無効にはならない
弱いなりにダメージはキッチリ入るのだ。
ん
弱い?
俺はハッとしてプルを見る。
何か顔真っ赤にして泣きそうな感じだ。
逆効果かも知れないが
俺はすかさずフォローを入れた。
「ナイスだ。プル」
いかん震えのピッチが上昇している。
そっとしておくべきだったか・・・
俺は後方に控えているエルフ軍に振り返り
高らかに叫ぶ。
「効果有り!風の魔法が効くぞー!!」
「「おぉ」」
どよめくエルフ軍。
風の魔法ならばエルフならば習得出来る。
バングに大して有効な手段を
持ち得る里になれる。
その望みが現実的になったのだ。
俺はプルに振り返ってみた。
これでどうだ。
なんかしゃがんでしまっていた。
うーん、もう知らんわ。
「アルコ!仮面に攻撃」
色々試さないといけない
忙しいのだ。
フォローは後にしよう。
「ツァアア」
左腕で盾を構え突進し
右腕を振りかぶるアルコ。
バングは今、丁度殴りやすい位置に
仮面部分が来ている。
耳障りな衝突音が響く。
咄嗟に自分の爪の状態を確認するアルコ。
仮面に傷は入った様だが
それよりも爪の方がダメージを
負ってしまったのか
「爪無事か?!」
「はい、ちょっと痺れただけです」
右手を裏返したりして
注意深く確認してアルコは返事をした。
「ミカリン。仮面を狙って」
「OK」
ファイアボールは勢い良く
襲い掛かるが仮面に弾かれ
あらぬ方向へ飛んで行ってしまった。
ふーむ・・・。
「アモン。足直り始めてない?!」
ミカリンに言われて
俺は注意を仮面から
破壊した四肢に向ける。
確かに足が生えようとしていた。
ただ再生というよりは
残った部分で作り直している様だ。
周囲から胴体だった部分が足に
流れているようだ。
いかんいかん
余裕ぶっこいてる場合じゃ無くなった。
「ミカリン。もう倒しちゃおう」
ミカリンは意外な返答をした。
「それがさ・・・後一発くらいしか」
声にいつもの元気が感じられない。
汗も凄いかいている。
俺は咄嗟にメニューを開く。
確かにミカリンのMPゲージは
色付き部分が少ない。
火系は威力がある分
消耗が激しいのかもしれない。
土系なんかいくら使っても
全然減らないぞ。
「変わろう!立ち上がる前に仕留めないと」
俺は杖を寄越す様に手を上げる
ミカリンは簡錫を投げて渡して来た。
効果を上げる為に暴走陣を敷き
発生場所は仮面左右と後方の三か所で
仮面をえぐり取る作戦だ。
移動しない状態ならば
これが速いだろう。
3本のスパイクは突き刺さり
煙を上げ続け、やがて雪崩のように
仮面分が本体から剥がれて地面に落ちた。
本体だった部分は一斉に煙化を始める。
仮面の裏にこびりついて残った黒い部分からも
煙化は治まっていない。
風の魔法との効果の違いが気になった。
「トドメの一発を頼む」
俺はそう言ってミカリンに
杖を投げて渡した。
「弱めでもイケるかなぁ」
珍しく弱気だ。
残った部分は少ない。
「最弱でも大丈夫だろう。多分」
ミカリンのファイアーボールが
仮面に残っていた部分を全て消し去った。
「うわっいつもより豪華な音が」
ミカリンが驚いている。
どれどれ
おおレベル30到達だ。
ハンプティタイプより
経験値が美味しい奴だったんだな。
天使化は・・・
ここで試さない方がいいな。
ちなみに俺は33
アルコは28になっていた。
打撃が効きにくい相手が
続いてしまったせいで
アルコが少し遅れてしまったな。
バングでなけれな次はアルコを優先させよう。




