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ぞくデビ  作者: Tetra1031
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第四百五十七話 ナンド出立

こんな何にも無い小さな村

一日で飽きると思って居たが

次の日も暇を持て余す事は無かった。


「こちらは片付きました。」


「おぉよくやった。」


朝から村の周辺に魔物が出現

それも結構な数だった。

駐在している冒険者では手が足りないのは

明らかだったので

ここはウリハルの名声を高める意味でも

俺は率先して協力したのだ。

上手く影からサポートして

ウリハルを活躍させようと最初は

そう考えていたのだが

それどころじゃない数だったので

結局手分けして掃討する事にした。


「あ・・・あれだけの数を・・・。」

「す・・・スゲェ流石は勇者だ。」

「まだあんな子供なのに・・・。」


こんな僻地に赴任する位だから

こう言っては悪いが

大した冒険者達では無い。

引退間近で命を失いたくない奴や

早々に自分の限界を見極めた奴が多かった。

それでも強者を見て知っているので

ウリハルがどの位スゴイのかは分かるはずだ。

せいぜい大袈裟に武勇伝を広めてくれよ。


後処理は任せて俺達は先に

村へと入った。


「そろそろ到着しても良さげなんだがなぁ。」


ディーン達がまだ来ていない。

あの馬車の速度で飛ばせば

朝には着くと思って居たのだが

現れる様子が無い。

まぁ不眠不休でトバしはしないか


まぁ待ってるだけなので

ノンビリ過ごしたかったが

魔物は結構な頻度で襲って来ていた。

俺の保有魔力は例によってなので

スパイク生やすだけの簡単なお仕事だ。

連戦でのウリハルの消耗が気なったが

こいつの体力も例によってなので

まるで今始まったかのような動きで

戦い続けてくれた。


俺と違うのは

飽きる様子が無い事だ。

一刀一刀真面目に打ち込んでいた。

油断する事も無い

よくそんなに集中出来るモノだと感心した。


そして夕暮れ間近になる頃

何度目の出撃か数えていなかったが

戻るとディーン達の馬車が村に到着しているのが見えた。


「やっと来たかって・・・あれ?」


馬車は所々損傷していた。

教会の方で何やら騒がしい。


「行こう。」

「はい。」


俺達は教会に駆け込んだ。

想像通りの事態だったので

俺は装備を短杖に変えて

困り果てている神父と交代した。


「済まない、俺が付いていながら。」


ディーンは深々を頭を下げた。


「いいえ、私が出しゃばったせいです。」


体を起こそうともがくワインはそう言った。


「ああ、今は寝てろ。」


眠りや鎮静などの呪文が使えるなら

そうして強引に休ませるのだが

生憎と俺は習得出来ていない。

ブリッペに教わって置けばよかった。


「回復の魔法といっても

本人の体力だって消耗するんだ。

リキュールを見習って転がっていろ。」


リキュールの方は意識を保てない有様だった。


「はい・・・すいません。」


もがくの止め、大人しく横になるワイン。

直ぐに寝息を立て始めた。

気合で意識を保っていたようだ。


事情と聞いて見ると

ナンドに着く前に何度か魔物と戦闘になったそうだ。

任せて引っ込んでいろと言うディーンに

対して申し訳無さからか

二人も飛び出し戦闘に参加

そして深手を負ってしまったという事だった。


「合わせる顔が無い。」


悔しそうに

そう言うディーン。

俺は言った。


「いや、そもそもお前が居なければ

二人は死んでいただろう。

良くやってくれたよ。

追加の人選をした奴の手柄でもあるな。」


「そう言ってもらえると

多少は気が治まる。」


遠征キャラバンの護衛の惨事を

思い出しているのだろうか。

ディーンは辛そうに見えた。

こう言うのは続くと滅入るよな。


時間も時間だし

状況も状況だったので

その日も村に滞在する事にした。


翌日の朝には二人共、意識を取り戻し

傷が跡形もなく消えている事に

改めて驚いていた。

すっかり元気だ。

流石に若いと回復が速い。

すぐにでも出発しようと思ったのだが

ちょっと問題が発生していた。


「このままでは去れない?」


ウリハルの言葉を繰り返した俺に

ウリハルは力強く頷き言った。


「はい、私達が去ればこの村は・・・。」


ウリハルの背後の冒険者達

一番の年長者が申し訳なさそうに続けた。


「増援の要請も出してはいるのですが・・・。」


確かに現状の戦力では

この村は持たないだろう。


「かと言って戻らないワケには行かないぞ。」


「せめて増援が到着するまででも」


いつ来るか分からないそうだ。

それでは困る。

かと言って見捨てるワケにもいかない。

折角高めた名声も地に落ちる。


困り果てた俺の様子を見て

ディーンが割って入って来た。


「そう言う事なら俺がここに残ろう。

あんたが一緒なら道中の心配は要らないだろうしな。」


「いいのか?」


正直、有難い申し出だ。


「ああ、俺には特に戻る理由も無い。

皆の為に自分に出来る事しようと思う。

だから姫さんは自分が残るんじゃなくて

ここに騎士なり戦士なりを派遣させるよう

王家に働きかけてくれないか」


その言葉を聞き

ウリハルも強張った顔の緊張が抜け

答えた。


「皆の為に自分が出来る事・・・ですね。」


「ああ、戦う事なら俺は出来るが

そう言う口利きは俺には出来ないからな

それにこの国の村はここだけじゃ無いんだろう

ここの村だけ助かれば良いワケじゃあないよな。」


「そうです。その通りです。

剣の修行、強くなる事に考えが寄りすぎていました。

この国を治める王族としての役割が責任があります。」


珍しい光景だ。


敵を斬る事しか頭に無かった外道が

守る事を切望していた。


言い出したら聞かない頑固者が

すんなりと説得されていた。


人間そうそう変わるモノじゃないが

見違える程、成長する事はある。


自分は何者なのか

何になりたいのか


これがしっかりしている者は強い。

特にこの世界では存在の力の影響が大きいので

尚更だ。


「ディーン、宜しくお願い致します。」


「拝命したぜ。」


何だ何だ

ディーンのクセにカッコ良いじゃないか

なんかちょっと悔しいが

ここで嫉妬するのは

もっと恰好悪い気がしたので

ちょっかいは止めて置こう


礼だけ言っておくか。


「お前が一緒で良かったよ。」


俺の言葉に表情を崩すディーン。

苦虫を噛み潰した様な

恥ずかしさを堪える様な

変な表情だ。


「・・・それはこっちのセリフだぜ。」


ディーンの持て余した手が

腰の得物、ミライとヒカリの柄を撫でた。


お前のこれからに光がある事を祈るよ。


俺達はディーンを残し

ナンドを後にした。


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