第四百五十一話 スライド
最早メニュー画面を開く事も必要無い。
その行為そのものが
本来、自分の力であるのに
信じる事が出来なかった俺が
納得して使用出来る為の詭弁だったのだ。
自制を解除された俺は
ようやく自分の持っている力を
正しく認識する事が出来た。
そして自制していた理由も
何となく想像が付き
納得したのだった。
ゲームに例えるなら完全にチートだ。
本来、運営しか行えない行為を
1プレーヤーが出来る。
ただでさえズルい程の強いキャラがだ。
気が引ける。
つまらなくなる。
心の何処かで思って居た
それらのマイナス要因が
無意識に自制を促していたのだろう。
呪いの制約
それ自体を俺が絆の様に勘違いしていた事も
目を背けていた原因かもしれない。
彼女達との関わりを
足枷、嫌なモノにしたく無い
あって良かったモノだと思い込みたかったのかも知れない。
うーん
考えるのはいいか
今は
いや
今からはこのチートが必要だ。
世界を破壊しかねない力だが
竜種にはその力があり
破壊されていく世界での
次世界での支配種権を掛けた
最終戦なのだ。
最強形態で良い時だ。
「V2アサルトバスターアサルトストライクフリーダムアモンってトコロか」
「何を言っているのか分かりませんが
おめでとうございます、アモン様
後、アサルトを二回言ってます。」
俺は礼を言うべく
ゲカイに正対すべく振り返り
固まった。
ゲカイの輪郭は光り輝き
小さな光の粒子が立ち上って居た。
「えっ??」
最初、彼女は一体何を解除したのか勘ぐったが
そうでは無かった。
グレードアップしたデビルアイで解析し
それが何の現象かを理解すると
俺はみっともなく慌てた。
「ききき消えて行ってるぞ!?」
小さな光の粒子
それはゲカイの体、魂をも含めた
ゲカイそのものの存在の欠片だ。
「始まってしまいました。」
ゲカイは自らの状態を確認し
落ち着いて言った。
「これは、つまり
この世界における私の役目が終了したと言う事です。
移行が始まりました。」
まだ支配種権の決着が着いていない。
それでも始まるのか
という事は
野球の様に回数が決まっているのではなく
サッカーやバスケの様に試合時間が決まっていて
その時点で上回っている方の勝ちなのか。
「アモン様は世界の構造をどのように理解されていますか?」
ゲカイの質問に俺は以前カシオから聞いた
泡の理論をそのまま答えた。
「成程、面白い喩えですね。
でもそれだと移行は全て
一瞬の内に全員、全世界で起こると
想像されていたのではないでしょうか。」
ああ
だから驚いている。
違うと言う事か。
「何と申しましょうか・・・・。」
ゲカイは顎に指を当て
斜め上を見て考えてからから言った。
「トン汁をご存知ですか?」
「大好物だ。」
つか、そっちが
魔神が豚汁知ってる事に驚いたぞ。
「あの汁の表面に浮かぶ油。
その一つ一つが個人であり世界です。
かき回せば無数に数を増やしますが
総量は変化しません。
そうして隣り合う油と合流すれば
互いに元の世界とは同じでありばがら
異なるモノになっていくのです。」
その際に伝説やおとぎ話の住人になるか
現実に存在が許されるか
音楽の様に名残だけが継承されるのか
変化が決まるのか。
「一足先に新世界へ行って来ますね。」
見る見る存在が薄くなっていくゲカイ。
会話可能な残り時間はどう考えても少ない。
俺は早口で尋ねた。
「てことは俺達は勝ったのか?」
「いいえ、まだです。
なのでお願いします。
アモン様、勝利を
三界に勝利をもたらして下さい。
私はここで途中退場です。
新世界での再会を信じて待っています。」
まだ試合途中ってことか
ゲカイは三井って感じか。
「ああ、約束しよう。任せとけ」
俺は自信満々に言ってのけた。
正直、結果なんて分からないが
ここはこう言うのが
男の意地ってモンだ。
嬉しそうにニッコリ微笑むゲカイ。
普段、表情が変化しないので
この落差は破壊力がデカイ。
うん
カワイイぞ。
「事前にシンアモン様から聞いてはいたのですが・・・」
しかし
その笑顔は一瞬で崩れ
今度は不安そうな
今にも泣き出しそうな顔になったゲカイ。
「痛みもありませんが
やはりちょっと移行は怖いモノですね。
だ大丈夫なんですかねコレ」
俺はそっと
本当に細心の注意を払って
そーっとゲカイを抱きしめた。
「大丈夫だ。」
「ハイ。」
抵抗する事無くゲカイは体を預けて来た。
俺はお礼を言っておいた。
「今まで、ありがとう。」
「ハイ。あの・・・アモン様。」
「何だ?」
何だか分からなかった。
ゲカイは完全に消失した。
無駄だとは思ったが
あらゆる探知を試みて
彼女を探したが
もうこの世界には居ないようだ。
この手に残るゲカイの感触だけが
彼女が確かに存在した証だ。
その感触を惜しむ俺は
手の平をボーッと眺め続けた。
「・・・魔勇者様。」
扉が開き
ウリハルが顔を覗かせた。
「ここは・・・どなたかいらっしゃったのですか?」
「いや、ここには誰もいないさ。
ここは数多ある俺の隠れ家のひとつでな。」
お道化てそう話始めるが
どうもぎこちない。
俺の様子がおかしい事は
ウリハルも感じ取っていた様だが
何も深くは聞いては来なかった。
今日は二人の金髪少女に
深い感謝を感じた日だ。




