第四百五十 話 シンセイ・アモン
「ガンバレって言われてもなぁ・・・
古龍相手には正直、自信が無い。」
光線のブレスは一先ずデビルバリアで
防ぐ事は可能だ。
がバリア系の御多分に洩れず
こちらからの攻撃の際には解除しないとならない。
悪魔光線が有効かどうかが
まだ実証されていない。
効かなかった場合は勝ち目は薄い。
効いたとしても1対1が限度だ。
複数を相手すれば勝率は極端に下がるだろう。
シンアモンの伝言が真実ならば
先程の古龍は止む無く見逃した
弱い方の古龍という事になる。
あれより強いのを大量に1人で相手しているシンアモンは
どんだけ強いんだ。
俺がもう一人地上にいる。
この言葉、今までは誇らしく嬉しかったが
途端に恥ずかしくなっていた。
見劣りし過ぎだ。
「はい、その事もシンアモン様から頼まれています。
格差を無視した解除、私にしか出来ない仕事です。
この瞬間の為に私は生まれたと言っても良いでしょう。」
何か
壮大な前置きだね。
「何を解除するんだ。」
「呪いによる制御・・・。」
いや、それはもう解除済みだから
そう突っ込もうとした俺だが
話はまだ続いていた。
「によって自らの限界点を制御してしまっている
アモン様の自制です。」
えーっと
何だって?
「シンアモン様曰く・・・ケホン。」
別に口真似しなくても良いんじゃないかと思うが
カワイイので止めずに聞いた。
「奴は非常に狡猾かつ打算的だ。
ブチ切れる間際にも勝利の確信をしてからブチ切れる。
自身の能力に関しても冷静に分析する。
それは奴の長所でもあるのだが
同時に最大の障害にもなっている。
一度、出来ないと判断すると
出来ない方に注力してしまうのだ。
出来るようになっても、以前の判断が
尾を引いて蓋をしてしまう。
此度の奴は自身の限界を
呪いの制御下で判断してしまっている。
一度目は女神ヴィータとの契約時
二度目は天使ミカとの契約だ。
言って見れば奴は今まで一度も呪いの制御無しの
本来の実力を認識出来ないまま
長い戦いを休み無しで続けて来た。
そう思い込んでしまうのも無理は無い経歴だ。
そして厄介な事に長すぎた戦いの経験で
そのハンデを背負った戦い方に完全に馴れ
確固たる自信まで持ってしまい
その枷は強固なモノになってしまっているのだ。
とっくに降ろした重い荷物に気が付いていないのだ。」
長い伝言なのに良く覚えたな。
そう感心したがゲカイの視線は
テーブルに遮られて見えない
手元にいっていた。
メモしてたのか。
「いや、いくらバカでも分かるんじゃないのか。」
俺はそう言ったのだが
ゲカイは視線を戻し
真面目に答えた。
「呪いの制御が無い状態を体感しておられないので
知らないのです。知らない事を知覚出来ません。
そして、それを知らせる器官はありません。」
重い荷物があるのが分かるのも
それを知覚する五感があって分かるのだ。
もし空腹感が無ければ
段々体に力が入らなくなっていく体。
無意味な睡眠や休憩を繰り返し
復帰しない事を不思議がりながら餓死すると言う事か
上手な例えでは無いが
呪いなんて上手に例えられる程
掛けられる側のエキスパートなんていないだろう。
「そんな状態のあなたに勝ったなどと自慢になりません。」
そう言えば
いつだったか序列2位の魔神が
そう言っていたっけなぁ。
「おけ把握」
オリジナル俺曰く
これも今は誰も言わないらしい。
「俺の苦手意識の解除頼むわ。」
「苦手意識とは異なるのですが・・・
状態変化の許可には違い無いので
解除自体は可能ですが・・・・
表の竜はもういませんかね。」
そうだ一度に解除出来るのは一つだけだ。
その作業を始めれば
この洞窟の存在は露見してしまうのだ。
「ちょっと見て来るか・・・。」
俺の解除が間に合えばまだ良いが
解除中に襲撃されたらひとたまりも無い。
俺はそう言って部屋を出て
忍び足でクランク状の坑道を移動し
走査系ではない受け取るだけの
感知系を駆使して外の様子を探った。
こちらから走査線を発生させる探知では
解除に反する能動的行為になりそうな気がしたのだ。
見える視界、聞こえる音、漂う匂い
そして地面の振動等からも
付近に古龍が居ない事を告げていた。
崖の上付近に狼が一匹居る事は分かったのだ
古龍を捉え切れないハズは無いだろう。
俺は安心して部屋に戻り
ゲカイに安全だと告げた。
「先生お願いします。俺のやる気スイッチを押してください。」
「何の事か分かりませんが、解除開始します!」
世界に騙されていた。
一言で表現するならそんな感想だ。
目に見えていたモノがまやかしで
特定の波長の電磁波に変わった。
知覚出来なかった様々なモノが一斉に
俺を襲った。
まるで昼休みの購買のおばちゃん状態だ。
星を回す力
流れる時間の騒音
それら強大なモノから
小さなモノでは原子核を永遠に周回する電子のボヤキまでだ。
こ のまマでは気が狂うだ 。
選ッ 別し ないと 情報 量の
え えい 自分 の思考
マDEMOが余計に感じたカンダタ 。
俺は数多あるツマミ一つ一つを
弄り回し、ボリュームに該当するモノを
見つけては音量を下げる行為を繰り返した。
初めは見わけが付かなかったが
手垢の付いたボリュームは
人間の俺が良く使っていたモノだと
判断出来たので
それ以外を軒並み下げた。
俺を襲う情報の多重放送は収まっていき
やがて世界は
お馴染みだったまやかしの世界に戻った。
「・・・サマ!・・・アモン様ぁ!」
目を開かずとも見えた。
俺は椅子に座った状態のまま
仰向けに床に転がった様だ。
経過時間は10秒程度か
ってえええええ体感的には何十分も
ボリューム作業していた気がする。
ゲカイは倒れた俺の傍で
しゃがみ、覗き込みながら心配していた。
お
スゲエ
この視界、頭の位置を変えなくても
変更が可能だ。
覗き放題じゃないか!!
受け取る地点の電磁波情報を
好きな位置から補足して
視覚に変換しているのか・・・。
でもそれ本当に見えたと言えるのだろうか
いや
それでもイイ
俺は見る!!
その時、頬を伝い
流れ落ちる水分を感知した。
悪魔も泣くんだな。
まぁゲカイちゃんは今回も受肉だ。
魔界のリソースは天界より乏しいだろう。
その中でゲカイの能力を考えれば
強固な肉体はリストラ案件だ。
脆弱な人の体でも解除能力は衰えない。
むしろ微妙さ操作が可能になるとも言っていた。
今回は戻る魔界の無い
死ねば本当に死ぬ現界だ。
少しでも頑丈な体で生き残る可能性を
上げたいだろうに
その不安や不満を忍て彼女は
自分の役目にこなしている。
こんな誰も居ない場所で
たった一人でだ。
そう思うと
何と情けない事か
俺は
よし
覗くのは少しだけにしよう。
俺は少しだけで満足すると
再起動した。
「アモン様!!ご無事ですか?」
「・・・花柄が見えた。」
「はい?」
それにしても
最初にする事が覗きとは
我ながら自分が・・・・結構好きだ。




