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ぞくデビ  作者: Tetra1031
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第四百四十七話 パンを咥えた美少女を止める方法

如何にウリハルの脚力が驚異的だとしても

超音速飛行を可能とする俺なら

追いつく事は容易かった。

馬車では数日掛かる距離でも

超音速飛行なら数分だ。

むしろ減速の調整が難しい

数秒の誤差でもかなりの距離がずれてしまうのだ。


今回は特に手こずった。

イイ感じに減速しても

その減速の間もウリハルは移動しているので

まだ大分手前で停止してしまった。


仕方が無いので

そこからは通常飛行で追う事にした。


超音速飛行では景色を眺める事は出来ない。

足元の風景は物凄い速度で流れ

形を輪郭を失い、色すらも混じり合う様に見えた。

なので通常飛行に移った今

初めて山の様子が分かった。


針葉樹が殆どで密度はまばらだ。

所々、岩肌が見えてまだら禿げ状態の山々だ。

クリシア、ヒタイングではシダ類が多く

エルフの森、ベレン北の森では広葉樹が多かった。

森と一言で言っても色々な種類があるものだ。

森によって生息する生き物も変わるので

仕掛ける罠は勿論

建ち振舞いも合わせて変化させないといけない。


「居た居た。って速ぇええええなおい」


木々の隙間からチラチラと

爆走するウリハルを発見した。

なんかラリーを中継するTV局のヘリになった気がした。


ふと背後を振り返る。

ここからバリエアの城を起点として

真っ直ぐこのまま進んだとして


「やっぱりか。」


その進行方向にはネルドだ。

こいつは道や高低差を考慮せず

ただ単純に最短距離を突っ走っているのだ。


俺はウリハルの進行方向先

木々の少な目の地点を着地点に定め

軟着陸の逆、土砂が舞い上がる

派手な強行着陸を敢行かんこうした。


何かが進行方向に現れた事を

ウリハルに自覚してもらい

減速・停止に移行してもらう為だ。

あの勢いでぶち当たってしまえば

交通事故クラスの衝突になってしまうからだ。


そして事故は起きた。


「ひゃあああああ!」

「てぃろっっふぃなああああれ!」


十分なマージンも虚しく

ウリハルは減速せずに突っ込んで来た。

俺達は激しく衝突し

俺は派手に宙を待った。

身長差から下から押し上げられる恰好になったのだ。


対してウリハルは一度、足元の岩肌に

打ち付けられ、その反動で宙に舞った。

走りながら食事も摂っていたようだ。


パンを咥えていた。


俺は長年、憧れ続けた夢の一つ


パンを咥えた美少女との衝突


それが叶った事が分かったが

違う、神様こうじゃない。


ひび割れた岩肌から

細かい破片が回転しながら上昇していく

反して俺達は落下運動に移行し

それぞれ芸術的なポーズで墜落した。


面白いポーズだぞウリハル。

80年代のスラップスティックコメディを彷彿とさせるポーズだ。

うん、俺の教えが生きているな。

見事だ。

師匠として嬉しいぞ。


「っんままゆうひゃ・・・はま?!」


まだ咥えている。

すげぇ根性だ。

ウリハルもパンも


仰向けから半身を起こし

尻もち状態になったウリハルは

意外そうにそう言った。


「痛っ!!」


そこへ衝突の際、脱げた自らの靴が時間差で落下

見事ウリハルの頭に命中した。


完璧じゃないか。

いつの間に、そこまで成長していたのだ。


「コラ、家出娘め。」


「・・・止めないで下さい。」


急いでパンを平らげると

ウリハルは変な声でも真剣な感じでそう言った。

俺が来た。

それだけで事情を察した様だ。


俺はストレージからテーブル・椅子セットを出した。


「行くべきでは無いと私だって

頭では分かっているのです。」


続けて皿やグラスを並べた。


「しかし、こうしている間にも

苦しんでいる人々が増えているのだと思うと」


ジュウジュウ音を立てる焼き立ての肉

汗をタップリ掻いたキンキンに冷えた瓶

などなど

次々と並べていった。


「わ・・・たしに何か出来・・・る事が」


セリフの続きが怪しくなって来たウリハル

もう涎ダラダラでテーブルの上をガン見だ。


「一緒にどうだ?

パンだけじゃ喉が渇かないか。

目的地に着いたとしても

空腹で動けないんじゃ足手まといだぞ。」


俺はそう言って

瓶をラッパ飲みだ。

ゴクッゴクッとワザと音を立てて飲んだ。


「プッッハー美味ぇ!悪魔的だぁ。」


と悪魔が言って見た。


「い・・・頂きます!!!!」


もう勝ったようなモンだな。


育ちが良いのでがっついては食わないが

上品なまま平らげていくウリハル。

所作、作法が早送りに見える程高速だ。

身に付いたマナーとは恐ろしいモノだ。


「ご・・・ご馳走様でした。」


「お粗末様でした。」


お互いに頭を下げ合う俺達。


「と・・・止めても無駄ですよ!」


恥ずかしさを振り切り

主張を再開し始めるウリハル。

中々良い根性だ。


「確かに連れて帰る依頼を受けて

俺はココに来たが

連れて帰るか、このまま一緒に行くか

あるいは放置して俺もどこかへ行くか

それは、お前の話次第だな。」


「・・・魔勇者様。」


「人の話は半分だ。

お前の言い分をまだ聞いていない。

話してくれないか?」


「はい。」


姿勢を正し

真っ直ぐ俺を見るウリハル。


「一つ一つ確認して行こう。まずは何で王城を飛び出した。」


ウリハルは正直に全て答えてくれた。


ネルドが正体不明の魔物の襲撃を受け

多くの犠牲者が今も出ていて

危険な状態だと言う。

王も皇太子もネルドを見捨てるお考えらしい。


「それで居ても立っても居られなかったと。」


「はい。」


自分のした事に間違いは無いと自信のある表情だ。

お叱り覚悟だ。


「その情報、どうして信じた?」


「嘘なんですか?!」


輝く様な笑顔でそう言ったウリハル。

騙された事の怒りより

苦しむ人々が居ない事の喜びが勝ったのか。

そう言う奴だった。


信じる信じないでは無く

嘘かどうかは行けば分かる。

そう判断したのだろう。


これは聞き方を誤ったな。

俺は少し申し訳なさそうに続けた。


「いや、襲撃は本当だ。」


「急がなければ!!」


立ち上がろうとするウリハルを

俺は手で制止して続けた。


「もう、人も魔物も居ない。

魔物は倒され、生き残った人々は撤退中だ。

ミカリン達がそっちに付いて護衛している。」


ガルド学園時代の同室のメンバーの名前は

効果抜群だ。

いつも一緒に行動していた俺に

今一緒に居ない事も説得力を増した。


「え?魔勇者様がもう対処済みだと言う事ですか。」


「まぁ一時的な対処だ。

敵を根絶出来ていないんだ。」


座り直して

再び飲み物に手を伸ばすウリハル。

今、苦しんでいる人は居ない事に

安堵したようだ。

目に見えて緊張が抜けていくのが見えた。


「ホッとしました。でもそれなら

その話を先にして欲しかったです。」


「うーん、口止めされていた。」


「何故ですか?」


「こうなるからだろ。」


ばつが悪そうに

視線を斜め上にズラすウリハルは

照れ笑いを浮かべた。



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