第四百四十六話 ウリハルの行方
そう言えば流れでディーンは着いて来た。
他に行く当ても無い事と
キャラバン襲撃と関所でのメタボ戦闘経験者という事だったので
バルバリス側も放免するより取り合えず調べたかったのだ。
それが何でウリハル捜索隊に急遽組み込まれたのか
「何か、お前の仲間だと誤解されている様だぞ。」
「それ災難だからな。後で恨むなよ。」
仲間というより
お仲間なんだろうな。
理由も俺と同様だろう。
腕が立ち失っても痛く無く
市民に対する影響力も低い。
厄介払いの側面もありそうだ。
実は俺の方としては非常に助かった。
ワインとリキュール
訓練は積んでいるが強さという面において
不安が残るのだ。
ディーンが残ってくれるなら
安心して置き去りも可能になる。
「腕が立つといえばテーンやクワンも
参加してきそうな気がしていたんだがなぁ予想外だ。」
彼女らのウリハルに対する忠誠は特別なモノを感じていたのだ。
俺がそう呟くとリキュールが困った様な顔で教えてくれた。
宴に姿を見せなかった事で
勘が良いと言うべきか
ウリハルを良く知っていると言うべきか
起こっている事態を察した二人は
こっそり館を抜け出そうとしたそうだが
これも
勘が良いと言うべきか
娘を良く知っていると言うべきか
親父に取り押さえられ
脱出は叶わなかったそうだ。
しかも、二人とも打合せなどしておらず
それぞれ勝手に同じ行動を取り
それぞれ同じオチを迎えた。
俺は腹を抱えて笑った。
早朝、物資を運搬する業者の馬車
それらに違和感無く紛れ
俺達の馬車は空いている内に
城壁内のアップタウンから出た。
ダウンタンに入ると様相は一変し
活気が溢れていた。
上品で閑静なバリエアから
ベレンに着いたのかと勘違いする位だ。
人種も一気に増えた。
白人だらけだったアップタウンと違い
有色人種は言うに及ばず
亜人種も多く見かけられた。
特にドワーフが多い。
「差別とか、問題は発生していないのか。」
俺はバリエア出身だと言うワインに尋ねてみた。
彼はまるで都市と一緒に成長したかの様な人生だ。
無いそうだ。
むしろダウンタウン側がアップタウン側を
煙たがっている傾向が強いそうだ。
礼儀正しく静かでハメを外さない彼等を
「冗談が通じない」「ノリが悪い」「ええかっこしい」
等々、微笑ましく嫌っているそうだ。
ドワーフに関しては排除されたのではなく
都市開発が内壁内はほぼ終了し
今はダウンタウン側に仕事が移行している関係で
ダウンタウンに多く存在しているだけだそうだ。
まぁ通勤時間は短いに越した事無いもんな。
「本当に聞き込み捜査は行わないのですか。」
そのダウンタウンの繁華街も
もうすぐ通過してしまう。
そのタイミングでリキュールが念を押して来た。
するなら今が最後のチャンスだろう。
この先は民家がまばらになる
農耕地帯になるのだ。
「ああ、必要無い。俺にはウリハルの居場所を
特定出来る手段があるんだ。」
ここまで停車したのは食料や水など
必要というより趣向的に欲しい物資を補給に
店に立ち寄った時だけだった。
その時も聞き込みはしない様にと言ってあった。
「そろそろ、いいかな。」
馬車は農耕地帯に入った。
ダウンタウンでも半魔化は可能だったが
聖なる都の防衛機構は巨大魔法陣の外側でも
多少の影響はあったのだ。
だが流石にここまで離れれば大丈夫だ。
俺は姿はそのままで悪魔化し
センサー系を稼働させ
金属探知を開始した。
ウリハルを探す方法。
あいつに渡した剣と鞘は
俺のこれまで作った武具の中でも
特殊も特殊な合金だ。
見間違う様な金属は存在しない。
「んー、近くにはいないなぁ。」
数キロの範囲には反応は無かった。
俺は馬車を停止させ休憩を指示した。
「広域走査の為に空飛ぶから
ここでちょっと待っててくれ。」
俺はそう言って宮本たけし姿のまま
背中に翼を展開し上昇した。
「これでビックリしないんだから
俺も相当麻痺してるんだなぁ。」
「ええ、おかしいですよね冷静に見ると・・・。」
「もっと驚かされる事を経験していますから・・・。」
俺を見送るディーン達の呟きを悪魔耳が捉えた。
戻って突っ込む程でも無いので
俺はそのまま上昇した。
もしかしたら目撃者が出るかもしれないが
ピンポイントでこの空域を
ずーっとボンヤリ眺めている暇人が
居るとも思えない。
仮に目撃されたとしても
誰も信じないだろう。
瞬間
脳内センサーが発動し
誤動作だったかのように直ぐ収まった。
俺も同じタイミングで
周囲の空間の歪みと終息を感知した。
「すげえ反応の速さと範囲だな。」
間違い無くヴァサーの仕業だ。
空に異物を感知し
即攻撃の体勢を取り
俺だと気が付き中止したのだ。
「なんだ、また君かい。」
そんなボヤきが聞こえて来そうだ。
ヴァサーの館のある丘からは
かなりの距離がるのだ。
とは言っても
あの丘は出口の一つで
同様にバリエアを囲む様に
幾つも出口を作成しているのかも知れない。
時空魔王だ。
その位出来るだろう。
そうだとすれば
いや
そうでなければ
シンアモンはバリエアの防空を
ヴァサー1人に任せきりはしないだろう。
しかし、それにしても
最強の空軍基地だな。
歩くバミューダトライアングルだ。
改めて魔王の凄さを体感した。
と言うか
今までの魔王がおかしいのが続いたのだろう。
気を取り直してウリハル捜索の再開だ。
俺は金属探知のレンジを広げていった。
遮蔽物の無い空中は効率よく広範囲を走査出来る。
うーん快適だ。
「・・・・。」
全然、反応が無い。
俺は嫌な予感がして来た。
もしかしてウリハルが装備を置いていっていたら・・・。
いや、それならバリエアで反応が出るか。
俺は注意深く範囲を広げた。
嘘だろと思う程、遠くでやっと反応が出た。
俺は走査を中止し
足元の馬車まで下降した。
馬車前では昼食の準備が進められていた。
「サンドイッチか。」
匂いでそう判断した俺は
昨夜の宴の料理の美味さを思い出した。
流石は首都だ王宮だ。
「人間にしてはやるじゃあないか」
ブリッペならそう言いそうだ。
そのまま昼食になり
食い終わるとテーブルを空け
俺は言った。
「ワイン、地図はあるか。」
即座に腰のポーチから紙製の地図を
取り出しテーブルに広げるワイン。
なんと紙だ。
この世界では貴重品だ。
俺はとある地点を指差すと
皆、驚きの声を上げた。
「ナンドですか?!」
「バリエアでも最南の村です。」
「そこに居るのか。」
俺は首を振った。
「居るのは更に南の山中だ。
馬車は入れない難所だろう。
俺は飛んで向かうから
お前らはこの村で待機しててくれ。」
宿泊可能な一番近い人里という事だ。
「それにしてもたった一晩で・・・信じられん。」
ディーンは唸った。
普通なら俺の方を疑うのに
俺のデタラメさを理解しているので
ウリハルの移動速度に驚いたようだ。
「あいつの脚力はお前も見ただろう。」
恐らく不眠不休で走ったのだろう。
行動力のあるバカが一番厄介だと言うが
今、俺達はそれを体感していた。




