第四百四十四話 再会セドガバ
「本当に、お変わりなく・・・・。」
自慢のブロンドも頭頂部が撤退済み
顔の皺もスゴイ。
以前、ガルド学園の入学式で遠目に見た時より
こうして間近で見かけると
セドリックの老け具合は憐憫を誘う程だ。
二週目の俺は時間跳躍のせいで
経年劣化はしていない。
俺の当時と変わらぬ状態に
再会の感動と羨ましさの入り混じった表情で
セドリックはそう言った。
「髪の色が黒くなりましたね。」
対してガバガバの方は
少しふっくらしたかな程度で
とてもあんな大きな子供が居るとは思えない若々しさだ。
前回の人状態は半魔化での作成なので
毛髪の色は黒髪の普及率が不明だったので
無難に進める為
目の前のハンスに合わせて茶色にした。
今回はデフォルトが人状態なので
バリバリ日本人の黒髪だ。
「髪の色はお互い様だな。」
勇者の力を次世代に継承してしまったガバガバ。
前回の全盛期はコスプレイヤーのかつらみたいに
鮮やかな緑だったが
今は光に透ける外縁部にその面影が残る程度で
基本、黒味の強いグレーになっていた。
緑の黒髪ってこういうのか?
ユークリッドの弱味を協力して探していく事で合意後
俺とエロル皇帝は塔から城に降り
ちなみエレベーターだ。
人力らしい。
で
降りてからは歓迎の宴が開催された。
俺が魔勇者ということで
一般には非公開の極々内密の宴だが
集まった面々は重要人物ばかりだ。
今、座っているテーブルは皇太子席だ。
思い出話に花が咲いた。
その最中も代わる代わる
大臣やら貴族やらが恭しさ全開で
挨拶に訪れるが
目的は俺というより
次期皇帝であるセドリックに
如何に懇意にしてもらえるかの
下地作りだった。
一般人はコネと一言で簡単にうらやむが
地道で長い不断の努力があるのだ。
思い出話がひと段落したトコロで
俺は気になっている事を聞いてみた。
「ウリハルはどうしたんだ。」
この場に居ないのだ。
不参加の報告は効いていない。
まぁ参加の報告も聞いていないのだが
俺の歓迎会を蹴るとは
思いたく無かったのだ。
「鍛錬で泥だらけなので湯浴みをしてから、という事だったよね。」
ほう
お洒落に気を遣うようになったのか。
セドリックの言葉にガバガバも続いた。
「ええ、それにしては・・・時間が掛かっているわ。」
ガバガバは椅子から立ち上がる事無く
手のアクションだけで従者を呼び
何やら申し付けた。
恐らくウリハルの様子を見てこいと言っているのだろう。
遅れているなら今の内だ。
居ると聞けない質問は今してしまうか。
俺は二人に切り出した。
「あのデタラメな切れ味の剣をウリハルは持っていないが・・・。」
「ええ、まだあの娘には使いこなせないでしょう。
早く譲り渡したいのですが・・・。」
幼少からの厳しいしごき
その原因の一つだろう。
ガバガバは苦々しくそう漏らした。
「まだ子供だよ。」
「私があの年頃の時には、もう光らせる事が出来ていました。」
甘々な父親と厳格な母親だ。
そういえばプラチナの鎧もセドリックが
内緒で送付して来たんだっけな。
「私がイケナイのでしょうか・・・。
過度な期待があの娘の才能に蓋をしてしまっていたのかもしれない。」
いくら鍛えても
全然モノになっていかないウリハルに
ガバガバは長年悩み続けている事を吐露した。
「子供に期待を寄せない親なんていないさ。
君のせいなんかじゃないよ。」
すかさず慰めるセドリック。
俺も続いた。
こう言うタイプは悩むとロクでもないな結論に
行きつく事が多い。
「ああ、短い間だったが俺も学園で指導した。
まるで成長してくれなかったぞ。」
勇者でなくても
戦士とか別の職業でスキルやレベルなどが上昇するものだが
まるで経験値を貯めるバケツに穴でも開いているかのように
条件が満たされるコトは無かったのだ。
ガバガバのせいじゃない。
俺はそう伝えたかったのだが
二人はキョトンとした表情に変わり
二人して反論を展開して来た。
「見違える程、成長していましたが・・・。」
「ええ、流石は魔勇者様と・・・。」
落ち込んだ原因は
学園から戻ったウリハルの成長っぷりだったそうだ。
「ええ、そうなのか?」
なまじステータス画面に表示される
数値ばかりに俺は気を取られ過ぎたのか
成長してるのかなぁ。
確かに関所まで走って来たあの勢いは
かつてのガバガバを彷彿とさせる激走だったが
元々の基礎体力だけは最初からバカみたいな数値だったしなぁ。
「そうだわ。あの装備品!
魔勇者様から直々に頂いたとか
お礼が遅れて申し訳ありません。
あの装備品に何度も命を救われたそうで」
頭を下げるガバガバ。
慌ててセドリックもそれに続いた。
俺も同じ様に下げるついでに
スプーンを床にワザと落とした。
「コラー、公の場で二人は軽々しく頭を下げるなー!」
俺は小声で怒鳴り二人の頭を上げさせると
俺も頭を上げ、メイドに床に落ちたスプーンを
大袈裟に指差しジェスチャーした。
急ぎ足で拾いに来てくれるメイドは
拾い上げると交換の為去って行った。
俺はさり気無くメイドが
しゃがむ時に胸元をガン見だ。
我ながらスゴイ集中力だ。
その後もウリハルの話題を続けた。
俺は深刻な悩みよりも
赤ちゃんの頃からの微笑ましいエピソードに話題を振った。
これは功を奏し、二人とも様々な子育てドタバタ喜劇の
思い出を語って聞かせてくれた。
二人の愛情は本物だ。
俺の脳裏にアンドリューの姿がよぎった。
あいつはこんな良い両親の愛情を
受け取るコトが出来ないまま育ったのか。
話の様子から二人はアンドリューの存在を
本当に知らない事が確信出来た。
知っていたならこんな笑顔にはなれないだろう。
ハンスを恨むが
ハンスだって好き好んで決めたワケでは無い
それこそ断腸の思いで
地獄に落とされるのを覚悟して
他の誰かに押し付けるでなく
自らが一身にその責を引き受けたのだ。
ガバガバの笑顔を誰よりも愛していた男だ。
そう思うと俺はハンスを責める気にはなれなかった。
俺は二人にアンドリューの事は伏せる決意を
新たに心に決めた。
もし告げる時が来るとしても
それはきっと俺の役目では無いだろう。
メイドがすんごい慌てて走って来た。
確かに遅くなったが
スプーンごときでそこまで慌てなくても良いだろうに
俺は笑顔で許してやろうと待ち構えたが
メイドは俺でなく
ガバガバの元に駆け寄り
何やら耳打ちしていた。
そうですかー
母さん
俺のスプーンはどこに行ったんでしょうね。
和やかだったガバガバの表情に緊張が走った。
セドリックもその様子に気が付き
メイドが去った後にすかさず
ガバガバに小さな声で問いただしていた。
ガバガバは極力小さな声で
俺にはやっと聞こえる程度の声で答えた。
「あの娘が・・・ウリハルが姿を消しました。」




