第四百四十三話 皇帝と悪魔
「小股の切れ上がった女と言う良い女を表現する言葉があるが
小股とはどこなんだろうな?」
どこなんだろう。
「陛下、テーンは行きました。
もうよろしいですよ。」
人払いの目的は達成された。
俺はエロル皇帝に演技を続ける必要は無い事を促した。
「そうか、では胸の豊な女性
ただデカいのでは無く体格と比較した際の
比率の離反度が高い女性で良いのだな。」
そうそう
デブの胸囲が大きいのは当たり前だ。
華奢な娘で普段は着やせするタイプが
脱いだ時にドーンって出て
やったああああああって
いや
そうじゃない。
「陛下・・・その話題は人払いの為の演技では。」
えっ?
と言う表情になるエロル皇帝。
本気だったな。
このエロ爺い。
咳払いを数回してから
威厳たっぷりに話題を変えるエロル皇帝。
「と当然だ。ふむ女性を遠ざけるなら最適な話題よの。」
手遅れだが
突っ込むまい
機嫌を損ねても良い事は無さそうだ。
「で、話とは・・・。」
俺も気分を変えて行かないと
この世界で最も力を持つ国
そこのTOPが魔勇者である俺に直々に内緒の話だ。
下らない話のハズが無い。
どこそこの国の誰々を暗殺して来いとか
身内の誰々と婚姻しろ、我が一族に迎えてやるとか
ロクな事では無いが
放置出来ない巨大な火の粉である可能性が高い。
「ふむ、魔勇者殿はユークリッドと懇意である事を
伝え聞いておる。」
バング問題か。
不問の結果とはなったが
ユークリッドの所業は掴んでいるのだろう。
そして現在も強大な力を有している。
シロウ。
緑のバッタ怪人に変身出来るのだ。
ベレンの浄化に一役買っていたが浄化の終了で
役に立つ有用性が消え
絶対の忠誠を信用出来ない力
またはユークリッドが抱えている親派を含めて
放置出来ない不確定要素の側面が
際立ってしまったと言える状況だ。
バルバリスの皇帝として憂慮すべき事案だ。
まさか抹殺の依頼じゃないだろうな。
真っ先に思い浮かんだのはそれだ。
勝てる相手で例え返り討ちにあい
失っても痛く無い人材
そう考えれば一番可能性が高いのは俺だ。
しかし、俺は騎士じゃあ無い。
言う事を聞かせる為には
脅しか魅力的な褒美のどちらが必要で
こう言う話をするなら
事前にどちらか、或いは両方を準備していなければならない。
話を切り出して来たという事は
皇帝はすでに準備を終えていると言う事だ。
俺の訪問は突然に決まった事だと言うのに
この手際の良さ。
これは計画自体はかなり前から進行していたのだろう。
ただのエロ爺いではないな。
俺は思い浮かんだこれらの事を
悟られない様に努めて普通に返事をした。
「懇意と言いますか・・・うーん、今いち
何を考えているのか読めない相手ですので
好かれている自信は無いですよ。」
表情から考えが読めない男なのだ。
「だよなぁ!!」
俺はビックリした。
エロル皇帝は大声で同意して来たのだ。
「あいつさぁ笑顔でキツい事言って来るんだよ。」
「仲間内では鬼と呼ばれています。」
鬼と聞いて大笑いするエロル皇帝。
何この陰口合戦。
俺は半魔化出来ないもどかしさに焦った。
半魔化出来れば如何な演技でも
惑わされる事は無い。
漏れる感情で演技か本気かの判別は容易いのだ。
しかし人状態である今では
このノリの良さが
本当なのか
俺の警戒を解く作業なのか
判断が出来なかった。
俺の焦りを気にもしていないエロル皇帝は
矢継ぎ早にユークリッドに対する愚痴を
溢し続けていた。
・・・何か様子が変だ。
俺を説得する前置きとして
何の効果が出るんだ。
もしかして本当に只の愚痴なのか。
俺がそう考え始めた頃
エロル皇帝は口調を早口から
ゆっくりに戻して言って来た。
「ユークリッドの弱味を知らんかね。
コレを言えば言う事を聞くみたいな奴。」
「はぁ・・・。」
俺は返答の前に
浮かんだ疑問をそのまま言ってみた。
「皇帝陛下でしょ一番偉いなら
そんなモノ要らないのでは
皇帝が言えば誰であれ、畏ましたと言わないんですか。」
「それが言わねぇんだよアイツだけは」
苦虫を噛み潰したような表情になり
エロル皇帝は過去の事例を
それも枚挙に暇もなく挙げ始めた。
古いのになると幼少期だ。
「基本否定から入るんだよ。」
「はぁ・・・陛下の身を案じての事だと思いますよ。」
幼少期からの縁で
どうもユークリッドはエロルの
兄的な存在だったっぽい
皇帝として君臨した今ですら
扱いが変化していない様子だ。
「そう言うワケでユクーリッドの
弱味を何としても手に入れたいのだ。」
大丈夫か
この国。
「それが俺もユーさんの扱いには困っていまして
良い様に操られている恰好で・・・。」
俺が知りたいわ。
「そうか・・・魔勇者殿も同じか。」
「はい。」
建造物としてこの世界最大高を誇るスカイスクレーパーで
皇帝と悪魔がため息の合唱をしていた。
小股の切れ上がった~ どこだかハッキリしないようですw




