第四百四十 話 シキ式ブートキャンプ
「それは殿下の事だ、走ってでもネルドに向かうだろうよ。」
一見、完璧な受け身に見えたが
したたか顔面を床にHITさせてしまったクワンは
鼻が真っ赤な状態で俺の質問に
テーンより先に答えてくれた。
「私の予想だが上層部はバリエアの
防衛を何より最優先するだろう。
陛下を始め殿下にも留まってもらいたい。」
馴れているのか蹴られたテーンの方が
ダメージが少ない。
何事も無かったかのように起き上がると
普通に話の続きをした。
「ところでネルド以上の戦力を
バリエアは保有しているのか?」
そうでなければ出す意味も無い。
低いなら考えるまでも無く
守り一択だ。
俺はどちらともにでも無くそう聞いた。
「騎士の練度と言う意味では間違い無いが
総戦力となると・・・。」
名だたる騎士の名家は今バリエアに集結していた。
テーンに続きクワンも答えた。
「父上も恐らく把握しきれていないだろうな。
建物から何から以前とは異なる。」
「うむ、ただ新生バリエア、守りにおいては相当に優秀だ。」
ドワーフの本気で凄い事になってる様だ。
それでは益々討って出るのに二の足を踏むだろう。
コタツが快適である程
外には出られないモノだ。
「今度の敵は空を飛ぶぞ。
対空兵器はあるのか?」
歩兵などに対し圧倒的有利な城壁も掘も
空から攻めるとなると関係無くなる。
俺はネルド、ネルネルドでの戦闘の様子
更にヒタイングでの地竜など
竜種の特徴を説明した。
「人食いか・・。」
「ハッ!否が応でもバリエアに来るのは
時間の問題と言う訳だ。
肥え太った美味しそうな貴族が大勢いるからなぁ。」
大まかな戦闘能力に関しては
テーン達が耳にしていた噂と
相違ないようだが
竜が人間を捕食する事は初耳だったようだ。
テーンは嫌悪し
クワンは皮肉タップリの反応だ。
「食うといえば竜もそこそこ食えたぞ。
ちと硬いが、あっさり系だった。」
俺の言葉に目を向く二人。
「「食ったのか?!」」
おう。
足のあるもの
椅子とテーブル以外は食う民族もいるぞ。
軽い目まいを覚えたのか
テーンは額に指を添え言った。
「リディ殿・・・それは間接的に人食いでは・・・。」
言われてみればそうだ。
貴族は精神論から入るのか
全然気にしなかったわ。
「農民が食われ、畑が焼かれ、家畜も食い荒らされてしまえば
いずれは選択肢に入るぞ。今の内に試して置いた方が良い。」
俺はそう言って開き直った。
もう食っちゃったから手遅れだ。
「そ・・・そうだな。綺麗事ばかりでは
生き抜いて行く事は出来ない。
戦いだけでなく民を飢えさせない事も
貴族である我々が先に考えておかねばいけない事だ。」
相変わらず真面目さんなテーンは
気を取り直す様にそう言った。
ストレージに仕舞ってあるワイバーンの肉
今出して食わせてみようか。
そんな事を思って居ると
とある人物が現れ、竜の話はそこまでになった。
「遅いので心配しました。内緒のお話しですか。」
ウリハルだった。
俺は平然と答えた。
「用を足すのに鎧を脱がして欲しいと
テーンに頼まれましてね。」
「まぁ、確かに大変ですものね。」
相変わらず冗談が通じない。
純真な瞳で俺の言葉を信じ切っていた。
「バババ馬鹿な事を言うな!
嘘です殿下。この男は嘘を言っています。」
「私も今度お願いしてみるとするか。」
真っ赤になって否定するテーンの横で
不吉な事を呟くクワン。
これは聞こえなかった事にしよう。
その後、会議室に戻ると
話は俺を王都に招く話題になった。
「是非、来ていただきたいですわ。
両親も会いたがっています。」
キラキラしてそう言うウリハル。
両親って
ああ
ガバガバとセドリックだもんな。
これは俺も会いたい
昔話に花が咲きそうだ。
「うーん・・・。」
しかし俺は悩んだ。
竜の脅威を考えた場合、遊んでいる暇は無い。
他に伝達しないといけない所・・・無いか。
行こう。
「うむ、城壁などを見て頂き
不備などを指摘して頂ければ幸いだ。
どうだろう、お願いできないものか。」
テーンが目くばせをしながら
ウリハルの意見を後押しした。
先程の防空体制、判断出来る人材が居ないのだろう。
「そうだ。寝泊まりは私の屋敷で面倒見よう。」
クワンがさらっと先制するが
テーンが即、対応した。
「いやいや、クワンちゃん。
魔勇者様となれば国賓待遇でないと
ここは筆頭騎士である我がシキ家が
もてなすべきだろう。」
お
普段は肩書など振るわないテーンだが
ここぞと言う時には利用するようだ。
「はははっ鍛錬の設備しかないシキ家では
華が無さすぎるのではないか。
客人にシキ式ブートキャンプでは
おもてなしとは言えんぞ。」
シキ式ブートキャンプ
何ソレ
ちょっと興味がある。
クワンの言葉に
珍しくカッとなるテーン。
「ぐっキニ家こそ
悪趣味な金ぴか屋敷ではないか。
塾の講師でも住んでいるのか。」
「あれは親父の趣味だ。」
何か
またプロレスが再開されそうな勢いだったが
ウリハルの「うちに泊まりましょう」の一言で
開催延期となった。




