第四百三十六話 未来のために
「・・・早速、ミライの出番の様だぞ。」
完全膝カックン耐性が捉えた物体
形態の数値からカエル人間のソレだ。
ただ不思議な事に他の連中が背負っていた
メタボ入りボンベを背負っていない。
ボンベの映像を思い出してしまった。
・・タピオカは当分食いたくない。
まぁどうせココには売って無いが。
「何だって！？」
ディーンの顔が恐怖に引きつった。
「お・・・俺では勝てん。
お前なら余裕なんだろ？」
うーん。
勝率を考えればそれが一番なんだけど。
俺はゆっくりとディーンに向き合うと
真剣な声で問うた。
「お前の敵だ。
護衛の仕事を完遂しろ。
何のために武器を与えたと思っている。」
「ぐぅ・・・しかし・・・。」
「なぁ何でお前だけ生き残った。
今まで何のために剣の腕を鍛えて来た。
他の生き方なんてそれこそ
星の数ほどあるのに
何故お前は刀を手放さなかった。
お前は
自分は一体何者だ。
お前の手に有る刀
ここで逃げていつ使うんだ。」
視線を手にしたミライに落とすディーン。
潜り抜けて来た修羅場を思い出しているのだろうか。
瞳に光が戻ってき始めた。
「その銘の通りだ。
その刀はこれからのお前を
ミライを切り開いていく刀なんだよハハハ。」
「最後・・・笑ってなかったか。」
視線を俺に戻したディーンは
そう呟いた。
駄目だ。
真面目な 演技 だとどうしても
口元が緩む。
ここは畳みかけて胡麻化そう。
「お前が敗北しても俺がキッチリ責任を持って
カエルを倒す。後顧の憂いナシだ。
戦士としてそれ以上何か要るか？」
「・・・サムライだ。」
覚悟は決まった様だ。
バロードで出会った時の
いや、それ以上の良い表情だ。
それにしても「侍」の単語は
翻訳されず日本語のままだった。
どうやってこの世界に流入したのだろうか。
「そうだ。ココでやらねば
俺に未来は無い！！
死んでいった者達の仇討ちだ！！
カエル野郎！！！
刀の錆にしてくれるぜ！！」
いやミライ、金属じゃないから錆びないけどね。
「その意気だ。」
俺はそう言ってガラス製の盾を取り出して
そう言った。
「・・・それは。」
「防御は俺が受け持つ。
ディーンは叩き斬る事だけを考えろ。」
俺の返事に膝を崩しそうになるディーン。
「奴の水鉄砲を如何に躱して
間合いに入るかが最大の難関だったのに
それでは・・・。」
「最初からそう言えば覚悟は鈍る。
それでは斬れるモノも斬れないからな。」
「そう・・・だな。いや、そうだ。」
気合の入れ直しも大丈夫の様だ。
俺達は迎え撃つ為に歩き出した。
それからは俺達に会話は無かった。
程なくして敵は見えて来た。
急ぐことも止まる事も無かったのか
ゆっくりとカイカイは歩いていた。
その静かな佇まいとは裏腹に
俺には激しい怒りを感じ取る事が出来た。
これはヤケクソの特攻か
ただこの怒りのエネルギーは凄い
倒れた相手をゆっくりと冷静に
いつまでも蹴り続けるタイプの怒りだ。
見えて来たカイカイの外見もおかしい
他の四天王はボディスーツにボンベ。
更に未来的な機器のついた
ベルトなどを装備していたが
カイカイは見たトコロそれらが無い。
「アレ、最初からああだったっけか？」
出現と同時に悪魔光線を開いた空間に
叩き込んでしまったので俺は
姿をちゃんと見ていなかったのだ。
環境の最適化
確かその為にメタボを送り込んで
酸性多数の可決状態にする予定だった。
通常の大気ではカエル等には具合が良く無い。
その為にボンベだったはずだ。
カイカイは何で平気なんだ。
・・・うん
考えても分からない。
逆に有利だろ
ボンベ無しでは限定解除も出来ないんだし
通信しないなら増援も無い。
いいや
やっつけちゃおう。
カイカイの方も俺達に気が付いていた。
いつから気が付いていたのかは
分からないが
鋭い眼光で俺達を睨みながら
歩いて来ていた。
水鉄砲の射程は分からない。
俺はいつでも防御出来る体勢で
油断なく歩いた。
まるで映画の様に
脚本で決まっていたかのように
俺達とカイカイは同時に足を止めた。
これがお互い
相手が何をしてこようが
回避出来る距離なのだろう。
真っ先に口を開いたのはディーンだった。
「この間のお礼に来たぞ。
今度こそ貴様を真っ二つにする。」
それを聞いたカイカイの表情が少し変化した。
カエルの気持ちと表情何て分からん。
まぁ怒っている事に変わりは無いんですけどね。
「この間？・・・ああ一匹逃げましたね。
まぁどうでも良いですけど
ククク見つけた先着土人は
片っ端から始末するだけです。ああ、それに・・・。」
来る。
水鉄砲は内圧で飛ばす原理だ。
デビルアイで診ていた俺には
カイカイの筋肉の収縮が確認出来た。
話と見せかけて撃つ気だ。
「続け！ディーン！！」
俺はそう叫んで盾を構え突進した。
カイカイは、すぐさま指をこちらに向け
例の水鉄砲を噴射して来た。
「パキィィイン！！」
俺は上条さんの効果音を言いながら
攻撃を受けた。
透明なので流れていく液体が
内側からも見えた。
良かった。
大丈夫だとは思っていたけど
溶けなかった。
それに噴射の威力自体も大した事無い。
もしマーマンの高圧タイプなら
溶ける以前の問題だった。
その事に今気が付いてゾっとした。
「うおおおおお！！」
クライマックスで良くある
光線の打ち合いで拮抗状態から
気合を入れた方が押し切っていく様な感じで
俺は水鉄砲を受け止めながら突進していった。
「一刀にて証を示す。」
俺が思って居た以上の間合いを
ディーンは持っていた様だ。
背後にピッタリ付いてきているのは
完全膝カックン耐性で分かっていたが
まだ遠い間合いなのに
ディーンはそう言って俺の横を
加速してすり抜け前に出た。
速い。
今までに見た中で一番の居合だ。
まるで時空系を使用したかのように
キレイに一直線でカイカイは
脇腹から肩口に斜めに切断された。
「やった！」
ミライの刀身も無事。
感触から真っ二つにした事を
感じ取ったのだろう。
ディーンは結果を目視するまでも無く
そう言った。
噴射は止まり
カイカイの上半身は仰向けに後ろ側に落ち
下半身は前のめりに倒れた。
「駄目だ。・・・やれてない。」
俺もデビルアイで見ていなければ
勝利したと油断したかもだ。
そして何より
あの怒り
カイカイの怒りが全く消失していないのだ。
「何？！」
自分の手応えによっぽどの自身があるのか
完全に油断しきったディーンはやっと振り返った。
俺はディーンと切断されたカイカイの
間に入る様に素早く移動し盾を構えた。
「・・・フフフフ。」
カイカイの上半身が笑い出した。
「うあはははは！
やるじゃあないですか先着土人。
強い戦士は我々の中にも居ました。
でもね。
いくら強くても私は倒せないんですよ！！」
またかよ。
そう言いたげな表情になるディーン。
斬っても死なない相手にはトラウマが有る様だ。
可哀想に・・・。
