第四百二十七話 ヒタイングの方針
「誰だ?!」
そうだよなぁ
ダガ達、マーマンの軍勢とヒタイング王城に
帰還したが宮本たけし姿で帰った為
ブットバスに思いっきり警戒されて
出迎えられた。
「ああ、スマン。俺だ俺。」
仕方が無いので半魔化し
冒険者ゼータ姿になった。
この姿は見せた事があるので
これなら理解してもらえるだろう。
案の定ブットバスは表情を和らげて
歓迎してくれた。
「これはこれはリディ殿
いや、失礼した。
しかし、何故あのような
何の取り柄も無い外見に変身されたのか?」
死のう
もう死のう
そうだ
京都で死のう。
「・・・まぁ色々あってな。」
説明はいいか
面倒くさいしな。
しかし先程の「メロ・めろ」でもそうだったが
今までチンチクリンで活動が長すぎた。
デフォの姿だった為
ボディの数値を記録していないので
半魔化で同じ姿になれない。
こんな事なら記録しておくべきだった。
そのまま夕食も王城で
もてなしついでにご馳走になる事になった。
大量のマーマンは海に行ってしまい
ダガも一度海に浸かってから
会場に戻るという事をしていた。
「素敵でしたわ、ダガ様。
王として最大限の感謝を表明致します。」
戦闘の一部始終を離れた所から
双眼鏡で観戦していたオコルデは
うっとりした表情でそう言った。
あれー魚、嫌がってませんでしたっけ
まぁ頼もしい姿を見れば
心情も変化するものか
同族なんだし
これが正常なんだよな。
「礼には及ばん最も新しきオコルデよ。
原始のオコルデとの約束を俺は守っているだけだ。」
ヒタイング創設の際
危機には馳せ参じると約束を交わしていたそうだ。
煮干しになってたクセに
カッコつけやがって。
料理が来たので
俺は断りを入れて宮本たけし姿に戻した。
やっぱり味わいたいしな。
「・・・随分とその・・・何と申しましょうか。
あ、分かりました。
一般人に紛れ込む為の姿なのですね。
その地味な姿は。」
言葉を選んでくれた割には
殺傷力はブットバスと同等だ。
「ああ、そうだ。楽なんだよねハハ。」
俺は料理に集中する事にした。
食べ終わり、デザートとお茶が
運ばれて来たトコロで話がスタートした。
「見た事も無い魔物でしたが・・・。」
ブットバスがそう切り出すと
ダガも同意した。
「うむ、俺も初めてだ。
強い連中だった。」
圧勝の割には
冷静に他の魔物との強さを比較していたようだ。
「ダガ様も未見という事は
過去にも例が無い、完全な新種ということですかね。」
オコルデも残念そうにそう言った。
ダガならば知っているかも知れないと
淡い期待を寄せていたのだろう。
「あーあいつらなんだがな・・・。」
俺は竜種の説明と
ネルド、ネルネルドの状態
そしてクリシアでの対策を一気に説明した。
「まぁココに来たのも
それが目的でな、間に合わなくてスマン。」
俺の謝罪は皆、恐縮し誰も責めてはこなかった。
まぁ責められたらキレるが
「むうん、今日戦った連中は雑魚なのか。」
口の下に・・・顎と呼びたいが
顎らしい顎が無い
ダガは手を当てて呻いた。
魚に雑魚呼ばわりされる竜カワイソス。
「我が国では、その特殊大型弩砲は
生産出来そうもありません。現状では、ですが・・・。」
申し訳無さそうにブットバスは言った。
観光と漁業で成り立っている街なヒタイング。
更にバルバリスに吸収されてからは
積極的な軍備増強は牽制されていた。
旧家の騎士が率いる騎士団の実力は
高いと思うが総戦力という点では
やはり数の少なさはどうにもならない。
「ふむ、とりあえずは俺達が居る。
・・・・リディ殿、正直に言って欲しい
俺達マーマンの軍勢でその古龍とやらに
勝てるか?」
ダガの問いかけに
俺は少し考えてから答えた。
「済まない。俺も噂だけで古龍の
本当の実力は知らないんだ。」
「いや、イイ。フフこれは会うのが楽しみだ。」
ダガはそう流した。
表情が変わるなら、ほくそ笑んだのだろう。
声色からそれが想像出来た。
ガチの戦士だな。
「心配が一つあってな。」
圧倒的な武力を示したマーマンの軍勢
この戦果がバルバリスの耳に入れば
「なっ!バカな横暴だ!!」
ブットバスが声を荒げた。
「いや、バルバリス最強の砦が陥落したんだ。
マーマンの招兵、無理やりにでも
要求してくるぞ。」
俺はその可能性は高いと踏んでいたのだ。
「リディ様はそれに従えと申されるのですか?」
悲しそうな目でそう訴えて来るオコルデ。
俺は即答した。
「いや、バルバリスの市民もヒタイングの市民も
俺の中では同等だ。
どちらかを助ける為に片方を犠牲にする選択は無い。
冷たいようだが、この件に関して
俺はどの勢力にも依怙贔屓する気は無い。
勿論、竜は見かける度に
片っ端から葬るつもりだが
所詮は単騎だ。
居られるのは一か所だけだ。
全ての村や町、国を守り切る事は不可能だ。」
一度目を閉じ、再び開いた時は
元の表情に戻ったオコルデは
安心した様子で言った。
「はい、分かりました。」
そこでダガが軽い調子で割り込んで来た。
「ああ、先に言うべきだったが
招兵には現実問題として不可能だ。」
ダガの説明によると
マーマンは海から離れては生きていけないそうだ。
「すぐに海に戻れる距離が地上での
限界だ。乾いた我らの哀れさ
それはリディ殿なら周知だろう。」
ああ
最初、味噌汁の出汁にしようとしたんだっけな。
今回も軍勢は宴に参加せず
海に戻っていったのもそう言う理由だ。
ダガは会議の為に頑張ってココにいるそうで
用が無いなら海に居たいそうだ。
「成程、内陸のベレンには
どうやっても行けないのか・・・。
川はあるけど?」
鮭やウナギのように
海と川、両方を生息域にする魚もいる。
俺はそう聞いたがマーマンにはその能力は無く
塩分濃度の違いから淡水でも干からびるそうだ。
ずっと地上にいるよりはマシらしいが
継続的な活動は不可能との事だ。
「フッ無理を通してくる様なら
バルバリス兵も纏めて始末するさ。」
自信満々のダガ。
乾燥以外は怖い物無しだ。
人間同士で争っている場合では無いのだが
ダガにしてみればバルバリスは仇敵だ。
「まぁ一応、俺が理由を先に
バルバリスに話してそうならないように
釘を刺しては置くよ。」
どうするかな
パウル辺りに話すと
「分かりました。それならば」とか言って
竜の群れを
ヒタイングに誘導しそうだ。




