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ぞくデビ  作者: Tetra1031
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第四百二十五話 ナポリタン

クリシアを後にした俺は

オコルデの所に移動する途中

ちょっと寄り道をする事にした。


「ミウラーっ酒くれー。」


「悪いねお兄さん。まだ開店前だよ」


カウンターでグラスを磨きながら

ミウラは俺を一瞥すると

つまらなさそうにグラスに視線を戻し

作業を再開しながら

素っ気無くそう言った。


酒を楽しみに

人化して「メロ・めろ」に入ったのだが

宮本たけし姿では馴染みが無いか。

俺は慌てて冒険者ゼータに変化すると言った。


「俺だ俺。」


「なぁんだ。脅かさないでヨ。」


ちっとも動揺した素振りを見せず

ミウラはそう言うと

表情を和らげ俺を招き入れてくれた。


「随分、つまらない普通の姿だったけど」


悪かったな。

そりゃイケメンで作成したゼータに

比べれば宮本たけしはつまらない。

それは認める。


「いや、最近習得した変身でな

コレだと味が分かるんだよ。」


呪いウンヌンの説明はする必要が無いだろう。

俺はそう言って宮本たけし姿に

また戻った。


「ほぅそれは嬉しいねぇ

是非味わっていってよ。」


味覚の消失したゼータ相手では

バーテンダー的には

むなしい客だった。

何かお礼をしたいと常々思っていたそうで

ミウラは上機嫌で

取って置き酒を振舞い出した。

腹も減っていたので

重めのつまみも頼むと

驚くべき事にナポリタンが出て来た。

多少、使用している野菜が異なるが

もろナポリタンだ。

俺は狂喜乱舞し有難く頂いた。

こっちに来てからというモノ

以前の世界の食い物の再現に

そこそこ注力してきたが

麺系は麺そのものの再現が面倒くさく

更に出汁だのタレだの

超えなければいけないハードルが多すぎて

敬遠していたのだ。


「美味いっっ!!」


泣きながら食った。

ミウラも連られて涙ぐんでいた。


一通り食い終わって落ち着き

酒の方を嗜み始めると

ミウラの方から話を振って来た。


「やっぱりアレ?ネルドの事かい。」


速いな。


「ああ全滅だよ。」


「兄さんから聞いても

まだ信じられないヨ。

あそこの攻略難易度はベレン、バリエアをも

上回るンだよ。」


必要物資は全て他所からの支給

生産設備、それに従事する

いわゆる一般人、市民と呼べる者がいない。

純粋に戦闘目的だけで建造された砦

それがネルドだ。

何か仕掛ける事は愚か

潜り込むのですら容易では無いだろう。

機を窺う為に付近に潜伏しようにも

あの極寒の地だ。

生き延びるだけでも精一杯だろう。

火など起こそうモノなら

確実に発見されてしまうだろう。

かと言って火無しでは半日も持たない。

発見されない程離れれば

監視場所の行き返りだけでも

半日取られる。

そしてその道中もモンスターなど危険が一杯だ。


難攻不落だ。


まぁ砦なんだから

そうでないと困るワケだが


マフィアは恐らくバックアップを全面的に受け持っている

ネルネルドに人を送り込んでいると想像出来た。

あの強姦魔達で無い事を祈る。


「ついでにネルネルドももうダメだな。」


「?!」


俺の言葉に微妙に表情を変化させたミウラ。

これまでの付き合いがあったから

気が付く事が出来たが

初見だったら分からなかっただろう。

その位の僅かな変化だった。

そしてその表情はネルネルドの事までは

知らなかった事を意味している様に感じた。


「えぇ・・・そいつは知らなかった。

詳しく知ってる?」


一瞬の間に

ここは正直に言って

情報収集に移る判断をした様だ。


「俺が駆け付けた時はもう

襲撃されていた後でな

敵は排除したが集落としての機能は

もう維持できない程、破壊されていた。

今、両方の生き残りが近くの集落に向けて

撤退中だ。三半機関の仲間が護衛に付いている。」


話を聞きながら

仲間が生き残っていれば続報が

いつ頃届くのか

その計算をしてる様だ。


生き残っているといいな。


「その敵なんだけれど

兄さん、何か知ってる?」


その仲間も説明は不可能だろうな。

俺はストレージからワイバーンの鱗を

一枚取り出してミウラに渡すと

ドラゴン種の説明をした。


「こんな鱗に包まれた魔物が大群でか

これはもう信じるしかないねぇ・・。」


「一番の問題なんだがな。」


俺はミウラにドラゴンは人間種を

標的にしている事を伝えた。


「まぁヒタイングも大きな街だし

いずれ来るんじゃないかな。」


「ハハ・・・降参したら許してくれるかな。」


戦う気は起きない様だ。

ネルドを堕とすような魔物に

マフィアが立ち向かえるハズも無いか。


「食べやすい餌になるだけだな。」


俺は追加でドラゴンが人間を食する事も教えた。


「空を飛んで来るんで

どこにも逃げ場は無い。

この鱗じゃ攻撃も通じない。

話合いも出来ない。

こりゃ人類、詰んだんじゃないの・・・。」


流石だ。

良く分かっている。


「まぁどれだけ通用するかは

分からんのだがな・・・。」


俺はついさっきクリシア政府に

指示した内容をミウラに教えた。


「ただ蹂躙されるよりはマシってトコロだね。

劣勢を覆すモノになるとは・・・。

はぁ・・・今は純粋な気持ちで

勇者に会いたいヨ。」


ミウラの言葉で

俺の脳裏に蘇る映像。

あの全てを切り裂くデタラメな破壊力。

剣を振るい宙をまうガバガバの姿。


勇者だ。


竜を倒す者

それは勇者に決まっているじゃないか。


「会えるんじゃないかな。」


何も無い空間を蹴り移動する

チャッキーならワイバーンでも十分戦える。

その彼に鍛え上げられた真の勇者。

アンドリューはアンチ竜になってくれるだろう。


「国同士、人間同士の些末な争いには協力しないが

人類そのものの存続の危機だ。絶対に出て来るさ。」


あの二人は

如何な国やコミュニティにも

縛られる事無く

動いてくれるハズだ。


「まぁそれまでは、上手く逃げ回るコトだ。

そんなんで有事の際はクリシアに逃げ込め

反撃の体勢がいち早く整うハズだ。」


ベルタが上手く魔王と魔神を集めれば

世界一安全な人間の街になるだろう。

クリシアの首相も全力で大型弩砲バリスタの開発に取り組むだろう。

会った事無いがコメエライを信じるしかないな。


さて、そろそろ行くか

のんびりしたいが

何か急いだ方が良い様な予感しているのだ。

小さな不安がいつまでも魂の底をチリチリと

炙っているような焦り

それが酒を飲んでも消えないのだ。


俺は代金を払おうとすると

例によって断られた。

これは払う方が失礼だろう

俺はお礼を言ってご馳走になる事にした。


「あ、アリアって今どうしてるのかな。」


去り際、背後から

そう声を掛けられた。

そうだよな。

そりゃ心配だ。


「今、ストレガと一緒に魔導院だ。

そこでも早急に対策を準備してもらわにゃならんからな。

そっちを任せてあるんだ。」


「ふうん。ストレガ・・・・やっぱり生きていたンだね。」


しまった。


だから俺は嘘は向いて無いんだ。


「まぁミウラなら

どうせいずれ知るだろうから。」


動揺を悟られない様に

俺は振り返らずそう言うと「メロ・めろ」を後にした。


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