第四百二十四話 クリシアの方針
「弓兵の増強が急務という事でございますね。」
総理はそう言った。
正解なんだがハズレだな。
認識がまだ甘い
実物を目にしてからでは遅すぎる。
俺はストレージから
ワイバーンの鱗を取り出して言った。
「こいつを貫通出来る弓兵がいるのか?」
総理は受け取り
裏返したり逆さににして見たりしていた。
「これは・・・何ですか?」
「ワイバーンの鱗、その一枚だ。」
俺の一言で人間達だけでなく
ベルタを含む悪魔達も鱗に群がり
観察しだした。
「これが・・・鱗だと。」
「こんなに大きいのに・・。」
「軽いが信じられない硬さだ。」
ベルタは輪の中から抜け出ると断言した。
「人間の引く弓矢ではどうにもならないでしょう。
我々でも上位の者しか通用しないかと・・。」
俺の見解と一致だ。
レベルが上がってて良かった。
はっきり言って下級悪魔に変化出来た頃では
とても歯が立たなかったに違いない。
「一匹二匹なら俺が片づけるが
全方位を守る事は出来ない。
人間にも自分の身は自分で守ってもらわにゃならん。」
「とても・・・我々では・・・。」
俺の言葉に絶望した表情になる総理。
頼る気でいた様だ。
「出来る。現にネルドの大型弩砲は
一定の効果を上げていた。
戦っている姿を見ていないが
矢が刺さって絶命しているワイバーンの死骸を見た。」
「しかし、ネルドは墜ちたのですよね。」
ベルタから返事が飛んで来た
総理も同じ事を言おうをしていたようで
口をつぐんで俺の言葉を待っていた。
「ああ、敵の数に対して次射が間に合わなかったんだろう。
連発出来るタイプなら、そこそこ持ちこたえると思うぞ。」
「そのような大型弩砲は我が国にはございません。」
知っているよ。
けどな
「無いなら作れ。それが出来なきゃ死ぬ」
「・・・。」
そんなご無体なと言いたげな表情だ。
ヤレヤレ
「コメエライという時計職人がいる。
そいつなら設計出来る。
探し出してやらせろ」
あれだけ精巧な時計を作れるんだ
連射弓ぐらい簡単なモンだ。
部品がデカくて重たく危ないだけで
設計そのものは時計の方が複雑だ。
解析した俺にはそれが良く分かる。
人間共はそこで退場させた。
大型弩砲には車輪も設置して
移動可能な仕様にする様に念を押しておく
ネルドの大型弩砲は固定だったのだ。
まぁ極寒の地ゆえ凍結防止の為、普段は屋内に
収納していた。
必要箇所に設置すれば移動は考慮しなくて良かったのだ。
大群のワイバーンなんて想定していなかったからな。
「さて、悪魔だけになったトコロで
別の話をさせてもらおうか。」
俺はそう切り出して
まず悪魔市民の召喚について尋ねた。
「可能な限りの召喚は終わっています。
ここ数日は魔界への経路が繋がらなく
呪文の改訂に取り掛かっていました。」
アンナの報告だが
これは異常事態では無く
魔界の繋がる場所を変えて行かないと
新たな召喚は出来ないそうだ。
一つの場所から集め終えると
次の場所を探すのが常だった。
あの部分取り換え可能な魔法陣パネルは
そう言う意味合いもあったのだ。
「全降臨だ。魔界そのものが無くなっていても
おかしくない。その辺はどうなんだダッソ。
まだ残っている魔界はあるのか?」
来たばっかりだろう。
降臨直前の魔界の最新状況を
こいつは知っているハズだ。
そう思った俺はダッソに話を振った。
「私のいた地域は全て消滅してしまったようです。
断言は出来ませんが段階的に降臨していた
可能性は高いです。」
どうして、そう思うのか聞いて見た。
「今思えば、連絡の取れなくなっていた地域は
私より先に降臨していたのだと思いますです。」
成程。
「そう言えばジュノは?
お前より彼女に会いたかったんだが。」
俺の言葉に凄く傷ついた表情になるダッソ。
イジメ甲斐がある。
「その地域がジュノのいた場所です。
何処かに降りているのではないかと・・・。」
これ報連相の皆無さは
相変わらずだな。
「ベルタ。」
「はっ。」
うん
こいつの返事は気持ち良い。
打てば響く様だ。
「魔神と思しき者の保護を優先しろ
出来る限り国外にも手を伸ばせ
今度はぷりぷりにするなよ。」
「畏まりました。早急に手配したしましょう。」
「言うまでも無いがビルジバイツが
頼って来た時は国賓で受け入れろ。」
「仰せのままに」
まぁ
独自に暴走しそうな気がするが
一応言って置こう。
ナナイとダークが付いている時点で
戦力は問題無いし
オーベルの予知で動きを決めそうだ。
「後は・・・モナだが・・・。」
これはどうしようか
彼女も人間なので竜の標的になる可能性がある。
ここに居るのと魔導院ではどちらが安全だろうか。
「如何なさいますか。」
俺の心中を探る様子でアンナは尋ねて来た。
俺の言葉で全てが決まってしまう。
それがアンナとモナにとって最良の選択になるか
それはどうしたって気になるのだろう。
うーん
自分の運命だしな。
俺は返事をした。
「個人の希望を最優先させよう。
ここに留まるも良し
魔導院に戻りたいなら俺が安全に運んでやる。
アンナ、モナにそう伝えてくれないか。」
多分だが
俺が聞くよりは正直に言う様な気がした。
「分かりました。」
不安な表情から明るい笑顔で
そう答えるアンナ。
「あの、アモン様。」
「ん?」
何だ。
まだ何かあるのか
「ありがとうございます。」
・・・気持ちがあったよな。
最近、忙しくて
そう言うの置き去りだったなぁ。
「礼には及ばない
モナには十分働いてもらった。
欲しい褒美もそれとなく聞いておいてくれ
・・・アンナも自分の希望を言っていいんだぞ。」
「私はスーツを新調したいですね。」
食いついて来るダッソ。
いや
お前はまず働け




