第四十一話 英雄の帰還
ウルはゲートを開いて帰って行った。
ミカリンの首に綺麗なネックレスが
光っている。
ウルから渡されたモノだ。
これがあれば天使が見つけやすいらしい。
バングの情報があれば
ラハを寄越す。
ウルはそう約束してくれたのだ。
「残念だね。記憶の事」
ウルを見送った後
ミカリンはそう話しかけて来た。
「ん?んー・・・いや
これで良いんだよ」
ミカリンの俺の周りを
歩きながら話した。
「教会で偉そうにしてる女神と
僕に鎖を投げつけて来た女神は
まるで別人だった。」
鎖投げた方が地です。
「とても生き生きしてて
天界でもあんな姿は見た事がなかったよ」
それはそうだろうな。
「なんなんだろうって思っていたけど
今はちょっと女神の気持ちが分かるな」
そうか、すごいな
俺にはさっぱりだ。
「僕は忘れないからね。元気だして」
ああ
慰めてくれていたのか
俺はやっと口を開く
「ああ、信じているぞ」
「うん」
とても嬉しそうに返事をするミカリン。
しかし
俺はちょっと後ろめたい気分だ。
神様ならびに天使さん
ゴメンなさい
ヴィータは人間が乗っ取っていました。
俺の推論だが
もう間違いないだろう。
降臨のヴィータは
女神ヴィータじゃない
恐らく俺と同じプレイヤーだ。
プレイヤーが行動するフィールド
人間界に残った俺は人格のコピーが
行われて、今現在もこうしているが
プレイヤーの行動できないフィールドに
帰った元々のNPCには
人格のコピーは行われなかったのだろう。
プレイヤーは神でプレイ出来ないと
小梅は言っていたが
それを言うならば
13将にだってなれないハズだった。
しかし太郎の権限でシンアモンさんは
俺に乗っ取られてしまった。
同様に神にもプレイヤーが居る可能性は
無いと言えなくなった。
思えば元の世界のネタに
がっつり食いついて来ていた。
ヴィータはプレイヤーだった。
天界に帰るのでログアウト時の
人格コピーは行われなかった。
これが
女神ヴィータの記憶欠落の理由だ。
ミカリンの言う
天界でも見た事が無い
それはそうだ
別人が動かしていたのだ。
ただ、別れには変わりない。
俺はもう元の世界には帰れないのだ。
ヴィータの事はログアウトした
オリジナルの俺、宮本たけし君に
任せよう。
向こうで出会えているといいんだがな。
「寝るか」
「うん、そうだね」
俺達は小屋まで戻り就寝した。
翌朝は早朝から出発し
森の中、道なき道を進んだ。
前回の移動は飛行で行っていたため
気が付かなかったが
川が二本も横切っていて
渡るのに苦労した。
陸路は結構な難所だと思う
ボーシスは馴れている道順なので
迷ったりする事無く
夕方前にエルフの里手前まで
辿り着くことが出来た。
なんだかんだで最短ルートだったのだ。
「少しお待ちを」
ボーシスはそう言うと
背負っているバッグに小さな
赤い旗がひらめくポールを括り付け
背負い直す。
味方の印だそうだ。
警備のエルフにいきなり矢を射られては
たまらないからな。
さて
ここで問題だ。
今のチンチクリンの俺が
女神の僕、聖獣使いアモンだと
どうやって分かってもらおうか
悪魔化した姿はボーシスやアルコに
言って無いので
出来ればなりたくない。
仮になっても下等悪魔であるため
外観が色々ショボい
分かってもらえない可能性が高い
少し話をすれば
内容から分かってもらえる
その自信はある。
なにせ色々あったからね。
カルエルが先に俺を見つけてくれれば
話が速い、太郎は俺の中学生姿も
知っているから
このチンチクリンが
俺だと一発で理解するだろう
ゲームにおけるアバターの変更も
お馴染みだからな。
若返った俺
子供アモンだ。
「おかしいですね・・・。」
問題なく進行しているのに
ボ-シスは不安を口にした。
「何がですか」
問題は俺だけだ。
「普段ならとっくに警備の
エルフが見つけてくれて
里まで護衛してくれるのですが」
記憶にある空から見た地形と
今の場所を照らし合わせて考えると
確かに、もう少し進めば
里のある開けた場所に着いてしまう。
ここまで来て
警備がいないのは変だ。
「さっき僕たちを見つけて
なんだか慌てて行っちゃったよ」
「はい、木の上を器用なものです」
ミカリンとアルコは気が付いていたようだ。
「さっき?どの位前ですか」
ボーシスの問いに一生懸命説明する
ミカリンだが、なにせ目印が無い森の中だ。
どこら辺だったのかさっぱり分からない。
脳内アラームも鳴らないし
里の方角に煙も見えない
妙ではあるが
危険な感じでは無い
「ドッキリでも仕掛けているんでしょ
行きましょうよ」
俺は軽くそう言った。
「ゼータ君・・・・。」
呆れた感じでボーシスは
続きを言いそうになったが
ミカリンとアルコが
俺に同意してしまった。
「そだねー」
「行けば分かります」
俺の脳内では
北海道の大地で猪木がダーッって
「君たち・・・油断はしないように」
とっとと歩き出した俺達を
慌てて追いかけて来るボーシス。
先導しづらい問題児ばっかり抱えた
保母さん状態だ。
そしてなんと
嘘から出たなんとやら
ひょうたんからなんとやら
本当にドッキリだった。
里のある開けた場所に
俺達が現れると
ファンファーレが鳴り響いた。
脳内でなく
実際に楽器を吹いているのだ。
それも一人や二人じゃない
オーケストラだ。
楽団を後方に
大勢のエルフが彼等流の最敬礼をして
俺達を出迎えた。
曲はあの「ヒーローの歌」だ。
あまりにカッコよくアレンジされていたので
メインテーマの部分になるまで
気が付かなかった。
俺も含めてみんな呆気に取られて
固まった。
そんな俺達に構わずエルフ達は
曲のサビの部分で一斉にコールした。
「アーモーン!アーモーン!!」
もう総統閣下の気分だ。
踊らなければ損というものだ。
俺は威厳たっぷりに堂々と歩き
片手を上げ声援に答える。
「久しぶりだね、諸君。また会えて嬉しいよ」
大歓声だ。
ナニコレどうなっているの。
「なにこれ?どうなっているのゼータ君
里長と知り合いとは聞いていたけど
君は一体、何者なの」
「ええと・・・ですね」
これは想定していなかったな
やべ
脳みそがフリーズしてしまった。
何も思いつかない。
ええい、やるなエルフ達。
ミカリンもアルコも圧倒され
俺の後ろに控える様な
感じになってしまっていた。
曲が終わり。
今度はゆっくりした曲に
メドレー形式で変わる。
演奏上手いなお前ら
それに合わせて
集団の中央から凝った装飾の衣装を
纏ったエルフが鎧を着た戦士を左右に
連れて前に出て来た。
「ようこそおいで下さいました救世主様」
中央の偉そうなエルフはそう言って
再び最敬礼をする。
左右の戦士もそれに習う。
俺達も最敬礼を返すが
俺以外はしどろもどろだ。
アルコなどは鏡写し状態で
左右逆のポーズだ。
そら、した事ないもんね
しゃあない。
顔を上げると
エルフは打って変わってフレンドリーな
態度に豹変した。
「本当にアモンだ。久しぶり
会いたかったよ。」
中央の偉そうなエルフは
女性的なラインがなりを潜め
角が出て来たというか
普通にイケメンに成長した
プラプリだった。
「おう、元気そうだな」
俺の返事に感極まったのか
抱き着いて来るプラプリ。
また大歓声が上がる。
んー
エルフってこんなだったっけ。




