第四百七話 ドラゴン花火
「転回させる?」
操縦席のミカリンが叫んだ。
正面から襲って来たワイバーンは
アベソーリに躓く恰好で後方に転がったのだ。
「砲塔を反転させますか?」
砲手のアリアはそう叫ぶ
このアベソーリの砲塔は左右に360度
下向きの俯角10度
上向きの仰角にはなんと70度と
もう少し頑張れば高射砲のレベルだ。
弾頭を小さくした事で
発射の為の機構がコンパクトに纏まり
結果的にクリアランスが多く取れたのだ。
二人の問いかけにキョロキョロするブリッペ。
戦車長を任されたので指示をしなければ
いかないと思っているのだが
判断が付かない様子だ。
俺が居る時はいいんだよ。
「全速後進!轢き殺せ!!」
「パンツなヘアーっ!!」
俺の指示にミカリンは素早くギアを
バックに変えるとアベソーリを後進させた。
正面に軽く二本の雪柱が立つ
勢いがあり過ぎてホイールスピンならぬ
キャタピラスピンを起こしたのだ。
しかし、それも一瞬で履帯は頼もしく
雪原を噛み締めアベソーリは
少し左右にふらつきながらも
後ろに加速しだした。
「飛ばせセカンっ!」
このアベソーリのトランスミッションは
前進後退の切り替えは主軸の回転方向を
変えるタイプなのでバックでもギアが上がるのだ。
俺の教えた通り律儀にさっきから声を
張り上げるミカリンが愛しい。
適当な嘘なのに偉いな。
ただ俺も見捨てたりはしない
ちゃんとコーラスを入れてやる。
「セカッセカッセカッ・・・。」
しかし加速するとは
轢き殺す気満々だな。
まぁ俺がそう言ったんだが
「右のサイドミラーがやられている!」
操縦席からの唯一の後方視界
その片方がワイバーンの体当たりで破損した。
左のみで見にくいのだろう
ミカリンはもどかしそうに言った。
「取り合えずコレで」
俺はそう言って助手席から
ワイヤー操作のスイッチを入れた。
破損した右サイドミラーはポンと跳ねて
脱落し、その下から新しいミラーが生えた。
「うぉ便利」
アベソーリの内部骨格
略してアベ内閣はあらゆる事態を想定していた。
不具合を起こした箇所が発生した時は
リカバリーしようとゴタゴタするより
バッサリ切り捨てて交換し
機能を維持するのだ。
これがアベ内閣の強みなのだ。
如何な強者でもダメージを被れば
その瞬間、弱者へと落ちてしまうのだ。
進めアベソーリ
弱者を踏み潰して
俺は後部装甲の覗き窓から
後ろの様子を見た。
ワイバーンは体勢を立て直し
迫るアベソーリに気が付くと
急いで羽ばたき始めた。
間一髪、離陸が間に合い
アベソーリはワイバーンの足元を通過した。
「戦車停止、仰角45!照準に入ったら撃てぇ!」
俺の指示でアベソーリは急停車した。
その間にアリアは砲身を上向きにしていく
滞空したワイバーンは距離を稼ぐ気なのか
後ろ向きのまま上昇を続けていた。
正対するべく上昇しながら体を反転させようとした時
アリアが叫ぶ。
「タックス1。ファイアー!!」
本当はミサイル撃つ時のセリフで
確かTAXじゃなくてFOXだった様な気がするが
アベソーリだ。
タックスで良いだろう。
「アルコ、次は徹甲弾で!」
「TAX2、徹甲弾了解・・・装填完了」
落ち着きを取り戻したアルコは
素早い動作で装填作業を終えた。
頼もしい
いいぞTAXはまだまだ
バンバン上げて行こう。
ワイーバーンの鱗が固すぎた場合
榴弾は脅しの効果しか無い可能性がある。
そうなれば徹甲弾で鱗の突破を図るつもりだった。
だったのだが
結果的に必要無かった。
アベソーリの正面すぐ上で
ワイバーンのどてっ腹に見事命中した
TAX1は爆炎に変化すると
ワイバーンを幾つかの肉片にして
平和な空をとりもろした。
歓声が上がるアベ内閣。
輝く笑顔、恍惚とした様子でアリアが俺に言った。
「やりましたっ!!」
「よくやった。」
攻撃力に置いて自身の不足に
負い目を感じていたのかもしれない。
アリアは凄く嬉しそうだった。
俺はアリアの頭を撫でて褒めた。
失敗した場合でも
撫でて慰める予定だった。
それにしても
アベソーリの砲撃は
か弱い女性でも屈強の戦士以上にしてしまう。
結局のトコロ
ユークリッドの恐れているポイントがコレだろう。
厳しい鍛錬の果てに力を持った戦士でなくとも
強大な破壊力を行使出来てしまう。
魔法の時もそうだったが
魔法でも努力と才能が必要だ。
だがアベソーリは違う
引き金さえ引ければ
それこそ赤ん坊でも良いのだ。
そして砲手をアベソーリは選ばない
誰でも破壊神になる事が出来るのだ。
「状況終了。」
言うまでもないが
一応宣言しておこう
バラバラの肉が集まって再生する類の
モンスターではないだろう。
「ちょっと調べるか・・・。」
俺の呟きにヨハンが反応した。
「調べる程、残骸が残ってりゃ良いけどな。」
見事に木っ端微塵だったからな。
「私も行きましょう。」
ユークリッドも乗り気だ。
女子軍団は嫌がったので
野郎3人でアベソーリから外へと出た。
火薬の匂いが凄い
染みついてむせそうだ。




