第四百六話 ドラゴン来襲
竜
もう文句なしのキング・オブ・モンスターだ。
硬い鱗に覆われ
角生やして
火吹いたり
空飛んだり
ラスボスクラスになると
言葉は勿論、知能でも人を凌駕する。
竜種オリジナルの魔法なんかもある。
様々な神話に登場するが
西洋ではバリバリの悪役だ。
Dの一族のお話しでも
ラストはドラゴンに変身して王子様と戦ったりする奴もいる。
東洋の方に行くと
ちょっと扱いが違い
神としても崇められたりしている。
少し疑問だった。
交流があったとは思えない文明同士でも
竜のイメージはそう変わらずに
どこでもお馴染みだ。
これは何故なのだろう。
昔の俺の持論だが
遥か昔の恐竜時代に生きていた
人間の祖先に当たる哺乳類。
当然、彼等は恐竜の餌でしかなく
常に恐竜に怯え、隠れて生きていたハズだ。
その当時の強烈な恐怖が遺伝子に刻み込まれ
畏怖を形にした時そうなるのではないだろうか。
トリケラトプスの角
プテラノドンの翼
Tレックスの牙
アンキロサウルスの棘
ステゴサウルスの背ビレ
などなど
全部足して、その数で割れば
はい、ドラゴンの出来上がりって感じだ。
東洋の竜のイメージは
木の上に暮らしていた小さな哺乳類が
森を移動する首長竜を眺めた時の
記憶からではないだろうか。
ただ、それにしては近すぎるモノもある。
八岐大蛇の話を考えた奴が
ハイドラを知っていたとは
到底思えないからだ。
実話で本当に目撃したのかと思う程だ。
これは説明が出来ない。
多頭の恐竜は勿論
ハイドラそのものも地球上に存在していなかったのだ。
人の想像は似通う。
交流の無かった文明同士でも
人の想像する事なので
同じ様な話になる事も多い。
小人などがそうだが
竜と違い、お国柄というか
当時の文明を色濃く反映して
竜程似通ったイメージでは無いのだ。
一寸法師とレプラコーンに
血の繋がりを感じる奴はいないだろう。
なので長年、俺の中で
ハイドラと八岐大蛇は
消化不良のままだったのだ。
でも、それも
ついさっきまでだ。
「なんだぁ?ありゃあ!!」
ヨハンが口をあんぐりと開け
空を見上げたまま、そう言った。
ヨハンは指さす空
そこには悠々と大空を行くドラゴンが居た。
体のアチコチが不規則に光を反射していた。
鱗に金属の成分でも混じっているのか
結構メタリックな奴だ。
ワックス掛けるならコンパウンドは
少な目の方が良いだろう。
「おおおおおワイバーンだああああ!」
俺はスーパーカーを目撃した
昭和の小学生の様に叫んでしまった。
でも叫ばずには居られない。
普通に感動した。
「わなばあん?」
ミカリンがイントネーションを
どこに置いていいのか分からない口調で
繰り返した。
「ワイバーン だ。」
そんな、漫画家が鉛筆で書いた
写植用セリフの「イ」を編集で
文字がキタナイからと「ナ」と間違えてしまい。
連載時に読者から矢の様な突っ込みを受け
単行本では何事も無かったかのように
ワイバーンに直していたマンガを
思い出させるような間違え方は止めるんだ。
「まぁドラゴンの中じゃ中くらいの強さかな。」
飛ぶ事に特化した竜で新しい部類だ。
某狩りゲーのサマーソルトで毒にしてくる奴もコレだ。
二足で腕の部分が翼な鳥に近い骨格だ。
古い種
古龍種になると
四足で翼という六脚の骨格だ。
あの国民的RPGの
イケメンになる顔の角度が決まっている竜が代表だ。
世界の半分で手を打とうとした人は反省して欲しい。
「さっきから何を言っているのか分からないのだわ。」
権能は分配されていなくとも
持っている知識は抜けてないハズだ。
ミカリンもヴィータもドラゴンを知らないのか。
確かに、この世界に来てから
亜種も含めて一度もお目に掛かっていない。
そして書物、神話や歴史は勿論
おとぎ話でも登場していなかった。
そう
この世界にドラゴンは居ない。
イメージすら無い。
長年の疑問が解消した気がした。
俺の居た世界は
泡が弾ける際の異世界の流入
その時にドラゴンの世界と主権を争い
勝ち残ったのだ。
そして敗北したドラゴンは
余程の大敗だったのか化石にすらなれず
ただ人々のイメージ
幻想の中へと消えて行ったのだ。
俺は皆に振り返り決め顔で言った。
「バング、メタボに続いて
今度はアレが異世界からのお客様だ。」
誰も聞いて無かった。
魂を抜かれた様に呆然と立ちつく者
頭を抱え悲鳴を上げている者
狂った様に食器を磨き上げている者
パニック症状も個性があるんだな。
バングでもそうだったが
どうも異世界種との接触は
本能的に強い恐怖を呼び起こす様だ。
ヤレヤレ
あんなにカッコ良いのになぁ
俺はワイバーンの方を見上げると
目が合った。
まだ離れている。
目が判別できる距離では無いのだが
直感で理解した。
これは攻撃して来るぞ。
仕方が無い
俺はオーラをちょっと漏らしながら活を入れた。
「来るぞ!全員速やかにアベソーリの中に入れ!」
俺の活で正気に戻った様だ。
全員、動き出してくれた。
「しょ食器とかテーブルがぁ」
「アリア死にたいのか、また作ればイイ
ブリッペを見習えっ!」
テーブルセットを律儀に片づけようとしていた
アリアとアルコは俺の指さす方向を見た。
ブリッペはもうアベソーリのタラップを
駆け上がっていた。
・・・速いな。
「後もうちょっとだってのによ!」
ヨハンはそうボヤきながら
アベソーリに向かって走り出した。
「食べ終わっていた様に見受けられますが」
走りながらそう突っ込むユークリッドに
ヨハンは振り返らず言った。
「メシの事じゃねぇ!!」
そうだ。
俺達はネルドまで後、半日程の距離まで来ていた。
天気も良かったので優雅に外でランチ中だったのだ。
俺は最後に乗り込むと指示を出した。
「装甲下ろせ!」
手分けして展開していた装甲を元に戻した。
手の空いている物が光る苔を添付した
普段は閉じている蓋をスライドして開いた。
装甲が下りる方が速く
一瞬、車内は暗くなるが
直ぐに明るくなった。
「どうしよう。向こうの方が速いよ」
車輪のロックを解除する操作をしながら
ミカリンがそう言った。
「大丈夫だ。アベソーリの方が強い」
「ぶええアレと戦うのぉ?!」
ブリッペの
逃げたい気持ちはよく分かる。
言葉にはしなかったが
同意している者も表情で分かった。
俺は冷静に言った。
「そういう風に作った。アルコ、初弾は榴弾だ。」
「はっはいマスター!」
弾かれた様に装填作業に移るが
手が震えるのか上手く行かないアルコは
余計に焦り出してしまった。
「あれ?あれ?」
「えっと!えっと?」
アリアも砲撃手の席に着くが
手順を思い出せなくなってしまっていた。
「うわっもう来るよ!あいつ速い」
ミカリンが余計・・・仕方が無いか
最新情報を入れると二人もパラパラでも
踊っているかの様に慌てふためいた。
俺は完全膝カックン耐性で距離を測ると
装填を止めるべくアルコの持つ弾頭を押さえて言った。
「衝撃来るぞ。何かに掴まれ!」
ワイバーンは両脚の爪を剥き出しにして
翼を広げ、減速しながら襲い掛かろうとしていた。
結構デカいんだな。
アベソーリと同じくらい体積あるんじゃないか。
そしてその瞬間が来た。
ドラゴンの攻撃だ。
あれ?
衝撃は掴まっていなくても転ばない程度だ。
音もバコンとか間抜けな音だった。
体積が同じでも
空を飛ぶワイーバーンは軽い
アベソーリと肉弾戦で勝てはしないのだ。
鳥と大型のネコ科の獣の鳴き声を合わせた様な悲鳴を上げ
ワイバーンは派手に地面に転がった。
痛そうだ。
「な、大丈夫だろ。落ち着いて装填だ。」
「・・・は、はい」
まだ小刻みに震えているものの
アルコはしっかりと装填した。




