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ぞくデビ  作者: Tetra1031
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第四百四話 止まらないぜアベソーリ

今までの車と違い手綱でもステアリングでも無い

左右のキャタピラの回転差で向きを変える。

二本のバー、これを押し込めば前進、引き倒せば後進

ギア操作は同様でブレーキも付いているのだが

低速なら動力をカットするだけで

気持ちよく減速して止まるので

ほぼ使わないが

最高時速は70kmを超えたので

トップスピードからの停止には使用する。

これまでの車に俺以外では

一番操縦に長けたミカリンが今練習中なのだが

操作方法の違い、超重量の慣性と視界の悪さに

手こずっていた。


特に真っ直ぐ走らせる事に苦労していた。


「ああーぶつかるー!!ゴメーン!」


「気にするなそのまま行け」


操作をミスり大き目の針葉樹に

躱すつもりが向かって行ってしまった。


だがこのアベソーリ

超硬度と超重量をも誇るアベソーリには

あんなもの何の障害にもならない。


衝突するが

まるで根が生えていないかの如く

針葉樹はなぎ倒された。

こちらには軽い衝撃のみで

減速すらしない。


衝突の衝撃に備えた面々が

予想外の肩透かしに面食らった。


「あんな物ではこのアベソーリを止める事は出来ん」


止まらないアベソーリ。


「ああ!今度はスパイクリカオンが飛び出して来た。」


「気にするなそのまま行け」


乗っている俺達から無限に魔力を吸い出し

弱者を何事も無かったかのように引きつぶし

アベソーリは進んだ。


「兄貴!アベソーリやばくねぇえか」

「止める手段が思い浮かびません。」


時勢に関与する9大司教には

洒落にならない存在だろう。

事実このアベソーリ1台だけでも

時間は掛かるだろうがベレンを更地に出来る。


「アモン!あれ川じゃない?」


ミカリンに言われて

正面を見ると水面が凍った川が見えた。


「ぶええ!この重さじゃ氷割れちゃう。」


その通りだ。

ブリッペの判断は的確な事が多い

戦闘以外は だが


「気にするなそのまま行け」


俺の言葉を半信半疑のまま

ミカリンはアベソーリを進めた。

僅かな瞬間ですら耐える事無く

進むまま氷は割れアベソーリは

川に入った。

まるで焼き菓子の様に分厚い氷は

簡単に砕け左右に引き裂かれていった。


「スゴイ・・・。」


アリアがポツリと漏らした。


「ふっ凄いのだよ。アベソーリは」


「いや兄貴、この川って結構深いんだぞ。」


ヨハンが青い顔で横から助言してきた。

この近辺に長く務めていた事から

土地勘もあるのだ。

飛行するストレガと違いヨハンの移動は

地形に大きく左右される。

なのでこういう事には一番詳しかった。


「ぶええ沈じゃうよー。」


その通りだ。


「気にするなそのまま行け」


俺は淡々と指示を出した。


通常、乗用車が洪水などで不稼働になるのは

幾つかの原因がある。

一つ目が


まず、浮力が勝ってしまい

タイヤが空回りして動けなくなる。

しかしこのアベソーリの重さは

浮力程度問題では無く

キャタピラは頼もしく川底捕えた。


「ふむ、サスが少し浮いたか。」


それも浮力の影響はあるようで

サスペンションに掛かる負荷が軽減されたようだ。


「ホントだ。深い!水没するよアモン」


「気にするなそのまま行け」


ヤケクソになり始めたミカリンに

俺は1人冷静に告げた。

周囲はパニック寸前の緊張だった。


通常、乗用車が洪水などで不稼働になるのは

幾つかの原因がある。

二つつ目が


化石燃料を燃焼させるエンジンでは

外気を取り込む吸気と

燃えた後の排気の確保が必須だ。

吸い込む場所より水位が上がれば

当然エンジンは止まってしまう。

なのでオフロード車などはシュノーケル

海やプールで使うアレの車版だ。

それで吸気口を出来限り高い位置にする事で

これを逃れている。

排気に関してはエンジンが停止しない限りは

特別対処しなくても良い。

そしてバッテリーなどが水没でショートすれば

電装系が飛ぶ、これもあらゆるトラブルの原因になるだろう。


しかしこのアベソーリの魔導エンジンは

前出の通り吸排気の必要がないので

ほぼ密閉が可能なうえ

仮に水没しても止まる事は無いのだ。


そして電装系はそもそも無い。


車内で聞こえて来る音が

これまでと一変しくぐもった感じなった。

車体は完全に水没した様だ。


「あぁ一応、水漏れしてないか

各自、車内を見てくれないか。」


漏れ対策のシーリングは完璧に行ったが

俺の言う完璧だ。

不安が残る。

俺はそう言って皆に車内の様子を調べて貰った。


皆、通常よりも素早く真剣に取り組んでくれた。

普段からそうしろ。


ただアルコだけは座ったまま鼻をヒクつかせていた。


「マスター。水漏れはしていませんね。」


匂いで分かるのか

新しいな。


「もし漏れていた場合はどう対処するのですか。」


俺と同じく溺れ死ぬ心配の無いストレガは

焦りの無い普通の声の調子で

そう聞いて来た。


「ブリッペの水操作で侵入を止めろ。」


深海ならともかく

地上の水源程度の水圧なら

余裕で止められるだろう。


「あ、なるほど。」


合点がいったようで

ブリッペも安堵した様子で答えた。


「ああ良かった飛んで脱出って事態には

ならなさそうだね。」


おいミカリン。

自分だけ飛んで逃げるつもりだったのか。


「そのようですね。私も変身を解きますか」


ユークリッドはいつの間にか

緑のバッタ怪人に変身していた。

そんなに恐怖だったか。


「お前らアベソーリの実力を信じて無いな。」


「いや信じるも何も比較する前例が無ぇんだ。

常識を超えたアベソーリがデタラメなんだよ。」


ヨハンの言う事が正しかったようだ。

皆、大きく頷いていた。


「ふはははっ!ならば思い知るが良い

このアベソーリは完璧だ。何も問題は無い!!」


問題が起きた。


「ア・・モ・・・。」


ヴィータの様子がおかしい。

そういえば結構前から静かだったな。


「どうした?」


俺はそう聞いたが

返事をする行為そのものが危険を伴うのか

ヴィータは困っているようだった。

そして聞こえて来る音。

水の中から泡が管を上って来るような音だった。


完璧な密閉空間で

ヴィータはぶちまけてしまった。


乗り物酔いだった。


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