第四百 話 迷子のお知らせ
「私やパウルの呼びかけにも
応じない・・・この事は
完全な決裂を意味しました。」
武闘派の神2人のみで決定された
四大天使の攻撃。
発覚したのはウル、ラハが
重症で戻って来てからだった。
3つの派閥は話し合いのレベルを
通り越し決裂の勢いになった。
そこへ血相変えて現れたハンスが告げる
俺の復讐宣戦布告だ。
争いは一瞬で集結し
来るべき悪魔から
どう防衛するのか
その一点でのみ神々は結託した。
その中で前回の降臨の責を
引きずっていたヴィータが
俺の説得に名乗り出た。
一縷の望みを託し
他の神々はそれに縋った。
しかし持たせた通信の宝珠が破壊された。
この事実から
決死の徹底抗戦の構えに入った。
ハンスも血の涙を流し
動かせる聖騎士全軍を率いて
俺の討伐に向かうと宣言したそうだ。
「で、俺の首一つで収まればと思ったワケだ。」
ヨハンは
俺相手に数は下策
それと本来の敵である悪魔対策に
聖騎士は温存すべきと説得し
単身、死地へと赴く事になったのだ。
「で、ヴィータは誰が始末したんだ?
俺はさっきまで寝込んでいたので
その間の事は知らんぞ。」
ヨハンとユークリッドの話に嘘は無いと思った。
説明を聞いた俺は女子軍団に
そう尋ねたのだが
「売女?ですか。あのいやらしい身体で
お兄様を拐かそうとしたビッチ女神ですか?
残念ですがまだ始末していません。」
止めろ妹よ。
天罰下るぞ。
「女神は勿論、集落以外では人に接触していません。
私が潜入している間の事は分かりませんが・・・。」
自分以外の女子を見回すアリア。
「はい。私も会っていません。
狩りに出ている間は知りません。」
アルコも続いてそう言った。
「ダ女神来てないよね。」
「途中で死んだんじゃないかな・・・。」
神の制御から解放され過ぎた天使二人は
純粋に残酷だ。
「護衛とか付けなかったのか?
全降臨で権能の配分がどうなったのか知らないが
あのままだったとすればヴィータは
普通の成人女性の能力しかないぞ。
まさか1人で旅立たせたんじゃないだろうな。」
俺の言葉に真っ青になる司教二人。
答えないので催促する俺。
「おい、どうなんだ。」
「通信用の宝珠だけ持たせて・・・。」
「いや神だからなぁ
兄貴とかスゴイ速さで空飛ぶし
余計なお世話かと・・・。」
何と徒歩で放り出したそうだ。
「馬鹿野郎!!」
俺を中心に足元の粉雪が舞った。
全員から漏れてくる恐怖の感情。
「探す。戻るまで待機だ。
何日でもだ。いいな!」
そう言って席を立つと
ミカリンが続いた。
「僕も探すよ。手分けした方が良いでしょ。
ホラ・・・ブリも!」
「ぶぇ行かなきゃダメかーっ」
ブリッペも嫌々ながら席を立った。
探索となると感知系が充実していいて
地形に左右されない飛行可能な者が望ましい。
教会に発見される事を避けるため
天使化、悪魔化を控えて来たが
司教が二名も居る時点で
これはもう意味が無い。
俺はミカリンとブリッペに
捜索をお願いした。
手分けする範囲を指定した。
問題は司教二人を信用していいものかどうかだ
この二人の話が本当かどうか
裏は取れていない。
俺と
あわよくば天使二人を分断し
戦闘力を分散させ
人質を取る
ないし抹殺をする。
この二人なら可能だ。
ウル、ラハがどの程度回復しているのか
知らないが
敗退してきた者を再び送り込むより
戦闘力が高く
俺が油断しやすい相手を
搦め手で送り込む
ミネバならその位の策は打ちそうだ。
判断が付かなかったので
俺は正直にそう言ってみた。
「困りましたね。信頼の証を立てるモノがありません。
元々、刺し違える覚悟で赴いたのですからねぇ」
ユークリッドは顎に手を当て唸った。
俺が疑っている事にショックを受けている様子は無い。
むしろ当然と思って居るようだ。
「さっきの鎖でまた縛るか?」
ヨハンは嫌そうにそう言った。
「アレはユーには効果が無いかも知れんのだ。」
分子結合に干渉する謎の蹴りだ。
蹴りでしか、あの効果を出せないと
決まってるワケでは無く
触れた物に作用するなら
物理的な拘束はシロウには効かない。
「槍に聞いて見よう。」
ブリッペはそう言うと
神槍メイセラティを取り出し
普段のふざけたような声と違い
真面目な声で詠唱を始めた。
成程、メイセラティに嘘は通用しない。
これはナイスアイデアじゃないか。
「兄貴・・・何が始まるんだ?」
「アモンさん?これは一体。」
二人は槍の能力を知らない様だ。
俺は神槍メイセラティの
自動で敵を討つ能力をざっと解説した。
「兄貴!!ちょっと待った!それって俺らに敵意が無くても」
「ブリッペさんが一方的に敵だと認識してしまえば・・・。」
そうだ。
串刺しだ。
止めなければ
「行っけーメイセラティ!!」
遅かった。
青い光の尾を引きながら一瞬で
神槍メイセラティは垂直に上昇した。
「・・あれ?」
「空に敵が居るのですか」
拍子抜けしている司教二人に
俺は更に解説した。
一度違う方向に飛んでから
改めて襲い掛かって来るのだ。
話を聞いて漏れだす
二人の恐怖がスゴイ。
あの二人から見ても神槍メイセラティは
命を脅かすに足る非常に強力な武器なようだ。
俺は悪魔男爵化して
テーン風盾を構えた。
距離が近いので天使二人が痛がった。
俺にも不快感が襲って来るが
アレを弾くとなるとこうするしかない。
ちょっと辛抱だ。ガマンしろ
それにコレなら俺に飛んでくる可能性の方が
上かも知れないのだ。
上空で青い十字架の閃光が見えた。
それを合図の様に
神槍メイセラティは物凄い速度で
北に向かって飛んで行ってしまった。
遅れてシュオォンオンという音が聞こえて来る。
飛行音があるんだ神槍メイセラティ。
俺は安堵し人状態に戻った。
「じゃあ二人はブリッペと同行で」
成程、それならば全員の安全が保証される。
やっぱり頭良いんじゃないかコイツ。
「運べる?」
ミカリンがそう聞くと
ブリッペは自信たっぷりに答えた。
再臨で権能自体は本来の性能を発揮出来るそうだ。
二人程度は余裕との事だ。
エロいボディだが
体躯は小柄なブリッペだ。
俺は運びやすい様にパイプ椅子二つを括り付け
取っ手替わりのロープも取り付けた。
これでスキーのリフトみたいに運べるだろう。
「わぁこれは便利だぁ。ありがとう」
お礼を言うブリッペに
俺は近くの木を指差して追加した。
「あの木の倍くらいの高さからなら
落としても、この二人は死なん。
いざという時は気を遣わず落として良いぞ。」
「オッケー。」
何か司教二人は苦虫を噛み潰した様な表情だ。
「調子はどうかねラハ。」
「これはイクスファス様。お陰で大分良くなりました。
完全復活まで、もう少しといった状態です。」
「ふむ、これから何かと君には負担を掛けるだろうからね
今しっかりと養生してもらわないと」
「有難きお気遣い。このラハ一命を持って
答える所存に御座います。」
「ははっ期待しておるよ。」
「・・・・どうかなされましたか。」
「ふむ、天界の空とは異なるが
地上の空もまた良いモノだと思うてな」
「はい、青一色というのも悪く無いと思います。」
「この空の様に平穏なら良かったのだがな・・。」
「必ずや平穏をもたらしてお見せ致します。」
「・・・ん?アレは・・・何だね?」
「御下がり下さい。私が確認します。」
「何かこちらに向かって飛んで来ておるぞ。」
「どれどれ・・・おや?あれは」
神槍メイセラティは直ったばかりの
ラハの胸板を貫通した。




