第三百九十九話 捕虜尋問お食事付
「・・・・む・・・ぐぅ。」
「・・・・あら?」
お
同じタイミングで意識を取り戻すとは
仲の良い兄妹だな。
「おはよう。」
「あ兄貴?!」
「・・・お兄様??」
二人共動いたのは首から上だけだ。
ピクリとも動けないようだな。
これは大成功か。
「「なんでっ縛り付けられてる」」
「んだ?!」
「の?!」
語尾の差異は性別によるものだ
誤差の範囲と言う奴だ。
それにしても説明が必要か
まぁ寝ぼけているかもだ。
俺は丁寧に教えてやった。
「俺をぶっ殺しに来た相手が
気を失ったんだ。そりゃ縛るだろう。」
「そ、そうだな。そりゃそうだ。
でもよ兄貴、この程度の鎖で
俺の動きを封じられるとでも思ってんのか。」
流石は改造人間
鎖の駒、一個およそ5cm
駒の太さ5mm程度だ。
元の世界じゃ
トラックだって引っ張れる強度だが
千切れる自信があるようだ。
丁度良い、テストしてもらおう。
「出来るモノならやってみろ。」
俺の言葉を合図にヨハンは
右上腕を45度まで開くが
鎖は千切れずヨハンは悲鳴を上げた。
「いででで!何だこりゃ?!」
「俺がただの鎖を使うと思うか?」
この鎖は伸縮性がある。
いわば鉄の輪ゴムで括りつけられているのだ。
鎖の駒は二種類からなる。
一つはなんの変哲も無い普通の鎖の駒。
秘密はもう一種類の方だ。
バネだ。
太さ1.5mmの鋼線でバネ加工し
それを鎖の駒に更に加工した。
それらが互い違いに組み合わさっている構造だ。
何種類も車を作って来た経験が
ここでも生きた。
最初の頃はバネ作れなくて
板バネで代用したんだよな。
この鎖は
どんなに引っ張ってもバネの駒が伸びるだけだ。
引っ張って千切るには鎖の全長の倍以上引かねばならない。
巻き方も工夫した。
片方の足と支柱を巻いたら
次は残りの片方と支柱
この要領で巻いて行くと
動かせば違う場所が締まるのだ。
そしてバネならではの地獄が待っている。
伸ばしたバネをうっかり戻すと
「痛ててて毛挟んだ!!」
幼い頃、自宅にあったトレーニング用具で
エキスパンダーと呼ばれる器具があり
複数のバネに取っ手が付いていて
両手を使って伸ばし大胸筋を鍛えるのだ。
親父はしょっちゅう胸毛を挟んで悲鳴を
上げていた。
今でも売ってるのかなアレ・・・。
「ふはは諦めろ!!」
「くっそう!ダメだこりゃ」
バインバイン言わせながら
ヨハンはもがいているが
どこかしらが必ず柱に締まる様に
巻いてあるので脱出出来ない。
力押しではどうにもならないのだ。
「流石です。お兄様・・・ってわ私は
どうして縛られているんですか?」
「ヨハンを殺させない為だ。」
俺がピシャリと言うと
ストレガは俯いてしまった。
もう冷静になったようだな。
これなら大丈夫か。
「俺の為に怒ってくれたんだよな。
それは素直に嬉しい、ありがとうな。
でもな、ヨハンには聞く事があるんだ。
殺されると困るんだ。
・・・大人しく出来るか?」
「はい。ごめんなさい。」
しおらしい。
途端に縛り付けている事に
心が痛んだ。
すぐ開放してやろう。
「良い子だ。すぐ外してやるからな。」
「いえ、ハァ・・反省には
ッウン・・罰が必要・・・ハァ
このままで・・・アン」
何かストレガの呼吸が荒い。
キツすぎたか・・・いや
コイツ呼吸不要だよな。
何だ。この反応は・・・。
「アッ・・・締まる・・・クゥ
いや・・・・あぁ・・・。」
頬も紅潮して息遣いが
荒いと言うよりは扇情的な方向に行っていた。
そうかー性癖はそれぞれだが
嘘だろおい。
動きを止めたはずのヨハンが
腰の辺りを急に動かして悲鳴を上げた。
「痛てててて挟まったーっ!!
ココは洒落にならねぇ
頼む兄貴ィー!!」
手足を動かしていないのに
何が
どうして
バネを伸ばす事になったんだ。
そうは思ったが俺も男だ。
同性ならば
この時ばかりは敵味方無しに救助に入るだろう
俺はすかさずヨハンの救助に入った。
ヨハンの救助中に
完全膝カックン耐性が接近物体を感知した。
脳内センサーが鳴らないので
俺は救助を続行した。
「トゥ!!」
普通にジャンプすれば良いのに
何故か錐揉み縦回転をして
10m以上もある木々を飛び越え
そいつは近くに着地した。
「やはり、こうなりましたか。」
そう言ってシロウは変身を解きながら
近づいて来た。
すんごい厚着のユークリッドに姿を変えた。
「アレ?寒いのは嫌なんじゃ・・・。」
緊急事態を脱したヨハンはそう言って迎えた。
「行かないとは言っていないですよ。」
いつもは背筋をピシッと伸ばして立つのに
今は猫背だ。
寒いのが苦手なのは本当の様だ。
「アモーン!!」
反対側から声が聞こえた。
見ればキャリアが前進して来ていた。
声の主は御者席のミカリンだ。
タイミングを合わせ
アルコはミカリンの隣に飛び乗った。
「起きて大丈夫なのか?」
俺は呑気にそう言ったが
強い調子で返された。
「あんな大爆発で寝て何ていられないよ!!」
そりゃそうだ。
ごめんなさい。
「お陰で場所が分かりましたよぉ。」
呑気に言うユークリッド。
感知系は弱い様だ。
探すのに苦労した様子が窺えた。
「・・・ええと、ヨハン。」
俺はヨハンに提案した。
ヨハンは従い快諾した。
降参を認め戦闘行為を放棄する約束で
ヨハンを開放した。
また変なトコロを挟んでしまっては
話にならないだろう。
そう思った俺は特に疑いもせず開放した。
「アンっ、イヤッお兄様の鎖があああ」
さっきのストレガも怖かったが
今のストレガも方向が大分違うが
これはコレで怖いので
開放する事にした。
こんな姿をみんなに見られては
後で怒られそうだ。
早目に開放したかった。
ちょっと残念そうだった。
「このままお昼にするねーっ何人分?」
突発で人数が増える。
これがデフォルトになっている様だ。
ブリッペは窓から顔を出して
そう聞いて来た。
停車したキャリアの前で
テーブルセットを広げ
昼食会談となった。
傍目には
この集団はどんな風に見えるのだろう。
まぁ周囲に人里も無いのだが
俺はそれが少し気になった。
「宣戦布告だって?!!!」
俺は腰を椅子から浮かして
驚いて言ってしまった。
「して無ぇのか?ハンスがそう言ったぞ。」
ヨハンも驚いて答えたが
女子軍団が冷めた目で宣戦布告を肯定した。
「覚えていないぞっ!!」
大ダメージ直後の行動は
俺の中で前後不覚だった。
「四大天使を差し向けたのはこちらです。
言って見れば布告無しの奇襲を仕掛けたのは
コチラですからねぇ
アモンさんの布告ある無しは
あまり関係が無いですよ。
もうこちらは臨戦態勢なのですから」
ユークリッドの言う通りだ。
俺の言った言わないで
変化が生じるのは教会側ではなく
俺達の方だろう。
話を進めよう。
俺の考えを酌んだのか
ユークリッドは続けた。
「四大天使が討伐に向かい失敗
二人は未帰還、二人は重症で戻って来ました。」
神々はパニックで大混乱だそうだ。
不可侵を宣言した相手に
最強戦力でそのザマだ。
作戦としては大失敗と言える。
「命令には2名以上の神が必要だ
誰と誰が命令したんだ。」
俺の質問に食事を続けているミカリンとブリッペを
チラ見するユークリッド。
俺は首をかすかに横に振って答えとした。
命令に関する事柄を自白出来ない
何らかの仕掛けが施されていた。
二人共この件に関しては
ポカーンとしてしまうのだ。
頭に霞が掛かった様になって
思考出来なくなるそうだ。
以前、ハンスが知らない事は答えられないと
思考プロテクトの研究
その発端を話してくれたが
神々はとうにその技を有している様だ。
この辺は天使が道具である事を
思い知らせてくれた。
「確認してはいませんが・・・。」
ユークリッドはそう前置きをして
現状を説明してくれた。
神々の派閥は3つに分かれていたそうだ。
ミネバ、ユノの「武闘派」
ケイシオン、イクスファスの「穏健派」
ヴィータに代表される その他大勢の
「どっちでもいいから決めてくれ派」だ。
可能性として武闘派の二人だそうだ。
俺もそう思う。
俺はユークリッドの言い回しで
気になった事を尋ねた。
「分かれていたって事は
今は違うのか?」
ユークリッドとヨハンは
顔を見合わせて
お互いに頷いた。
「今は全員、武闘派だ。」
ヨハンがそう言った。
「何で?!」
俺はまたしても
大声を出してしまった。
他はともかく
ケイシオンとヴィータが
そうなるなんて信じられなかったのだ。
「何でって・・・そりゃあ
兄貴がヴィータ様を始末したからに決まってるだろ」
俺と女子軍団、全員が声を上げた。
「「ハァ????」」




