第三百九十八話 壮大な戦いの最中に兄弟喧嘩って
脱兎の如く駆け出すヨハンの
その背中目掛けてストレガは左手を翳した。
合わせて俺はテーン風盾をストレージから
出しながら射線上に割り込ませた。
激しい金属音が響く
俺は思わず確認してしまった。
手が千切れてやしないかと焦った。
無事だった。
測った事は無いが半魔化での握力は
もうプレス機並みだ。
だと言うのに盾は俺の手から離れ
空中で激しく回転してしまった。
いくら徹甲弾でもこれはおかしい。
ストレガのボディ強度で
撃てる限界を超えた威力だ。
「ガァァアアア!!!」
見ればストレガの左腕に
何か魔法陣らしき物が浮かんでいるのが見えた。
魔法で強度の不足を補っているのか。
「ヨクモ ヨクモ
オノレ オノッレ オノーレ!!」
更に激昂するストレガ。
アルコは毛がビンビンに逆立っていた。
ストレガから溢れる黒いオーラに
完全に気圧されて腰が抜けたのか
尻もちを着いてしまっていた。
踵から炎を噴き出し上昇するストレガ
俺は翼を展開しヨハンを追う
ついでに弾き飛ばされた盾を拾い上げ・・・って
盾はひしゃげていた。
シロウの蹴りでも一発でここまでは行かなかったのに
何て威力だ。
飛びながら金属操作で
取り合えず持てる様に形を変えた。
「人間どもが裏切っても
悪魔どもが見捨てても差し出しても
クソッ垂れ神々が利用して捨てても
私達だけは!!
私達兄弟だけは
お兄様の不変不朽の味方じゃなきゃ
いけにないのにぃいい!!」
射撃音。
今度はぬかりなくガッチリホールド
傾斜させて構え
重力操作も併用して受け流す。
すごい威力だ。
いなし切れず地面に一度バウンドしてしまった。
体勢を立て直し
走るヨハンの背後に
速度を合わせて滞空する俺。
改造人間の全力疾走は速い
海上を低空飛行するジェット機のように
一足ごとに雪柱が立ち上った。
しかし飛行する俺やストレガには
及ばない逃げ切るのは無理だ。
「だからっ
そう思えばこそ
クソの付いたパンツでも
洗ってあげたのに!!」
射撃音。
今度は上手くいなせた。
「お前そんな事させてたのか
そら怒るわ!!」
叫ぶ、俺。
「わざとじゃ無ぇよ。
タマにはあるだろそう言う事」
叫んで返事するヨハン。
「無いよ!!」
そう返したが
あるのか?
年食ったらあるのかもだが
この若さでそれは無いだろう。
それとも人によるのか。
その後も
何か過去の因縁を叫んでは
射撃を繰り返すストレガ防ぐ俺。
ヨハンはだらしなく
ストレガは几帳面だった事が
良く分かった。
埒が明かない拮抗状態かと
思ったがストレガの腕に異変が見えた。
過度の威力が反動で腕を破壊し始めている。
もう限界だ。
止む負えん。
強制的にでも抑え込むしかない。
俺がそう判断した時
ストレガも自身の状態を把握はしていた様だ。
腰のベルトから何かを
左腕にセット・・・って
以前見せてもらった事がある。
あれ中身は火薬じゃないか
飛行の際、体内保管分を使い切った時用の
言わば予備の燃料タンクだ。
これは榴弾になるぞ。
今までは貫通力を重視した硬い弾丸
徹甲弾だったが
次の弾は当たった瞬間
広い範囲に被害を及ぼす弾だ。
貫通を目的としないので
発射に必要な火薬は少なくて良い
目標まで届けばよいのだ。
発射した。
デビルバリアを展開しようと
思ったが遅かった。
俺とヨハンの距離
俺とストレガの距離
これが等間隔だった。
このままヨハンを守るために展開すれば
榴弾とストレガを含むドームが完成してしまう。
これでは守るどころか
瞬間圧力鍋になってしまう。
仕方が無い
弾速も遅い、このまま横っ面を
引っ叩く様に盾ではたいて
遠のけるしかない。
この至近距離で撃ったということは
大した規模の爆発では無い
なぜならばストレガ本人が
巻き込まれては元も子もないのだ。
この間合いでストレガ本人が安全である。
つまり威力は小さい。
俺はそう判断し盾で引っ叩いた。
爆弾では無く燃料タンクだ。
良く考えたら信管などないので
傾斜装甲で受け流せば良かったのかも知れない。
落ち着いて軽くやれば良かったのだが
俺も焦っていた。
そこまで思い至らなかった。
強く叩き過ぎた。
俺の腕力で叩かれた燃料タンクは
その瞬間、弾かれる事無く破壊圧縮点火と至り
大爆発になった。
核爆発でも無い限り
通常の爆薬は爆発時に閃光など発しないはずなのだが
インパクトの瞬間、その一瞬だけ
世界は色を失い、白い光と黒い影だけになった。
俺は当然、撃ったストレガ本人も
同じくらい離れていたヨハンも
つまり全員、爆発に巻き込まれた。
激しく地面に叩きつけられバウンドする俺
遠くで悲鳴を上げているアルコが見えた。
良かったアルコは無事か
煙を纏いながら錐揉み回転
やがて重力の影響で方向が徐々に下向きになった。
何か体が痺れて上手く動かない。
やがて俺は地面に叩きつけられ
激しく転がった。
雪がブレーキの役割を果たしてくれたお陰で
そこからの距離は短くて済んだ。
雨の日のグリーンみたいだ。
飛んだ勢いにしては不自然に減速し
短い距離で止まった。
痺れは直ぐに回復し
俺は雪の中から飛び出し
その場で滞空した。
見渡すが動いているモノは
立ち上る煙だけだった。
雪が軽いクレーターを形成していた。
爆心地はあそこか
結構、飛ばされたんだな。
俺はMAP画面を開いて
二人の場所を特定した。
近い方のストレガの近くに移動した。
近くまで来ると
どこに埋まっているのか直ぐ分かった。
両足が雪原から天に向かって生えていた。
我が妹ながら見事だ。
ぶっ飛ばされ方として
非常に高得点な着地と言えよう。
俺は拍手をしながら
近づきつつデビルアイで容態を診た。
俺と同じで痺れているだけだ。
エネルギーの変異が通常の流れを
取り戻せば意識も回復するだろう。
一番ダメージを受けているのは
無理な射出を繰り返した左腕だ。
「スレンダーなんで大根足じゃあないんだがな。」
俺はそう言って
雪原から生えている
二本の大根を持って引っこ抜いた。
そして大爆笑した。
ストレガは気絶しているのだが
表情がスゴイ事になっていた。
白目を見開き
口を全開で開けているのだ。
口の中から薄っすら煙まで立ち上っていた。
どんな美人も台無しな表情だ。
通常、気絶をした時は
痙攣などを除けば力は抜けるので
当然目も口も閉じる方向に行くモノだ。
こんな力を入れていないと出来ない表情のまま
気を失うなんて
和月伸〇のマンガ以外ではあり得ないと
思っていたのだが
「い・・・今のは効いたぞ。」
先程の突き刺さり方は誘いで
こっちが本命の二段構えのオチだったのだ。
完全にしてやられた。
見誤った。
肉親という事で冷静に分析出来なかったようだ。
ストレガはお笑い芸人としても
俺を上回る逸材だったのだ。
「ふっお前に負けるなら、それでもいいさ。」
ストレージから鉄骨を出し
地面に突き刺し
ストレガを一番太い鎖で雁字搦めに固定した。
今日のストレガは俺の想定を超える事ばかりなので
二倍程厳重しておいた。
ヨハンも探し出し同じ様にして
ストレガの横に並べた
流石は改造人間、俺が盾になっていたとは言え
あの爆発でこの程度のダメージとは
何と言うタフガイ。
二人共、素晴らしい耐久力だ。
作った奴の顔が見たい。
しかし、世界の命運を左右する戦いの最中に
兄弟喧嘩とは
と
そう思ったのだが
大作や名作でも良く考えると
親子喧嘩だったりするものが多いので
これで良いと
俺は無理やり納得した。




