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ぞくデビ  作者: Tetra1031
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第三百九十五話 閑話・分身

起きた。

脳みそを鉛に交換したかのような頭痛を感じ

自分で治療呪文を唱えた。


慣れたハズのキャリアの寝台だったが

宮本たけしサイズだと狭い

チンチクリンの方が良い事もあるのだなと感じた。


窓から差し込む光で昼間だと分かった。

もっと爆睡するものと思っていたが

普通に目覚めるモノなのだな。


ベッドから抜け出すと

その寒さと体の節々が悲鳴を上げている事で

意識は急速にその輪郭をハッキリとさせられた。


「どこだココは?!」


車窓のカーテンを除けて

景色を見た瞬間に俺はそう叫んだ。

そこはミガウィン地方の荒野では無く

広い雪原だった。


床から伝わる冷たさに

奪われる体温を少しでも減らす為

俺はボールの上にでも乗っているかのように

足の小指側の側面だけて立ち

さらに交互に足踏みを自然にしてしまっていた。


「おいおい車内まで氷点下とかじゃないかコレ」


俺は辛抱堪らず半魔化した。

変身する際の感覚から

回復は上手く行った事が分かった。

ただ悪魔状態でどの程度の力の行使に

耐え得るのかは探りながらテストした方が良さそうだ。


「まぁそれは後にして、今は防寒具だ」


ストレージを探そうとして

ふと気が付いた。


車内のテーブルにキチンと折りたたまれた

衣服が見受けられた。


防寒具だ。


新品かどうかは分からないが

工場の無いこの世界の品物は

完成した時点でも古着っぽいのが常だ。


車内には誰も居ない。

つまり全員外にいるのだから

この服の主は俺という事で良いのだろう。


広げて各衣服を確認して

着る順番を決定した。


靴下があったので

そこから取り掛かった。

テーブルの下にも防寒ブーツがあったので

下半身先行で身支度をしていく


俺ので合っていたようだ

サイズが驚くほどピッタリだ。

チンチクリンと違って

この宮本たけし寸法を知る者は

いないハズだが

良く準備出来たモンだ。


機能性を重視しつつも

意味不明なアタッチメントや

模様など独特の文化を感じるデザインだ。

元の世界で言えば

エスキモーっぽい

そして、その見た目を裏切らない高性能だ。


衣服の内側は全て何かの毛皮で

細かく短い毛がビッシリだ。

これが体温を実に良くキープしてくれていた。

手首足首などの折り返し部分は

別の素材で恐らく水鳥などの羽毛だろう

油分を含んでいる感触だ。

水を弾いてくれそうだ。


「オキムンペーッ」


舌っ足らずな甲高い声で

ついそう叫んでしまった。


そして咳き込む


喉はカラからだし

腹も減っていた。


誰か探すより何か食ってしまおう。

俺はストレージから適当に食事を

取り出して、そしてあっという間に

平らげた。


この時間経過しないストレージは最高だ。

熱々の出来立て状態は

この寒さの中では極上の旨さになった。


「・・・足りないな。」


俺は取り付かれた様に

食っては取り出しを繰り返した。


「大丈夫か、俺?」


自分でも不安になる程食った。

大学時代でもこんなには食わなかった量だが

大食いタレントの様に平らげて行った。


「考えるな、感じるんだ。

ドンシン フィーィィィだ。」


体の求めるままに食い続けた。

こういう時はそれが正解なのだ。


満腹になるまで食い続け

満足した所で熱いお茶を注ぐ

炭水化物を摂取した事と

この防寒具のお陰で体温は急速に上昇していく

薄っすら汗をかく程だ。


誰も居ないので

ゲップも遠慮なく大きいのを放った。

自分でも鳥肌が立つほどスゴイ音だった。


「さて行動を起こしますかね。」


先程から何度も言っているのだが

体が言う事を聞こうとしない

背もたれに体重を預けっぱなしで

動こうとしないのだ。


「お兄様!!」


いつの間にか寝ていた。

ストレガの声で意識を戻した。


「うん。」


返事はしたものの目が開かない。


「お身体の方は大丈夫なんですか。」


小走りで駆け寄ってくるのが足音で分かった。


「うん。」


「・・・駄目なんですか?」


「・・・うん。」


「・・・どっちなんですか?」


「うん。」


駄目だ、眠い。

俺はヨロヨロとベッドに戻ろうと

椅子の上でジタバタを始めた。


「ハイハイ。」


察したストレガが

俺をベッドまで運んでくれた。


他にも何か会話した様だが

良く覚えていない。

俺は直ぐに眠りに落ちた。

前回の様に苦痛に苛まれながら意識を失う睡眠では無く

気持ち良さにあやされながら緩やかに移行する眠りだ。


「おやすみなさい。」


「う・・・。」


片輪が岩に乗り上げたのか

キャリアは大きくバウンドし

着地の衝撃を吸収しきれず

その後も左右に数度揺れた。


「オキムンペー!!」


衝撃で目を覚ます。

そう叫んで俺は半身を起こして

頭を激しくキャリアの天井に打ち付けた。


「ごあっ!!」


車内のスペースを確保する為に

ベッドを天井付近まで

上げられてしまっていたのだ。


「マスター!」


「ぶえ生き返った!」


「ミカリン!ちょっと停めて!!」


下の方で声が聞こえた。

キャリアは直ぐに減速し

車内の揺れは収まった。


「リディ!!」


上に上げているせいで

ベッドのすぐ横にアリアの顔が現れた。

両手もベッドに添えているので

なんか懸垂の上死点みたいになっている。

力んでいる感じでは無い

これが本当に懸垂なら大した腕力だ。

そう言えば斜め懸垂って今でも

女子は体力測定で行っているのだろうか。


「おはよう。血出てない?」


俺はぶつけた場所を見せる様に

アリアに言った。

細い指が髪の毛を除けて

地肌をチェックしてくれているのが分かる。


「大丈夫です。」


「後・・・禿げてない。」


指の動きが止まり

少し間を空けてアリアは返事した。


「・・・・だ大丈夫・・・です。きっと」


「・・・お前を信じる。」


俺はアスレチックでもしているかのような

体の動きでベッドから降りた。


何でも適切な高さがある。

この位置はベッドとして相応しくない。

普通の動作ではアチコチぶつかる

そして何より危険なのが

中途半端に高い事だ。

ハシゴを掛けるほどでは無いが

寝ぼけていれば怪我も有り得る高さだ。


俺はワザと寝ぼけたフリをして

一番近くに座っていたブリッペに

倒れ込もうとしたが

咄嗟にメイセラティを構えるのを見て

止めた。


あいつ

あんなに素早く動けるんじゃねぇか。


猛烈な排泄欲に襲われた俺は

トイレに駆け込み用を足す

すんごい出た。

分裂でもしてるのかって位出た。

どっちが俺だって位出た。

まぁどっちにしてもクソ野郎なんですけどね。


産み落とした分身から

立ち上る湯気を思わず避ける。

さっきまで俺の一部であり

今なら俺と同じ体温を持っている

分身という表現も

あながち外れてはいないのでは


それにしても

スゴイ量だ。

なんか流すのが勿体無い


俺は扉を開けて言った。


「すっごい一杯出た。見て見て!!」


物が飛んで来た。


出展

オキムンペ アイヌ語で「山津波・地すべり」

ドンシンフィー ブルース・リーの映画の名セリフ Don't think ! Feel.


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