第三百九十三話 消えない理由
呪いは解けていた。
人化してみると
俺もチンチクリンでは無く
宮本たけし状態だった。
登録してあった衣装は子供サイズだったので
人化した瞬間パンパンになって悲鳴を上げてしまった。
冒険者ゼーター用の衣装を取り出し着替える。
平然とまっぱだ。
皆が非難の合唱だったが気にせず俺は着替えた。
「・・・・眠い。
後、猛烈に空腹だ。」
「すいません。お兄様
荷物は全て破壊されて残骸しか・・。」
四大天使ラハの攻撃だ。
無事なモノがあるはずがないな。
このメンツで薪を集めて
火を起こしただけでも良しだ。
俺は返事の替わりに
ストレージから退役したアモン・キャリアを取り出した。
取って置いて良かった。
短い退役だったな。
F-4ファントムかって位
こき使う事になってしまった。
食材も取り出し
調理の方は任せた。
人化のままだと眠りに
落ちてしまいそうだったので
半魔化したが
その瞬間、痛みが走った。
これは人状態での回復が足りて無い影響だと
体感的に分かった。
「メシ食ったら、寝るぞ俺は」
アルコとアリアがキャリア内で
料理をしている間
残りは外で焚火を囲んだ。
椅子とテーブルも取り出す。
新品を偽馬車に積んであったのだが
同様にぶっ壊れてしまったので
これまた退役予定だった。
ヒタイングの海辺セットだ。
ミネバインの衝撃波で吹き飛ばされたせいで
大分ガタが来ていた。
「どうやって助かったんだ。」
俺は真っ先に思い浮かんだ疑問を
ストレガに尋ねた。
「お兄様の様子から・・・。」
ストレガは俺が飛びったった後の事を話始めた。
悪魔状態で急いで飛び立った俺のただならぬ様子から
ストレガは最大級の危機と判断し
助勢に向かおうとするアリアとアルコを
足を引っ張るだけだと説得した。
偽馬車も標的になる可能性を考慮し
大事な物だけ持ち出して直ちに下車
ストレガは鎧を着こんで脱出。
その後はお得意の隠れる魔法で潜伏し
様子を窺っていたそうだ。
俺の危機に居ても立っても居られず
せめて逆転のキカッケにと
鎧だけ射出したそうだ。
ラハはもぬけの殻になった鎧と馬車を
攻撃してしまったのだ。
「あまり役には立ちませんでしたね・・・。」
「いや、お陰でこの二人が間に合った。
良くやった。本当に良くやってくれた。
アルコとアリアそして何よりお前を
失わずに済んだ。」
俺なんかより
よっぽどシッカリしている。
俺の言う通りに行動していたら
全滅だったかもしれないな。
半魔化なので涙は出ないが
何か声は泣いているかの様に
震えてしまった。
俺に釣られてストレガも
見る見る涙を浮かべた。
同じ悪魔ボディなのに
この辺の操作のきめ細やかさも
ストレガの方が上だ。
「ウルとラハはどうなったんだ。」
落ち着きを取り戻した所で
俺はあの後の成り行きを
ブリッペとミカリンに聞いた。
「あーうん・・・。逃がしちゃった。」
凛々しい大人顔だが
表情の動きはミカリンのままだ。
不快感を感じないし
背中に羽も無い。
再臨の際に人化を獲得しているとの事だった。
これも今回の呪いの状況下での
経験が生きた事だそうだ。
「逃がしてあげたんだよね。」
同様に人化したブリッペが言い直した。
完全に逃げの体勢だったので
追撃に時間を費やすより
俺の保護を最優先したんだと
ブリッペは追加で言った。
「しかし、二人とも人化を獲得したのは有難いな。
こうして一緒にいる事が出来る。」
俺はそう言ったが
ミカリンはバツが悪そうに答えた。
「良い事ばっかりじゃなくてね・・・。」
逃げるウル、ラハに命令が効かなかった。
これは今のミカリンには
天使長の権限が無い事を意味していた。
「多分、下級天使にすら命令出来ないんじゃないかな。」
四大天使解散か
俺は気になった事を聞いて見た。
「強さ的にはどうなんだ」
表情を一変、明るく笑うと
ミカリンは答えた。
「うん。それは以前通り
覚えた事を合わせると強くなった位。」
頼もしい。
ここでブリッペが心配そうに言った。
「ブリッペ達、神様に逆らったんだよね。
これから消えちゃうのかなぁ・・・。」
自分の状態が酷く
他人の事を気に掛けている余裕が無かった事と
今、目の前で元気にしている姿を
見ていたせいで失念していた。
存在の力の消失。
神の御使いである天使が
神に逆らえる道理が無いはずなのだ。
「それは、多分だけど
今回に限ってだと思う。」
ミカリンは自分の右手を握ったり開いたりしながら
自論を述べた。
通常ならば神に任を解かれ
地上に落とされて二度と天界には
戻れないと言われていたそうだ。
「今、その天界が無いのか」
俺はそう言って何となく納得した。
全降臨、地上に天界そのものを降ろすので
ここは今、天界でありながら地上でもあるのだ。
人化を獲得している事も
関係しているような気がした。
「ぶぇえ、じゃあ全降臨が終わった後はどうなるの」
ブリッペは泣きそうになりながら
そう言った。
俺とミカリンは顔を見合わせて
お互いに首を傾げた。
「前例が無いからね。」
「終わってみないと分からんな。」
この辺のお気楽さは
やっぱりミカリンだな。
「そんなぁ・・・責任取ってよアモン」
「取ってさしあげては?」
必死に訴えるブリッペと
あっさり言うストレガ。
いや責任て言われても。
まぁ出来る事なら取るのもやぶさかでは無いですよ。
でも、その前にハッキリさせておきたい事があった。
「ちょっと待った。神槍メイセラティだが」
「良い槍でしょ。あげないよ」
ブリッペがそう言って
何も無い空間から取り出した。
天界からの移動時には
上方向に光の輪が出来たのだが
今回は別の場所に天界は無い
俺のストレージと同様のようだ。
「それは自動で敵に飛んで行くんだよな。」
「えへん!そのお陰で命中率では
何とあのラハッチを上回る成績のブリッペなの」
それ、お前が偉いんじゃないから
この突っ込みは置いておいて
俺は続けた。
「つまり、お前は自分の意志で
標的を狙って投げてない。
あの時もラハに刺さって
お前、自身が驚いていたもんな。」
何かに気が付いたストレガが
先程とは違い真面目に言った。
「・・・それは、つまりブリッペには
お兄様を助けるつもりが無かったと?!」
慌てるミカリン。
「ええ?!そうだったの?僕はてっきり・・・。」
横を向き
口笛を吹きながら
間合いを広げていくブリッペ。
俺は追い詰める様に言った。
「いや多分
早く終わらせたくて適当に
奥義を放ったら味方に命中してしまいました。
私、もしかして堕天使一直線ですか?
リストラ最上級天使が地上で就活?
だ。」
「そ、そっちのタイトルの方がPV稼げたね絶対」
何て反撃をするんだ。
逆ギレにも程があるぞ。
「のうアモン」
「何ですか吉岡さん」
「その呼び名止めい。それより作者を見よ」
「おぉ胸板に槍が貫通してるなぁ」
「続きは書けるのかの」
「ここまで来たら書くんじゃないか。もう少しだしな」




