第三百九十二話 最低アーン
コントが始まった。
「ぬ抜いてください!痛いぃ」
エロマンガの破瓜シーンを思い出した。
普段スカした顔してるクセに痛みに事の他弱い様だ。
ラハは刺さったメイセラティが
それ以上動かない様に跪くのを
フラフラしながら何とか凌いでいる状態で
懇願していた。
「ぶわぁあ、もっ戻れメイセラティ!!」
「ぎゃあああ抜いてから抜いてから!!」
刺さったままブリッペに戻って行こうとするメイセラティ。
傷口を広げない様に逆らう事無く
ヨチヨチの全力疾走で槍の移動に
自身の体を移動させるラハ。
何か釣り針が引っ掛かった人みたいだ。
「火炎斬!ヒートアロー!!バーストレイッ!!」
大天使だと人状態の縛りが無い
帯剣しながら魔法も放てるようだ。
ミカリンは剣撃、魔法、スキルの光線と
一呼吸で3回の異種攻撃を繰り広げていた。
ヒデェな。
あんなのどうやって凌ぐんだ。
「グゥ!ごはっ!うがああ!」
ご丁寧に全部食らうウル。
焼き切られ、穿たれ、撃ち抜かれていた。
「逆です。お尻の方を通過させないと
体積の多いスピアヘッドが引っかかって
ああああああああああああああああ!!」
「ぶええええ。そんな事言われたって」
ノコギリの行ったり来たりさせながら
傷口を散々いたぶり
何とか槍を抜く事に成功した様だ。
「ぐぅ、ウル!何をしているのです。
私と違って炎は不利属性では無いでしょう!!」
傷口を押さえながら回復に全力のラハ。
ブリッペは泣きながら回復を手伝っていた。
「ぐぅ!そうは言うがこちらは盾も槌も無い。
ミカの方は二本に増えた様なモノだぞ。
貴様も見ただろう・・・・つ強いぞ!!」
ナパーム弾の倉庫が火事になると
きっとこんな感じなのだろう。
絶え間ない爆発と荒れ狂う炎の中で
黒い影絵の様な人影・・・あれがウルなのか
が
そう叫んだ。
なまじ頑丈であるが故に無限の責め苦だ。
生き物ならとっくに果てて楽になっていただろうに。
「あはっウル大ーっ好き!!
簡単には壊れないだもん!!」
何て嫌な告白だ。
この隙にさっさと回復をしたいのだが
こんな近くで四大天使が
揃いも揃って盛り上がっていると
消えないように耐えるだけで精一杯だ。
なんか
意識が
どんどん薄れていく
あれか
蚊取り線香で人知れず息絶える蚊って
きっとこんな感じなのか
注目してもらえる死は
それだけでも有難い事なのかもしれない。
音も光も地面の振動も
遠くに離れていく
俺はそのまま意識を失った。
ゲームオーバーの表記も無い
空間を転移する感覚も無い
炭が独りでに再点火した様に
意識だけが再起動した。
それもセーフティーモードの様で
辛うじてだ。
飛び起きるようなパワーは無い
薄ぼんやりと自意識が形を成し始めた感じだ。
微睡の境界線上をうろついていた。
自分の体がどうなっているのかも分からなかった。
ただ声が聞こえた。
「本当に残骸で良いのでしょうか。」
アリアの声だ。
「はい、お兄様は金属を食べます。」
ストレガだ。
いや、食べるワケじゃないんだ。
取り込むと言う観点から見れば
食事と言えなくも無いが
「口に入るサイズにしないとダメでしょうか」
アルコだ。
俺も死んでみんなと同じ場所に行けたと言う事か
悪魔だけど大丈夫なのかな
と言うか
悪魔が死ぬと何処に行くのだろうか。
顎に触れる細い指
これはアリアだな。
つかよく分かるな俺
細い指が俺の顎を強引に押し
強制的に口を開いている様だ。
「あっ・・・あああああん」
力が必要な様でアーンが可愛く無くなっていた。
アリア、無理に言わなくても良いんじゃないかな。
「行きますよ!指挟まない様にして下さいね!」
アルコの声の後
ギィン!!
と言う金属同士のぶつかり合う音が響き
口と後頭部に衝撃が走った。
馬車の残骸である鉄骨を
アルコが肩で担ぎ俺の口へと突き出したのだ。
・・・絵的にはトドメを刺している様にしか
きっと見えない。
人生で一番ひどいアーンだ。
「食べて!お願い」
無茶言うな。
どういう常識なんだ。
とは言った(考えた)ものの
偽馬車のフレームは俺の体内から
生成した鉄骨だ。
親和性が驚くほど高い
スルスルと吸収していった。
「ぶぇええ食べてる?!
見て見てキモチワルイよぅ」
ブリッペだ。
お前も死んだのか
つか気持ち悪いのなら見なければ良いのに
そして嫌な事に他人を巻き込もうとするなよ。
戦闘の最中、回復を行いやすい様に
自分が撃ったスパイク群に陣取る様にしていた。
ウルのスパイク本体は勿論
時間切れで戻った地面にも
地味に神聖属性を帯びていたので
そのまま取り込むとダメージが入るのだ。
まぁ結局は抵抗するのに一杯一杯で
回復作業は行えなかったのだが
戦闘が終了し転がった地面は
自陣だったので
死んだ振りでもしながら吸い上げようと
思って居たら・・・
そうだブリッペとミカリンが来て・・・。
「次行きますよ!」
「ハイッ!!ああああああん」
「はいっ」
ギィン!!
「ぶぇええ手足生えて来たよ。」
「便利なのかデタラメなのか。」
「お兄様は万能なのです」
今の会話
ミカリンが混じっていたか
何か声が・・・ああ大人バージョンか
呪いのせいで14歳付近になっていたのだから
解かれれば本来の大人に戻るのね。
ってミカリンも死んだって事か
この辺りから急速に意識は回復していき
通常モードになり始めた。
「・・・もう一本いけますかね。」
アルコや
そんなアスパラを材料にした
健康飲料みたいに言わんでも
「ハイッ!あああああああん」
「ハイッ!!」
ギギィン!!(細かくバウンドした)
いい加減起きるか
「痛いわ馬鹿者ー!!」
「「「「「きゃあ」」」」」
場所は戦場になった荒野。
時間は夜になっていた。
焚火が燃えてこじんまりと周囲を照らしていた。
悲鳴を上げた女子軍団
それぞれの頬には
皆、涙の跡が見て取れた。
「リディ!!」
「マスター!」
「お兄様!!」
「ぶぇ生き返った」
「わーいアモーン」
ブリッペを除いてタックル抱き着きだ。
そしてすぐ痛がっていた。
ゴメン、悪魔状態だと鋼の体だから・・。




