第三百九十一話 激闘四大天使
覚悟の差か
準備の差か
二体一という戦力の差か
前回の圧勝が嘘の様に俺は追い詰められて行った。
体の端から徐々に削られていき
傷口に帯びた神聖属性と
絶え間ない追加攻撃が
再生の機会を奪っていた。
遂に俺は胴体と頭だけになり
地面に転がった。
勝利を確信した二人は警戒を解いて
俺を見下ろしていた。
「貴様に教わった魔法、中々良いものだ。
改めて礼を言うぞ。」
「神には今の一言、聞いていなかった事にしますよ。」
がっちり大地に足を下ろし
油断なく大地のエネルギーを補充しているウル。
少し浮いて滞空し
俺のエネルギー変異を注視しているラハ。
これは悪魔光線の準備をした段階で
撃たれるな。
駄目だ。
勝ち目が無い。
つうか俺に気合が入らないのだ。
岩にかじりついても生きるみたいな
そんなパッションが湧いてこない。
終わりを
敗北を
受け入れるつもりになっていた。
どうでもいい。
一言で言えば
そう言う事なのだ。
不意にラハは横を向いた。
遅れてウルも同じ方向を見た。
何だろう
俺を油断させる意味は
相手には無い。
俺も同じ方向に顔を向けた。
土煙を上げて何かが飛んで来ていた。
日の光を反射して煌めく飛行物体。
黄金の鎧が足から火を噴いて
こちらに向かって来ていた。
ストレガだ。
馬鹿、逃げろって言ったのに
「何の冗談ですかね・・・。」
一言ラハはそう呟くと
手馴れた動作で弓を引いた
「ちょ待ってヤメロ!!」
狙いを定めるラハの表情に
俺は絶望した。
今のラハはちょくちょく会っていた時の
ダウングレードのラハでは無い
神の命令を実行する機械だ。
話合いの通じる相手ではない。
瞬間的直観的に悟ったのだ。
それでも縋った。
それしか出来なかったからだ。
「頼む止めてくれ!」
俺の言葉に反応する様子も見せず
ラハは矢を放った。
見るまでも無い
ラハの射撃の腕だ。
万が一にも外す事は無いだろう。
それでも俺は矢の行方を目で追い
外れてくれと祈らずにいられなかった。
しかし、それは叶う事無く
一撃で黄金の鎧は粉砕された。
血が通っていないのに
貧血を起こした錯覚に捕らわれた。
ストレガが死んだ。
俺のせいだ。
俺に付いて来たばっかりに
置いてくるべきだったか
それも甘いか「メタ・めた」ごと粉砕するのも
こいつらなら何でもない事だ。
もしかして
既に「メタ・めた」も
そこまで考えた時にラハは次射の構えを取った。
嘘だろ。
まさか馬車を
誰言うでもなくラハは呟いた。
「飛び立った場所も念の為に・・。」
「何の危険も無い!!」
無駄と分かっていても
叫ばずには居られなかった。
初撃と同様に俺の言葉に
何の反応も無く次の矢を射るラハ。
ストレガが破壊された場所の遥か後方で
巨大な爆発が起こった。
位置的に俺が飛び立った場所から
移動してはいないと感じた。
俺の言葉に反し
彼女達は自分が助かるよりも
俺の助けになるには
自分達に何が出来るのか
模索していたのだろう。
そう言う良い子達だ。
・・・だった。
アリア
アルコ
「その顔、やはり何か奥の手を仕込んでいた様だな
油断のならない奴だ。」
俺はゾッとした。
こいつら人間じゃない。
天使とか種族的な意味で無く
思考回路として
心として
人間じゃない
「最後に何か言う事はありますか。」
ラハが感情の無い表情で俺に聞いて来た。
そうだな。
「どら焼きが食いたいな。」
その瞬間に撃つだろうと思って居た。
現にラハもそのつもりだったのだろう
腕がそんな感じの予備動作だった。
しかしウルの一言で中断された。
「待て、ラハ。」
ウルは後方の上空を見上げていた。
感知系を起動したいが
全身を駆け巡り絶え間なく俺を
痛めつける神聖属性に抗うのが精いっぱいで
そんな余裕は無かった。
「ほう、思いのほか再臨は早かったのですね。」
二人共、何が接近してきているのか
分かっているみたいだった。
嫌な予感を補完してくれる言葉だ。
想像は着いた
だが信じたく無かった。
そうなる前に破壊して欲しかったとすら
思って居た。
しかし、この残酷な天使共は
俺をいたぶる。
楽しんでいたぶるならまだしも
楽しみもせずに自然にそうしている。
そこも気に食わない。
四大天使が今ここに2人いるのだ
更にここに来る者が居るとすれば・・・。
赤い光と青い光が天を
定規とカッターで切り裂く様に
真っ直ぐ飛行して来ていた。
「呪いの解除・・・こっちには何にも感じないのか」
ギリギリまで解除は待つと言っていた。
ウル・ラハがフルで存在しているなら
もうギリギリは過ぎたと言う事だ。
12枚の翼を広げ
ブリとミカが見る見る迫り
その速度に反して静かにここに到着した。
「見事な活動でした。貴重な情報のお陰で
我々は前回の雪辱を晴らす事が出来ました。」
ラハはブリに向かってそう言った。
ブリの表情も人形の様だ。
何だその顔
似合わない。
お前はブリッペ何かじゃない。
「仮初の肉体とは言え
味合わされた屈辱の数々
晴らしますか?」
ラハはそう言って何も無い空間から
槍を取り出した。
光輪っかが出なかった。
四大天使、愛と水のブリの専用武器
鍛冶の神ハルバイスト作
自動で敵を討つという
神槍メイセラティだ。
ラハは槍をブリに手渡した。
無表情で受け取るブリ。
「お前のも持って来ているぞ。」
続けてウルがそう言って
同じ様に何もない空間から
剣を取り出して見せた。
こっちは天と炎の天使長ミカの専用武器
レイバーンだ。
これはハルバイスト製じゃないみたいな
話だったっけな。
「ん?何だその剣は」
手渡そうとしたウルは
ミカが既に帯剣している事に気が付き
訝しがった。
ミカは無表情のまま
腰に下げたレフバーンを抜いた。
「なっ何だソレは?!」
「ちょっと見せてください!!」
ウルとラハの表情に
初めて感情が走った。
すんごいビックリしている。
空いた手でレイバーンを受け取り
もう一方の手でレフバーンを
差し出すミカ。
ああ
大人ミカはやっぱり凛々しいなぁ
後
バストは詐称だったな
どういうわけか鎧の無い
ヒラヒラ衣装だったので発覚した。
最後の最後に見るモノが
こんなモノだなんて・・・。
「レイバーンには遠く及ばない・・・。」
「が、しかしこのレベルの武器がどうして・・・。」
やたら驚愕しているウルとラハ
前回も仲間の救出よりも
武器の紛失の方が重要だった程だ。
これは恐れていた事態と言う奴だな。
ざまぁみろだ。
「・・・。」
無言で手を出すミカ
もういいか返せアピールだ。
察したラハは刀身に手を持ち替えると
ミカに差し出した。
「ミカ、これを一体ドコで・・・。」
ラハの言葉を遮る様に
ブリが槍を正面に構え
何やら詠唱を始めた。
「命の根源足る母なる水よ。
時を超え生命を育む愛の力よ。
今、主の御使いたる天使が命ず・・・。」
なんだ、真面目な声も出せるんだ。
ブリの詠唱に合わせてメイセラティは
強烈に青く輝いて行く
うわぁ
強烈な神聖属性だ。
こりゃ跡形も残らないな。
「我が敵を討て!神槍麗流!!」
投げる動作も無く
メイセラティは凄い速度で天に向かって飛び
遥か上空で十文字に青い光を放つと
雷の如く落下してきた。
何で一回上に行ったのか
きっと何か理由があるんだろうが
最短距離を飛ばない
勿体振った攻撃だ。
これはおかしな事では無く
むしろ必殺技のお約束でもあるな。
超電磁スピンもゴットバードも
関係無い方向に飛んでから突っ込んで来る演出だ。
こう言うモノなのだ。
「ぐわああああああああああああ!」
断末魔が響き渡った。
強大な力を持つ者が致命傷を負った時の
独自の響きと赴きが
その声には溢れていた。
手から零れ落ちる弓
神槍メイセラティはラハの胸板を貫通していた。
「何で!!」
だよなぁ。
「裏切るというのかブリィィイイ!!」
凄い形相でブリを睨むウル。
そこには人形のようなブリでは無く
お玉でも持っていそうないつもの
ブリッペが今にも泣きそうな顔で
震えていた。
「ぶぇええ知らないよぅ!だって
この槍って勝手に敵に飛んで行くんだよぅ」
そうだ。
ブリッペは致命的なまでに武術がダメだ。
呪いでも掛かっているかの様に習得出来ないのだ。
当時、その事を知らなかった俺は仕込もうと
無駄な努力をしたっけな。
想像だがハルバイストも
だからこそ勝手に敵に飛んで行く武器を
作って与えたのだ。
「・・・裏切りじゃないよ。」
ここに来てミカが初めて口を開いた。
両手に握られた双刀から湯気の様に
赤いオーラが立ち上っていた。
「僕たちのご主人様の敵は
そのまま僕たちの敵って事さ。」
せっかく凛々しい顔立ちなのに
悪戯な表情を受かべ
目は戦闘狂のソレ
いつものミカリンが
ウルに躍り掛かっていった。
どうでもいいから
離れてやってくれ
お前らの放つ光は
瀕死の俺にはキツい。




