第三百八十九話 お別れ会 午後の部
戦争回避・逃亡・中心から外れる 何か世の中とシンクロし過ぎるのも
書いていて薄気味悪いですね。
馬車の操作をやってみたいとの事で
俺はアリアと席を交代した。
念のために助手席側の操作器具
車を模したペダル、ステアリングなどを起動させる。
すぐさま旅客機の操縦席宜しく
連動して動き始めた。
これで
万が一操作を誤ったときは
強引に助手席の操作で
ブレーキを掛ける事が出来る。
これを交互に交代していれば
馬車と車の両方の技術が身に着く
画期的な設計だが
この世界に車が無いし
元の世界でも馬車を操縦する機会など
想像もつかない。
我ながら無駄な発明だと思った。
誰も価値を分かってくれないだろう。
「教会の方々もスゴイ食いつきでしたね。」
操作に余裕が出て来たのか
アリアはそう言って来た。
「あぁ凄かったな・・・。」
俺は午後の部を思い出した。
午後の部は午前と赴きが異なった。
どんちゃん騒ぎになった午前と違い
なんか静かだ。
なんだ空気が重いぞ。
ユークリッドが妙な事を提案した。
俺がガレージ内の小さな個室に篭り
そこで懺悔室のように
個々で話をする様にしようと言ったのだ。
俺は何を言ってるのか
分からなかったが
参列者が揃って
そのアイデアを褒めた。
どうも皆の前では本音を言いづらいらしい。
悪く言えば裏表があると言う事だ。
断る理由も無いので俺は承諾し
ガレージ内の小部屋、普段は資料や
小さい部品など保管している部屋に篭った。
入る時、後ろで「これで逃げられないのだわ」と
誰かが
誰かが呟いていたが聞こえない振りをして
そのまま入室した。
部屋の中の椅子に座って待つ。
なんか個人面談やる先生みたいだな。
「私が一番です。」
だからどうした。
いつのも笑顔でハンスが入って来た。
「そうか。やったな。」
俺も適当に返してから
何がやったのか
突っ込まれたら答えられない事に気が付くが
ハンスは突っ込む事無く笑顔のまま返事をした。
「はい。」
ハンスとは昔話で盛り上がった。
是非持って行ってくれと
小さな絵を渡して来た。
その絵は一周目のパーティが
記念写真でも撮ったかのような絵だった。
真ん中に冴えない俺と美しい大人ヴィータ。
その横にハンスとエッダ。
俺の横にはプリプラとカルエルが並んでいた。
相変わらず上手い。
「有難く貰っておくよ。」
俺も意図せず涙声になってしまった。
年を取ると涙もろくていかんな。
今更ながら個室面談に感謝だ。
「奇跡の始まった時の仲間です。
そしてそれはまだ終わっていません。
新しい仲間達との
二枚目も描きますので
いつか必ずまた会って下さい。」
「ハンス。お前良い奴だったんだな。」
「はい。」
いや
少し否定しようよ。
「ですが・・・最後に
ちょっと悪い人になろうと思いまして・・・。」
何?
普通に怖いんですけど
ハンスは懐から宝珠を二つ取り出し
一つを俺に渡して来た。
ヒタイングで破壊された奴とは
宝珠の大きさや台座の形が異なっていた。
「これは司教とは別の通信です。
私の持っているコレとしか会話出来ません。」
門外不出の秘術である通信
ハンスはそれを解読し
俺とのホットラインを内緒で持とうというのだ。
これは俺も歓迎だ。
これで
いざという時は駆けつける事が出来る。
俺は使い方を教わりポケットに
宝珠をしまいこんだ。
ガッチリと固い悪手をして
ハンスは笑顔で退室して行った。
続いて入って来たのパウルだ。
もう入るなり号泣で
今までの感謝をただひたすら述べていた。
俺の引き留めをしないのかと聞くと
その気持ちは山ほどあるのだが
これまでで十分だと
俺の意志を尊重したいと言ってくれた。
「最後に贈り物が、そしてこれは
内密に願いたいのですが・・・。」
そう言ってパウルは懐から宝珠を二つ取り出し
一つを俺に渡して来た。
はい
ハンスと同じパターンです。
俺は台座に「パウル」と書いてから
ポケットにしまった。
絶対間違える自信があったのだ。
パウルが退室してから
さっき貰ったハンスの宝珠にも
「顎」と書いておいた。
よし完璧だ。
「改まると、何を言って良いのか
思い浮かばないモノですねぇ。」
じゃ
何で提案した。
ユークリッドはゆらりと部屋に入って来た。
何を言って良いのか分からない?
安心しろ
ユークリッドには俺の方から質問攻めだ。
立場は継続で裁かれる事は無いそうだ。
色々な事件が立て続けに起こって
それどころでは無い事と
メタボ討伐とその後の中和作業の貢献で
危険は無しと判断されたそうだ。
「まぁエロルのお陰なんですけどね。」
状況をよく分かって無い帝王のせいで
誰もユークリッドを裁けないそうだ。
「ああ、忘れるトコロでした。
ええと、確かここに・・・。」
ユークリッドは懐を弄ると
宝珠を二つ取り出し
一つを俺に渡して来た。
はい同じです。
俺は台座に「ユー」と書いて
違うポケットに入れた。
「では、また会いましょう。」
そう言って退室しようとするユークリッドに
俺は声を掛けた。
「ああ、またな。」
振り返り、良い感じの含み笑いを見せてから
ユークリッドは退室して行った。
お次はバイス君だ。
何と9大司教入りが確定して
その報告だ。
大層喜んでいたが
これから起こる全降臨
どうなるか分からんが
その責任を分散する目的もあるような気がしたが
単純に平和な内にパウルに晴れ姿を
拝ませる他の司教の気遣いだとも思った。
「ブラバム家でなく、ファー本人にですか?」
俺は学園で構築した情報組織
裏三半機関、その統括を任せている事を
バイスに教えた。
教会が入手しにくい情報は
そっちで手に入るだろう。
「何から何まで、ありがとうございます。」
ファーを口説く許可も出しておく
いや、むしろ口説け
面白そうだ。
「はは、考えておきます。」
カッコ良い笑顔だ。
流石は伝説のスーパー生徒会長だ。
お次はミネバだったが
妙に余所余所しく固い感じで
これまでのお礼を言っていた。
退室する際には「済まない許せ」と呟いていた。
何を言うか
全部、許しているだろうに。
お次はカシオが入って来たが
入って一発目が
「何じゃったかのう?」
俺は笑ってしまった。
今日はダメな日か
良かったのか悪かったのか
普通の世間話をして
適当に出て行った。
というかブリッペに回収されていった。
お次はヴィータだ。
「で、何かしら?」
いや俺が呼んだワケじゃないんだが
「そうね。
折角だし試して見たい事があるのだわ。
ただ、あくまでも試しであって
この事に特別な意味は無いの
誤解をしないで頂戴。」
「ああ、誤解しないと誓おう」
理解もせんぞ。
俺がそう言うとヴィータは
俺に起立を要求した。
言われた通りにすると
ヴィータは有無を言わせず抱き着いて来た。
俺も合わせてヴィータを抱きしめてやった。
しばらく
どの位だったのだろう
長い様でもあり
一瞬だった気もした。
互いの心音しか
聞こえる音は無かった。
やがてどちらからともなく
体を離すと
ヴィータは呟いた。
「やはり分からないのだわ。」
そう言ったヴィータの頬には
とめどもなく涙が流れていた。
俺はハンカチで拭いてやった。
「何故、涙が出るかも分からない
あなたは一体、何なのだわ。」
俺からハンカチを奪い取ると
盛大に鼻をかむヴィータ。
美人でもこれはいただけない。
俺は返答に困った。
謝るの事もしたくない。
謝罪は何故かヴィータを侮辱する行為だ。
そんな気がした。
抱擁だけで納得したのか
ヴィータはそれだけで退室して行った。
そして最後にミカリンだ。
「主様は僕を捨てるんだね。」
椅子が後ろにスライドする勢いで
俺は立ちあがると吠えた。
「俺が、バカお前どんだけ
俺がもうああ」
パニくった。
ミカリンは慌てて謝罪した。
「ゴメン。嘘
ちょっとからかってみたかったていうか
困った顔見たかったっていうか・・・。」
俺もトーンダウンした。
「いや、スマン。冗談を受け流す
余裕も無い様だ。今の俺は・・・。」
振り返って椅子を探す。
結構、飛んだな
取りに行っている間に
ミカリンはもう座っていた。
「・・・。」
「・・・・。」
沈黙が流れた。
耐えきれず俺は口を開いた。
「改まって、こう面と向かい合うと
何を話て良いの分からんな。」
「あたしらって、普段
何を話していたっけ。」
思い出せん。
賑やかだった事は覚えている。
普通に雑談になってしまった。
でもこれが良いな。
「解除の方はギリギリまで待つってさ。」
「遠慮しなくても良いのにな」
「それが降臨前に行うと
強制的に天界に戻される可能性がとか」
あぁそう言う都合でか
気を使ったワケじゃないのね。
「だからさぁ・・・その・・・」
「何だ。」
何かモジモジし始めるミカリン。
うーん
まぁカワイイか。
「解除しちゃったらもう出来ないからさぁ。」
「何をだ。」
ミカリンは意を決した様子で立ち上がり
両手を広げてハグプリーズの構えだ。
そうだな。
お互い人状態じゃないと
触ったら大騒ぎだもんな。
俺はミカリンをしっかりと
抱きしめた。
お互いが体に刻み込むように
力一杯だった。
うーん。
大人の女性と違って
硬い
さっきのヴィータのふんわり具合からすると
ガッチガチだ。
道に空いた穴ぼこに車輪が取られ
車体は大きくバウンドした。
俺の意識も強制的に今に戻った。
「わっゴメンなさい!」
辛うじて転落を免れたアリアだが
その姿勢は不安定だった。
「おい捕まらないと後輪のバウンドでまた」
俺がそこまで言った所で
同じ穴に後輪がハマり再び
車体は大きく揺れた。
今度は前のめりになる恰好だ。
「キャッ!!」
転落しかかったアリアを
俺は抱き留めて事なきを得た。
ミカリンよりは柔らかい感触だが
うーん。余計な贅肉は無いせいで
まだ硬いかな。
「あっ・・・あの」
しまった感触を確かめるのに
時間を使い過ぎたか
ここは知らんふりだ。
「大丈夫か。」
「は・・はい。大丈夫ですので
あの・・・その。」
「何だ。どうした?どこか痛むのか」
俺はそう言ってアリアを撫で繰り回した。
「ふわわわわわ。」
「どうしたんだ。言ってみろ」
客室の扉が開き
中からストレガが出て来て
冷たく言った。
「運転代わりましょうか。」
「きゃあ!すいません」
驚いたアリアは弾かれる様に
俺から離れた。
俺は調子を変えずに言った。
「よし交代だ。」
そして今度はストレガに抱き着き
撫で繰り回し始めた。
「きゃああああああ」
「あはっはっはっは」
客室内から羨ましそうにアルコが見ていた。
馬車は賑やかに南へと向かう。
「俺達の冒険はまだまだこれからだぜ。」
ご愛読ありがとうございました。
次回作にご期待ください。
ふーっ
終わった終わった
長かったなー。
中途半端だけど良いよな。
そんな作品は一杯あるし・・・って
あれ?
何で終わってないんだ。
特大の脳内センサーが響いた。




