第三百八十七話 逃げさせてくれ
ゲッペの教会から追い出された。
呪いの解除は今日明日と
急ぐ事では無い事と言われ
もうすぐ街に遊びに行った
ヴィータとそのお供に付いたミカリン本人が
戻って来てしまうタイムリミットだそうだ。
何がタイムリミットなんだ
会うとマズいのかと思ったのだが
何か3人の慌てっぷりから
無理に説得するより
従う事にした。
呪いが解除されなくて
困るのは神側だ。
その神側がそう言ってるのだから
無理に自分を意見を通す必要は無い。
にしても何か納得がいかなかった。
モヤモヤしたまま道路を渡り
「メタ・めた」に戻った。
ガレージ部と店舗部の間
店の横奥の従業員用口では無く
店の入り口から入り
商品の状態をついでに確認した。
新装開店当初は生活必需品が
飛ぶ様に売れてしまい
置いてある姿を
見かけない程だったが
行き渡ったようで
空の棚は見受けられなかった。
そろそろ趣向品にシフトしても良いかとも
思ったが、これからの話合い次第では
もう俺が考えなくても良くなるかも知れない。
「これはオーナー。お帰りなさい」
店番をしていたグレアが俺に気が付いて
挨拶してくれた。
俺も挨拶を返し夕食後
今夜、少し会議を開きたいと言って置き
自室まで上がった。
少し横になるつもりだったが
いつの間にか眠ってしまった。
フレアに起こされ夕飯を頂く
撤去作業は順調も順調だったそうだ。
「酸の濃度が明らかに減っていましたねぇ」
「え?そうなんですか」
完全防備のストレガは
全く意に介していないが
ユークリッドは変身が解ければ大騒ぎだ。
そのせいか周囲の濃度には
常に気を配っているのだ。
「そうかなぁ、ノア君気が付いた?」
「いいえ、我らの担当地区は
計上すべき変化はありませんでした。」
すっかりウチでメシを食うのが
通常になったマリオとノアだ。
俺がビルジバイツを連れまわしたのは
特に濃度の濃い場所と
市内の水回りの要になる場所を優先した。
なので元々濃度の薄い地区は
影響が出ていないのだろう。
「直ぐには散りませんからねぇ
明日には目に見えてそちらでも
確認出来るとおもいますよぉ
まぁ風向きにもよりますがね。」
食事が終わり、マリオは魔導院へ
ノアはドーマ市内の実家へと帰宅して行った。
「色々考えた末の結論なんだが・・・。」
食後のテーブル
座っている面々を見まわす。
アリア・ストレガ・グレア・フレア・アルコ・ファー
何と言う美人天国、そしてユークリッドだ。
俺はこれから起こる神と悪魔の総力戦を説明し
自身の身の振り方を話した。
「逃げるんですかボス?!」
ファーには意外だった結論の様だ。
驚きながらそう言った。
俺は軽い調子で返した。
「うん。やってられん」
どっちの味方にも付けない
争いを止める方法も無い
俺は逃げる事にしたのだ。
「話した通りココが戦火に巻き込まれる可能性は低い
安全度で言えば高い地区になると思う。
残る者には十分な蓄えを残して行く」
俺の言葉を遮る様にアリアが割って入った。
「残る者という事はリディに着いて行く選択肢もあるのでしょうか」
「ああ、勿論だ。ただどうなるのか俺にも未知数だ。」
「行きます。」
即決だな。
まず同行者一名決定。
「・・・私は言うまでも無いと思うのですが。」
何かアリアに先を越されて
ちょっと不機嫌なストレガが口を開いた。
「そうだな。ある意味お前の隠居先を決める旅になるんだが
皆には一応言って置いた方が良いだろう。」
「ふふ、行きます。」
はい二名。
「わ・・・私も行きたいです。」
学校は閉鎖、憧れのベレンもこの有様。
ベアーマンの里に帰るかとも思って居たが
アルコは遠慮がちにそう言った。
「マスター。その・・・ミカリンは?」
初期組としては当然気なるよな。
俺だって居て欲しい。
「あいつは神側の要だ。
やらなければいけない事がある。」
「・・・はい。」
反論はしないが納得しきれない。
そんな様子でアルコは返事をした。
「その・・・オーナーあのぅ」
言いづらそうなグレア。
察した俺は残る場合の店の所有権
及び鍛冶屋からの品物の入荷など
「メタ・めた」を継続する方法を話した。
「そんな・・・好条件は」
「俺としては続けて欲しいんだ。
ここに来た時の拠点にもなるしな。」
拠点
この言葉に背中を押されたのか
それからは堂々と居残りを表明したグレア。
フレアも姉と同様に店に残ると言い出し
ファーもホーネット家と裏三半機関を
放り出せない事を理由に居残りとなった。
「行先は新大陸なんて如何ですか。」
ユークリッドは劇団員のように
身振り手振り大袈裟に新大陸の魅力を
語り出した。
「・・・ユーさんは残らないとマズいでしょ。」
何か自分も行く前提で話している事に気が付いた俺は
話途中で突っ込んだ。
「え?」
え じゃないぞ9大司教。
「やっぱりダメですかねぇ・・・
出来ればエロルも一緒に連れて行ってやりたいのですが」
エロルってバリバリスの王か
もっと無理だろ
よっぽど新大陸での生活が面白かったみたいだな。
「まぁ大事な事だ。今決めた事が絶対じゃない
見落としていた事に気が付けば変更も有だ。
出発の日にちは決めていないので
ゆっくり考えてくれ
俺の方も色々準備せにゃならんしな。」
その場はそれで収めた。
それから数日は
昼間は旅用の新型車両の作成
夜はビルジバイツの手伝いと過ごした。
ビルジバイツの権能は素晴らしく
時間がかかったのは主に移動だ。
およそひと月掛けて
ベレンは安全地帯と化した。
「なんで妾ともあろう者がタダ働きなんじゃー。」
最後の中和を終えた後の休憩で
ビルジバイツはボヤいた。
「まぁまぁコレあげるから機嫌なおせ」
たまたま夜食に持って行ったどら焼きに
ビルジバイツは目の色を変えて喜んだ。
それ以降、必須アイテムと化し
目的が酸の中和なのか
どら焼きを食うのかどっちだか分からなくなる有様だ。
魔王はみんな好きなのか・・・。
今夜も喜んでパクつくビルジバイツ。
本人曰く労働には糖分が必須なんだそうだが
どこでそんな知恵を吹き込まれたのだろう。
「タダ働きってワケでも無いぞ。」
このひと月
俺は逃亡どころでは無くなった。
戦争回避の為に忙殺されたのだ。
ベレンはバルバリスにとって
何が何でも渡せない都市だ。
ミガウィンが侵攻するなら
残存戦力で徹底抗戦の構えに出た。
領主のローベルト・ベレン7世
お、代替わりしてるのか
かつてのロディだな
は
避難先のバロードから出兵
エロル・バルバリスも
バリエアから全軍を出す事を表明した。
それだけなく魔族、エルフ、ドワーフ
果てはヒタイング、クリシアにまで出兵の要請だ。
おいおい降臨前に大戦争かよ。
してやったりと笑うオーベルに
俺は妥協案を提示し戦争は回避された。
都市の浄化の功績に
ミガウィン族のベレン市民権だ。
どうせ再興には労働力が必要だった
バルバリスはこれを受諾。
最後まで戦争を訴えるローベルト公に
エロルは爵位はく奪まで突きつけて
これを黙らせた。
教会はここぞとばかりに奴隷禁止法を流布。
ミガウィン族は正々堂々とベレンに入る事になった。
「我らのモノにならんのじゃから
タダ働きじゃろうに」
食いながら話すな。
「いや、無血でベレン侵攻を果たしたのと同義だ。」
このまま戦争で占領しても
半壊した廃墟に負傷兵の山だ。
しかし妥協案ならば
復興が整った所で革命でも起こせば
熟れた果実を手に入れる事になる。
それまでは街の実効支配を握る
水面下の争いだ。
オーベルを説得したセリフを
ビルジバイツにも語って聞かせた。
「お主・・・悪い奴じゃのう。」
ただでさえ大きい目を
更に見開いてビルジバイツは俺を非難した。
魔王に悪い奴認定されてしまった。
早く隠居したい。




