第三百八十六話 ミカリンの気持ち
「貴様と言う奴はどこまで迂闊なのだ!」
テーブルを叩きながら
ミネバは勢い良く立ち上がり
そう吠えた。
「貴様の命綱の様なモノでは無いのか!」
「静かにせよ!」
俺を捲し立てて来るミネバを
カシオはそう言って一言で諫めた。
普段とは違い低音の効いた
威厳のある声だった。
まだ何か言いたげな表情だったが
ミネバは大人しく従い
席に戻った。
カシオは先程の一言が嘘の様に
声色を普段の軽い調子に戻して
俺に言った。
「少し二人で話さんか」
話さんか爺さん。
いいだろう
俺達は階上の別室、カシオに
あてがわれた個室に移動した。
短期間での増築とは思えない程
丁寧に作られている部屋だ。
質素ではあるが石材自体が
相当に良いモノだ。
広さは「メタ・めた」の方があったが
部屋主がそれを求めるタイプでは無いので
こちらの方が居心地が良いんではないだろうか。
俺はそう言ったがカシオは
素っ気無く「何でも良いわ」と言っていた。
俺に気を使ったのかもしれないが
勧められた椅子に腰かけると
カシオの表情には迷いが見えた。
何から手を付けようか判断に困っているようだ。
「まず、ミーちゃんじゃが・・・。」
「ああ、それは分かっている
俺に気を使って言ってくれているんだろう。」
不器用な子なんだよな。
インプットが何であれ
アウトプットが叱責になってしまう病
まぁ軍神なんだからソレで良いんじゃないか。
カシオはウンウンを頷いて
その話題はそれで終わった。
「えーと、ミカリンをワシらが
その盗ったというか借りっぱなしで
不貞腐れてヤケになっとるとか」
何か探る様な感じでチラチラと
俺を見ながらカシオは話し始めるが
これは早目に遮った方が良いだろう。
「いや、そう言うんじゃない。」
「・・・ミカリンが何か失礼な事とか」
行為そのものよりも
その決断に至った原因が知りたいのか
「いやいや、単純に降臨に対してだ。」
仮にも天使軍団を統括する四大天使
その長だ。
それが悪魔の奴隷で良いワケが無い
俺はそう説明した。
「・・・アモン君はそれで良いのかね」
「嬉しくは無いさ。
正直、最初は面倒ばかりだった。
でもあいつ良い奴だし
旅を続ける内にどんどん優秀になっていく
飛行型バングに関してはミカリン抜きだったら
詰んでいた可能性が高い。」
「手駒として優秀かね」
「手駒って・・・。」
頭に思い浮かぶ今までのミカリンの表情
何か新しいモノ食ってはゲーゲーしてるミカリン。
足捌きを身に着けてからの得意気なミカリン。
天界でのヴィータの状態を聞いて
ショックを受ける俺を気遣うミカリン。
激辛大福にのたうち回るナリ君を
指さして幸せそうに笑うミカリン。
ガルド学園の制服を見に纏い
華麗なターンでスカートを広げるミカリン。
逃げろの命令に苦痛承知で逆らうミカリン。
「勿論、能力として優秀だったさ。
でも、何も出来ない木偶の坊だったとしても」
きっと楽しかったに違いない。
「手放したくなんて無いさ。」
カシオは俺の話に聞き行ってくれていた。
迷いの色はそこにはもう見えない。
俺がミカリンを嫌っていない。
それが分かって安堵している様だ。
あんな良い奴を
嫌う輩なんて
居る訳無いだろうに
「では、どうして・・・。」
「さっきも言ったが降臨だ。
四大天使、それも長が奴隷状態で良いワケ無いだろう。
あいつだってそんな事を望んでは居ない。
俺はここまでアイツの望みなんて考えるまでも無く
自分勝手に引きずりまわして来た。
解除の方法が無かった事もあって
そうしてきたが、今は違う
呪い返しの根源となった女神ヴィータ。
それより上位の神が二人も居るんだ。
やっと、アイツの望む事が出来る状態に
してやれる時が来た。・・・解除出来るんだよな?」
これまでの反応から出来る事は想像がついた。
出来るが出来ればやりたくない
かと言ってやらない訳にも行かない
誰かが言い出さねばならないが
何となく言いづらくここまで来た 感があったのだ。
「うむ・・・可能じゃろうな。」
「じゃ、頼む。」
俺はそう言ったがカシオは
即答せず話を続けた。
「やはりアモン君は良い子じゃのぅ
自分の利よりワシらの為
そして何よりミカの為に言うてくれたのか
素直に嬉しい。そして口惜しい
何でこんな良い子が悪魔の体なんじゃ」
手違いのせいです。
「ただ・・・そのぅ
もう一歩考えて欲しかったんじゃが・・・。」
ん?
何だ
何か見落としているのか
表情に出たんだろう
俺の顔色を確認すると
やっぱりかみたいにガッカリするカシオ。
「え?!何をだ。」
分からないので素直に聞く俺に
カシオは勿体・・・というより
ワシが言っていいものかと言う感じで
間が空き、ようやく答えてくれた。
「ミカリンの方の気持ちじゃよ。」
「え?」
「え?」
ズバリ言ってガーンてなるはずが
え?ってなって
え?だ。
「いや、考えるまでも無いだろ。」
そんなって顔してカシオが
食い下がって来た。
「考えて上げてはくれんかのぅ」
「え?だって奴隷だぜ
進んでなりたい奴なんていないだろう」
ナリ君なら主次第では
喜んでなりそうだが
今ここで俺が特例を持ち出しても
意味が無い。
言うまい。
「うーん。奴隷とは表向き
実際にアモン君はミカを
そうは扱っておらんかったちゅうことじゃな。」
「いや・・・何回か強制使ったぞ。」
あの黒い輪郭を持った迸る紫電は
痛そうだった。
「え?!使ってるのかや」
本気で驚くカシオ。
「うん。」
腕を組んで考え込む
俺も「ミカリンはM」以外の解答を
捻り出す為、同じく腕を組んで考えた。
「アレじゃ・・・ワシの折檻みたいに
相手が納得する正当性があったちゅうこっちゃな」
言うまい。
「え?」
しまった、つい
言ってしまった。
「え?」
何か脱線してないか
関係無い処理でフリーズしてるぞコレ。
「ええい。呪いを解除すると
何がミカリンに不都合なるんだよ。」
「アモン君と一緒に居れんようになる。」
「・・・。」
「ミカは君の事を好いておるんじゃよ。」
「え?無いよ」
何言ってんだ。
やれやれと言った様子でカシオは言った。
「気づいておらなんだか。」
いや
絶対勘違いだって
「だって俺がアイツを裸に剥いて
舐めまわしたら嫌がったんだぜ!!」
「誰だって嫌がるわぁ!!
何をするだぁー!許さん!!」
ん
が抜けただけですよね。
何で急に田舎者になるんだ。
出展
何をするだ JOJOの有名な誤植




