第三百八十三話 団体様のお着き
着地する為に
黒い教会周辺、人気の無い場所を
探したのだが
ちょっと苦労した。
なんだか人が増えている印象があった。
体感的に随分と楽だ。
教会の力が及ばない地域にしても
これは少し変だと俺は感じた。
なのでデビルアイを起動してみたのだが
「うわっ何じゃこりゃあ。」
もう悪魔だらけ
すれ違う人の大半が
人に偽装した悪魔だらけだ。
引っ掛かった世界から救出したのは百名程度だ。
その全部が今一斉に外に出ているとは考えにくい。
俺は急ぎ足で黒い教会に向かった。
建物の中に入る前に知った顔を見かけたので
そいつにベルタを呼ぶ様に頼んだ。
俺は冒険者ゼータの姿だったので
そいつも覚えていた様だ。
物凄い恐縮っぷりで返事をすると
駆け足で行動だ。
俺は脇目も振らず地下に急いだ。
警備の者も俺を見ると
緊張した感じで礼をし
ぶつからない様に素早く道を空けてくれた。
そして例の地下室前に行くが
そこの警備は俺の行く手を阻んだ。
「申し訳ございません。」
「只今、モナ様が・・・。」
事情を聞いて見ると
驚愕の返事だった。
ここ最近のモナは召喚で次々と
魔界から悪魔を呼び出しているそうだ。
そして今もその儀式の最中で
何人たりとも入る事まかり通らずだそうだ。
増えたと感じたのは気のせいなどでは無く
実際に増えているのだ。
モナに危険があるのではと思い
張り倒して強引に入ろうかと思ったが
すぐに思いとどまった。
一日何人召喚しているのか知らないが
どう考えても3ケタを越える人数を
もう既に呼び出している実績があるのだ。
召喚魔術師として
強さはともかく
回数は俺よりベテランだ。
俺は大人しく待った。
例の部屋の扉から金属音がした。
中から鍵を外した様な音だ。
その音に反応した警備の者が
扉に向かって俺が来ている事を告げた。
「お通ししてください。」
モナの声だ。
調子から具合が悪い様な感じでは無い
俺は一先ずホッとした。
部屋に入って俺は驚きまくった。
まず人数だ。
もう亜魔族だらけ、ポツポツと下級悪魔も居た。
俺と入れ替わる様に警備に促され
一列で退室していくが
何だ。
みんな俺をやたら注目してるぞ。
「平民は人間に会うのは初めての人が多いのです。
特にアモン様は変わった外見をしていらっしゃいますから」
アンナ・・・だよな。
モナと並んで俺と正対しているのだが
一瞬、見間違えそうになった。
元から似た雰囲気を持ってはいたが
今はモナは悪魔寄りに変化し
逆にアンナは人間寄りに変化している様に思えた。
「彼等にはこれから人間界での生活方法を
レクチャーし、偽装を覚えてもらい
試験をクリアすると
教会の外に出て生活する様になります。」
最後の人を見送りながら
俺にそう説明してくれるアンナ。
魔導院までの旅路でお互い打ち解け
気軽に話す間柄になっていたが
俺の疑問に先回りするとは
大したモノだ。
「腕の調子はどうだ?」
右、左どっちだったけ
「はい。欠損したとは思えない程に完璧です。」
そう言ってアンナは右腕で左腕の力こぶ辺りを
押さえながらグルグル回して見せた。
左だったか。
「私からも心よりの感謝を・・・。」
そう言ってモナも深く頭を下げた。
「あんなに大勢呼んで平気なのか?」
俺はかつてゲートのあった辺りの床を見てそう言った。
今、そこには更に複雑化した魔法陣が
いくつかの石板に分けて掘られて描かれていた。
これはナイスアイデアだ。
これなら改変する時も文字のプレートを交換すれば
全部書き直す必要は無い
現にそう使っているようで
新しいプレートと使い込まれたプレートで
色の差異を感じた。
俺は魔法陣に近づくが
それを止める様子は無かった。
なので遠慮無く観察させてもらった。
そしてプレートにはめ込まれている
クリスタルを見て考え込んだ。
間違い無くキングクリスタルだ。
俺はクリシアには供給していない。
どうやって入手したんだ。
「あ、分かりますか。流石ですね。」
クリスタルを見つめる俺を見て
モナは明るく、そう言って来た。
「魔力を充填出来るクリスタル。
魔導院でも開発はしていましたが
ここまでのモノはありませんでした。」
俺が作ったのを知らないのか
悪びれるどころか
自慢気に解説を始めた。
「ほう、どうやって手に入れたんだ。」
ここは知らんぷりして
下手人を探るか。
「それは・・・ベルタさんに聞かないと
詳しい事は・・・すいません。」
おっと、俺のセリフに殺気でも乗ったか
普通に言ったつもりだったのに
モナから恐怖が漏れていた。
「あ、怒って無いよ。俺」
慌ててなだめるが既に涙ぐんでいた。
ああもう
こんなメンタルで
よく大量に悪魔召喚出来るな。
「お迎えに上がれず申し訳ございません!!」
そう言いながらベルタが駆け込んで来た。
俺が来たとの連絡で走ったのか
偉いな。
「アポなしだ。
迎えに出られないのは当然だ。気にするな」
俺はベルタに向かってそう言った。
ベルタは満面の笑みで改めて俺に挨拶をした。
それからは席に着いて
あれこれベルタから説明を聞いた。
「そこまで賭けに溺れるモノか・・・。」
俺はガックリしながらそう言った。
俺の疑惑のクリスタルの入手方法。
何とカジノでヒートアップし過ぎて
持ち金を使い果たした聖騎士や司祭が
ベットに使ったものだそうだ。
ベルタは笑顔で言った。
「愛すべき愚かさです。」
流れるとは思ったが
こんな情けない流出だったとは
俺は笑ってしまった。
このクリスタルの魔力
元々のこの洞窟自体が魔界と親和性が高い事
術者の二人がそれぞれの種族で
精神的に繋がりが強かった事
これらの複合的な要因で
コストパフォーマンスの高い
大量召喚が可能になったそうだ。
勿論、モナの長年に渡る研究の成果ありきの話だ。
「それを聞いて安心だ。
他の者が、真似しようとも出来ない。
そういう事なんだな。」
俺は念を押した。
「はい
この二人がこの場所でこの設備
いずれが欠けても
成功は無いと言えます。」
安心した。
あちこちでボコボコ呼ばれたら大変だ。
「残念な報告もしなければ
卑怯ですよ・・・ね。」
おどおどしながら
モナは話し始めた。
内容は自分の力量では
下等悪魔が限界で上位の悪魔は
呼べないとの報告だった。
「いや、上位なら自分で何とかしろって話だ。
お前のした事は力無き者達を救う行為だ。
十分良くやってくれた。」
ベルタの話では魔界の崩壊は加速度的に
その頻度、面積を増している状況だそうだ。
モナは単に研究や面白半分での行為では無く
崩壊に巻き込まれる前に助け出したい一心での
大量召喚だった事が窺えた。
その事が理解出来きたので
降臨の話は聞かせない方が良いな
「ちょっとココからはベルタと二人で話たい
スケベな内容なんだが・・・。」
俺がそう言うと
アンナとモナは席を立ち
深々を頭を下げてから退室して行った。
スケベの突っ込みが無かった。
次からはは正直に言おう。
「降臨が迫っているのは本当か?」
俺の言葉に少しも驚く様子が無いベルタ。
「はい。詳しい時期、規模に関しては
まだ連絡はありませんが
そう伺っております。」
話を聞いて見ると
裏にはオーベルがいた。
ダークやナナイが時々訪れては
指示を出していたらしい。
「ボスとモナ様の安全は
最重要で急げと・・・。」
俺の怒りを買わない事に注力してる事が
ここからも窺えた。
大量の平民の召喚。
崩壊する魔界からの脱出。
これはこれで嘘ではないのだが
もう一つ大事な理由と言うか
狙いがあったのだ。
全降臨の負荷軽減。
魔界を地上に展開するに当たって
少しでも強い魔神を強い状態のまま
リソースを割く為に
平民は先に引っ越してしまおうと言う事だ。
俺はミネバとカシオの会話を思い出していた。
神全員が権能を保ったままの降臨は不可能
そこまでのエネルギーは無いと言っていた。
保有している量は天界の方が有利だが
事前の準備は魔界側は完璧と言っていい。
これは蓋を開けたら
神が思って居たようなパワーバランスには
なら無いかも知れないな。
「オーベル様もアモン様の彗眼の
素晴らしさに舌を巻いておられました。
ここまでして頂いた以上、無様な敗北は
許されませんね。」
どうもモナをこの地に派遣したのは
保有エネルギー量の差を
ひっくり返す逆転の一手
その一環だと誤解している様だ。
俺は勿体ぶって横柄に言った。
「ふっ・・・買いかぶり過ぎだ。」
嘘は言ってないもん。




