第三百七十九話 新装開店ゲッペ教会
重りの付いた滑車を設置していたので
人化した状態でも楽に下に下りる事が出来た。
すぐ横のガレージに上り裏口から表へ出て
道を挟んだ正面のゲッペの教会に向かった。
人化なのにそこそこのプレッシャーだ。
不思議だが月寮程では無い
実力者、戦力でいえば
圧倒的にこちらの方が上のはずなのだが
戦闘力とかでは無く
祈りそのものの質と数が問題なのかも知れない。
月寮の学生は未熟者だらけではあったが
祈りそのものは純粋で強かった。
「だ・・・大丈夫なのかしら。」
ヴィータが俺を覗き込んでそう言った。
俺の警戒心を感じ取った様だ。
「人化状態なら問題無いと思うが
神パワーは抑え目に願いたいトコロだ。」
「送りならここまでで良いのだわ。」
「いや、俺の方も用事があるんだ。
それに対ハンスの相談も
こっちの面々の協力が必須だ。」
居ない今がチャンスだ。
チンチクリン状態だと
ヴィータの方が背が高かった。
なんかお姉ちゃんに連れられている弟君状態だ。
教会内に入るとゲッペが礼拝堂で祈っていた。
入って来た俺達に気がついて祈りを中断し
振り返ると途端に抵抗が軽減した。
お前のせいだったか。
「これはヴィータ様と御使い様。」
ああ確かそんな風にたばかったんだっけな。
あれは悪い事をした。
俺はゲッペに相談があるので
皆を集めたいと申し出た。
すると
二階のリビングで待っていてくれと言われ
ヴィータに案内してもらい上に上がった。
思えば入ったのは初めてだった。
結構広くて立派な感じだ。
ゆったりソファがある「メタ・めた」の
リビングとは異なり
寝転がれそうな場所は無い。
大き目のテーブルに
やたら背もたれの高い椅子が
上座一辺に3つ並び
残り3辺は普通の椅子だ。
ヴィータはその3つの内の右側に座った。
背もたれをよく見るとヴイータの名前が掘ってあった。
成程、神用の椅子なのか
残り二つにはそれぞれケイシオンとミネバだった。
迂闊に変な所に腰掛けると怒られそうだ。
俺はボーッと突っ立ってしまった。
「こちらにどうぞなのだわ。」
見かねたヴィータは
自分の一番近くの普通の椅子を勧めてくれた。
角を挟んでヴィータの斜め横顔が拝める位置だ。
くそう、どの角度でも美人だな。
「雑貨屋と違いここでは変身出来ないだろう
迂闊過ぎるのではないか。
これでは貴殿の生殺与奪は
我々が握っているようなモノだぞ。」
ミネバがそう言って部屋に入って来た。
ミネバはあのヒラヒラした神の衣装だった。
「そんな事しないと信じている。」
俺はそう答えたが
実は出来なくは無い
かなり痛くて苦痛には違い無いだろうが
変身して悪魔光線を放ち即離脱が可能なのだが
有益な情報を渡しても意味が無いので
出来ないと思わせておいたのだ。
「それが迂闊だと言っているのだ。」
何かイライラしてらっしゃるご様子だ。
「あー不器用な子でな。
こんな言い方しか出来んのじゃ
これでもアモン君を心配しての発言なんじゃよ
許してやっておくれ。」
続けて入ってきたカシオがそうフォローした。
なんかカシオも衣装が神シリーズになっていた。
うわ
すげえ偉そう
権力持ってそう。
「うん。戦略と言う観点からは
褒められた行為で無い事も分かっている。
敵相手には注意するさ。
それにしてもカシオ、偉そうな服だな」
「あっちこっち引っ掛かって動きにくいわい。」
司教軍団が外出以外は
どうしてもこれを着てくれとうるさいそうだ。
付き従う様にブリッペとミカリンも入って来て
それぞれの椅子を引いてあげていた。
二人共、感情を殺した様な固い表情だ。
神を前にした天使は
まぁこんな感じなんだろうな。
俺を見た時は瞳に輝きが戻っていた。
俺は例の気持ちの悪い笑顔で見つめてやると
ミカリンもブリッペも辛抱堪らず表情が崩れた。
それを感じ取ったのかミネバは
二人に振り返るが、その瞬間に
一瞬で固い表情に戻った。
慣れてるな。
ゲッペが現れ
パウルとユークリッドが今、手を離せない状態だと告げた。
「後、申し訳ございません。ハンス様が見当たりません。」
「ああ、あいつはいい」
俺はハンスが今「メタ・めた」に居る事を言い
戻っても合流させない様に頼んだ。
「何じゃ、仲間割れかの」
首を傾げるカシオに
ヴィータは説明を始めた。
俺の時とは違い落ち着ていた。
こういう訴えは
先に一回吐き出させておくと良い
感情ブースターで
言い過ぎてしまったり
冷静な判断を欠いてしまう事も多いのだ。
「ハンス君か・・・悪い子ではないんじゃがのう」
カシオも良いアイデアが無さそうだ
困っているのがよく分かった。
続いてミネバが声を張り上げた。
「わ私にはモデルの話が来ていないぞ!」
そこですか
俺はあっさりと言ってのけてやった。
「だってヴィータの方が美人だもん。」
ズアアアアアアアッ!!
そんな擬音が聞こえて来そうな程の皆のリアクションだ。
ブリッペはいつで逃げられる様に横移動で扉に近づいた。
ミカリンは声こそ発しなかったが口の動きでバカと言っていた。
カシオは心臓でも止まったかのような驚愕の表情だ。
大慰め大会スタートだ。
解決どころか問題が増えてしまった。
「みミーちゃんが輝くのは戦場じゃからのぅ」
「おっかないんだよ、顔が」
「アモン君ちょっと黙っててくれんか」
はいはい
「ああああアホデルタ様の前では
私など醜女に過ぎないのだわ。」
アホデルタ
確か美の女神だったな。
つかヴィータそれ慰めでも何でも無いぞ
「そうなるとミネバはスーパー醜女になるな」
「黙ってろなのだわ!」
はいはい
「な・・・なさいますか?」
逃げるのを諦めたブリッペは
なんか四つん這いになって
尻を突き出していた。
反射的に手を振り上げるミネバだが
思いとどまり「良い」と小さく言った。
ええええスパンキング要員なのブリッペって
どんな扱いなんだ。
ヴィータ側に立っていたミカリンは
素敵な笑顔で音を立てない様に拍手した。
神側には背中しか見えていない状態だ。
俺はクイズで正解した人みたいに
両拳を天に突き上げ答えた。
「なっ何事ですか?!」
俯いたミネバをみんなであやしてしる時
パウルが入って来た。
そら驚くわな。
俺がヴィータの悩みを説明すると
パウルは「あーはいはいアイツね」と言う感じで
頷きながら聞いてくれた。
「その件は私奴にお任せ下さい。」
頼もしい言葉だ。
ハンスの扱いには一番慣れてるっぽい
事実そうなのだろう
いいぞいいぞパウル。
「相談とはコレですか」
そんな事でと言いた気だ。
「いや、俺の方からも一つあってな
ついでにイイかな」
「勿論ですとも!」
パッと輝くような笑顔になるパウル。
「何だ?嬉しそうだな。」
「ええ、そうですとも
貯まりに貯まった恩を少しでも
お返し出来る貴重な好機です。」
大袈裟なアクションでパウルは言った。
立ち直ったミネバも同意した。
「そうだな、ここらで借りを返しておくのも悪く無い」
「何でも自己解決してしまう子じゃからなアモン君は
確かに貴重じゃよ」
いえ自分勝手なだけです。
「で、どのようなご用件でしょうか」
座らないのかパウル。
まぁいいいか
俺は相談の内容を説明した。
「降臨が始まるそうだが
お前ら何で何も準備してないの」
蜂の巣を突いた様な騒ぎになった。




