第三百六十三話 Jumpin jack flash
その一言でチャラい勇者は撤退していった。
「あぁ・・・しまったのだわ。
折角の情報源が・・・。」
自分で追い払っておいて後悔している様子だ。
俺はと言えばデビルアイの調整に手間取った。
今のヴィータは人間状態であるが
前降臨時の受肉と違い
かなり人に近い状態だ。
しかし被ったダメージは結構なモノがあった。
例えるなら前回が
セントバーナードが優しくお手をしていたのに対し
今回のヴィータはチワワが全力で噛みついて来てる様な状態だ。
俺もこの体の使い方を体感的に理解していたが
吉岡さんも同様だったのだろう
俺にダメージを与えない様に
物凄く上手に力をコントロールしていたのだ。
確かに女神びーむやバリアなど
洒落にならない威力の力を行使していた。
今のヴィータは精一杯の虚栄で
この程度だ。
それでも神々しいプレッシャーは
大したモノで一般人は遠巻きだ。
あのチャラ男は勇者と言っていい。
今回のヴィータはオリジナルの方だ。
吉岡さんが如何に制御したのかは
分からないが、前回の降臨時には
表層意識には出てこれなかった。
正真正銘のヴィータだ。
全くの見知らぬ他人だ。
「おい、力を抑えろ
身を守るにしても
それじゃあ、ぶっ倒れるぞ。」
立ち去るつもりだったが
見るに見かねた。
俺は気が付いたらヴィータの前まで
出て行ってそう声を掛けていた。
「ぶぶ無礼者。私を誰だと思っているのだわ」
しかし、懐かしい外見だ。
相変わらず、すんごい美人だな。
ただあのだらけきった雰囲気は
今のヴィータには一切無い
不安に飲まれまいと精一杯の虚勢を張っている。
緊張した顔も美しいが
張り詰めた表情の美人、それじゃ
力を使用するまでも無く
一般人は近づきにくい。
俺は周囲には聞き取れない位の
小さな声で言った。
「12柱、下から二番目、冠するは豊穣。
じょうろは持って来ていないのか。」
俺の言葉に目を見開き
切断されたかのように緊張が解けたヴィータは
そのまま卒倒しそうになった。
「おいおいおい。」
近づきがたい神々しいバリアも
緊張が消えると同時に瞬間で消えた。
俺は倒れない様にヴィータを支えると
そのまま近くのベンチへ座らせた。
「何も覚えていないというのは
本当のようだな。」
俺の正体を相手が想像しやすい
セリフを選んだ。
俺達は相当複雑な初対面だ。
ヴィータは支えた俺の手に
被せる様に自分の手を添えると呟いた。
「・・・・アモン・・・アモンなのだわ
私はヴィータ!!」
「馬鹿!でっかい声出すな」
焦る俺
予想通り周囲から湧き上がる珍味。
ここはベレン
あの絵本「女神に恋した悪魔」の舞台になった聖地だ。
そこでこんな格好した美人が
そんなセリフを大声で言ったら・・・。
可哀想に
プークスクス
気持ちは分かるけど良い大人が
相手がどうみても役不足
恥ずかしい
劇か何かの練習か
一斉に投げかけられる周囲の感情
うおおお見るんじゃねぇ!!
羞恥心で死亡するなら
俺は即死だっただろう。
くそう、こんな事ならストレガから
あの隠れる魔法教わっておくんだった。
どうする
悪魔光線で野次馬を焼き払うか
「アモン・・・顔が赤いのだわ。」
お前のせいだよ。
散々手を焼いた相手だが
もしかして吉岡さんの方が
何倍もマシだったんじゃないだろうか
「ちょっと目を閉じていろ。」
変な声だ。
羞恥心と怒りと
認めたく無いがどこか心の隅で
喜びを感じていた。
半魔化であるが発声は
人を模した横隔膜や肺、声帯で行っている。
俺の感情に連動して出た声は
上ずりまくりだった。
なんかウリハルの物まねを失敗した感じだ。
とにかく逃げよう。
俺は久しぶりのデビルフラッシュを使用した。
そのタイミングでヴィータを
抱きかかえたまま跳躍した。
ヴィータに負荷が掛からない様に
慣性制御、大気操作を併用し
出来る限り最速で上昇した。
これで消えた様に錯覚してくれれば
そう思って上空から下を見ると
野次馬全員ムスカ状態になっているのが見えた。
・・・・フラッシュ強すぎた。
久々だったので加減が良く分からなかったな。
悪魔の力を長い時間使用するのは
ヴィータの体に宜しくない
木立ひとつを越えた広場の別区画に
ほぼ自由落下、最小限の力で着地した。
ムスカ軍団の悲鳴が聞こえてくる。
すぐ隣だからな。
「ざまあみろ。」
俺は小さくそう言うと
ヴィータの様子を確認した。
ヴィータは歯を食いしばって
目を瞑っていた。
「い・・・いつまで閉じていればいいのだわ」
「あぁスマン。もういいぞ」
俺が閉じろを言ったから
全力で閉じていたのか
「ダメージは無いか」
「へ・・・平気だわ」
やはり降臨時と違って
人間に近いのだろう
耐性も人間よりだ。
この女神女神した格好を何とかしないと
また直ぐに第二幕になってしまう
何か被せよう。
俺はストレージを適当に漁ると
ガルド学園、花寮3期生用のローブを
探り当て、急いで取り出し
ヴィータに被せた。
「・・・これは?」
「これで少しは目立たなくなる。
自分の恰好が周囲から浮いていた自覚はあるか」
「理解した。ありがとうなのだわ」
素直だな。
目を閉じろでもそうだったが
もしかして物凄く素直な奴なのか
オリジナルヴィータ。
身長はアモン人型より
ちょい低い位で女性にしては
高い方になるが
被せたローブはそれでもまだ
大き目だったお陰で
衣装のほとんどを隠した。
クワン先輩のローブか
・・・俺、何でそんなもの
持ってたんだ?
覚えが無いぞ。
パンツならともかく
何でストレージにこんなものが入っているんだ。
やだ
自分が怖い。
「着用方法はこれであっているのかしら?」
袖を通し、フードも被って
ヴィータはそう聞いて来た。
そうだな水色の髪も目立つ
その方が良い
フード越しに上目使いで
俺を覗き見るヴィータ。
綺麗だ。
何だ
露出が減ったのに
ぐっとくる度が上がっているぞ。
思わず口を滑らせた。
「滅茶苦茶にしたい。」
「え・・・滅茶苦茶なのか」
俺の呟きを着方を間違えたモノだと
思ったのか、ヴィータは慌てて
ローブのアチコチを確認し始めた。
「いやっやあ違う違う
着用方法は合ってる合ってる。」
落ち着け俺
なんで俺が焦るんだ。
何か色々おかしい
自分のペースを取り戻せ。




