第三百六十二話 噴水アゲイン
夜にはベレンに戻った。
「メタ・めた」には何だか足が向かず
ここベレンの冒険者協会の一階
飲み屋で何となく時間を潰していた。
お子様では入れないので
アモン人型だ。
オリジナルの宮本たけしに近い姿だ。
この世界の黒髪の普及率が低いので
髪の色だけブラウンにした。
本当に冴えない男だが
色々変身して見ると、やっぱりと言うか
当然と言うべきか
この姿が落ち着くなぁ
やたら人目を引く冒険者ゼータは
始めは面白かったが
何かと面倒だ。
味は相変わらず分からないが
酒を頼み雰囲気で酔った。
ベレンの屋敷は司教どもの会合場所にされるわ
ドーマの家は今や天界の地上出張所だ。
悪魔の俺がまっとう・・・不当ではないよな
不正でない手段で手に入れた自宅が
なんでことごとく神々しい人々に実効支配されるんだ。
悪魔からならいくら搾取しても良いってのか
くそう
段々ムカついてきた。
暴れてやろうかとも思ったのだが
こういうのも先に暴れている奴がいると
冷静になってしまう
先に暴れた者勝ちだな。
丁度、後ろのテーブルが怪しくなって来た。
「本当なんだよぅ!!
信じてくれよぉ・・・。」
「はいはい分かってる分かってる」
絶対分かって無いよな。
「どうしたんだぁ」
「まーた例のが始まったんだよ」
周囲の常連客は慣れっこだ。
恒例みたいだな。
誰もまともに相手してくれないと言うのに
そいつは真剣に訴えていた。
「ドッペルゲンガーは居るんだよぅ
俺は・・・俺に会ったんだぁ!!」
何だと?
ドッペルゲンガー
双子では無い全く同一人物が現れる現象
出会うと死ぬと言われている。
その解釈に一部の学者の案で
姿を模写する魔物が入れ替わる為に
元になったオリジナルを殺害するのだと言う。
元の世界でもお馴染みのモンスターだが
こちらでは出会っていない。
もし、模写をする他の世界からの
侵略があるならこれは相当厄介だ。
情報が欲しい
俺は振り返って騒ぎの元凶の男を見た。
そいつは俺が隠密活動するのに
適当にコピーした市民だった。
「ふざけんなよ。」
あの時ぶん殴ったのに
しっかり記憶してやがったのか
忘れれば良い物を
あーあ
違う店で飲み直すか
俺は代金を払った後
席に1人になったのに
まだ「居るんだ居るんだ」言って
突っ伏してるそいつの肩に手を置き
修正前のそいつの姿に瞬間でチェンジして
声を掛けた。
「なぁドッペルゲンガーだってな
俺は信じるぜ」
喜んで顔を上げて俺を見たそいつは
ねずみ花火の様になってしまった。
瞬時に人型アモンに戻し店を出た。
次はどうするかブラブラと歩いた。
あちこちにまだ半壊した建物が目立つ
まだバング襲撃の爪痕が
残っていた。
「この辺まで入って来たのか。」
そろそろ都市の中央だ。
気が付くと噴水のある広場だ。
真っ直ぐ歩くのが困難な程
ここは人が多い
相変わらずの賑わいだった。
その人混みの中
不自然な空間があった。
あの満員電車でゲロぶちまけた現象だ。
一角だけ不自然に人が居ない。
「・・・ババァル。」
初めて会ったあの時を思い出した。
魔力を感知しない違う。
しかし俺は吸い込まれる様に
その一角を目指し歩き出していた。
「ババァル」
居るはずがない。
それは分かっているが
足が止まらない。
何度か人に肩がぶつかった。
「ババァル」
人垣の最前列
それを越えれば
そこに赤いロング髪の・・・
違った。
ババァルじゃなかった。
居たのは水色のロングだった。
ヴィータだ。
「何だヴィータか。」
ふざけんなよ。
期待させやがって
俺はガッカリして踵を返そうと
えええええええええええええええっ
俺は絶叫を何とか食い止め
小声でそう呟くと
人垣を盾に真正面から
サイドに回り込み
再度、中心の人物を確認した。
水色のロングヘア
衣服はミネバと類似していた。
大人バージョンだ。
最終決戦の頃のヴィータだ。
「・・・何やってんだ?」
両手をファイティングポーズの様に
正面で縦に折り畳み
軽く握った拳は顎の付近だ。
何かマゴマゴしていた。
「ピーカーブースタイルか
アッパーに弱いんだよな。」
イカンイカンイカン
ちゃんと考えろ俺。
何でこんなに動転するんだ。
するか
するよな
人を探しているのか
声を掛けようとしているのか
その決心が付かないのか
そんな感じでキョロキョロしているヴィータ。
ウルの言葉を思い出した。
降臨の記憶は一切無い。
更に中の人は吉岡さんで
今はオリジナル俺の嫁さんだ。
寝取ってみるか
俺から俺が寝取るんだから
NTRにならないのか
だから俺
ちゃんと思考しようよ。
どうして肝心な時程
余計な方向に思考が走るんだ俺は
それに今の中身はどうなんだ
その吉岡さんなのか
それとも女神ヴィータ本人なのか
吉岡さんの可能性
オリジナル俺は嫁のINを
絶対に阻止するだろう。
その為に体を張ったんだ。
させるはずがないが
何らかの事故があり
旦那さんを救い出せるのは
はい、私が行きますパターンか
それならオリジナル俺の振りを
すれば騙しNTR
おーいNTRから離れろーっ
女神ヴィータ本人の可能性
これはケイシオンやミネバと
同じで崩壊に巻き込まれた可能性だ。
ただ神器を展開した様子は無い
つかアイツのは展開するような
神器じゃない。
じょうろだからな
今・・・持って無いね。
消滅世界に行かず
どうやって地上に引っ掛かったのだろうか
ただ後者だった場合は
こうして隠れている意味は無い
宮本たけしの外観を覚えては
いないのだから
この群衆の中から俺だけに
ロックオンする事は無いな。
どうするか
する必要は無いか
よし
このまま何も見なかった事にしよう
そーっと立ち去ろう。
「君かぁわうぃーね。」
そんな時、群衆の中から
チャラい勇者が現れた。
この状況でナンパを決行するとは
たいした勇気だ。
予定変更
ヲチしよう。
「どこかでお茶しなーい
良いお店知ってるよー。」
チャらいナンパ勇者に
ヴィータは輝くような笑顔を向けると
綺麗な声で言った。
「下がれ下郎。無礼だわ」
どっちだコレ?




