第三十六話 下級に火球
天使は空中で停止し
何やら辺りを探っている様子だ。
「もしかして俺を探してるとか」
今、俺は下級悪魔だ。
天使の仕事の一環に
悪魔退治がデフォルトなんじゃないのか。
「うん。そうじゃないかな」
慌てて人間状態に戻る俺。
まだこの体を使いこなせる程
慣らしていない。
悪魔の反応が消失した事に
驚いているのか
天使はやたらキョロキョロしている。
素早く動くと目立つので
俺達は座っていた岩をの陰に
そーっと隠れた。
「それにしても・・・」
「何?」
「あいつウルポンに似てね」
ウルは最上位の四大天使だ。
翼も12枚もある
見間違えるハズが無い
しかし
空中の下級天使はウルに酷似している。
「量産型の顔なのか」
言っちゃあ悪いが
ウルは悪人ヅラだ。
裁きも司っているので
甘い顔は出来ないのだろうが
それにしても人相が悪い方だ。
俺の問いかけに答えるべく
ミカリンは天使を注視していた。
「・・・似てるも何も
ウルじゃないかな」
「・・・下級天使だぞ」
「自分だって今下級じゃない」
はい
野菜の星の王子に「下級戦士が」と
罵られるレベルです。
「グレードダウン出来るのか」
「でないとゲートを通過出来ないよ」
所持している力が強大ゆえ
降臨などの特別な時でないと
こちら側に来ることが出来ないのだ。
「確認してみようか」
おいおい
怖い事言うな
折角、隠れているのに
「いや、今の俺じゃ勝てないかも」
「僕が居れば大丈夫だよ。でも念のため
弱らせようかな・・・杖貸して」
杖
簡錫の事だよな。
俺は言われるがままに
ミカリンに杖を手渡す。
ミカリンは構えファイアーボールの
呪文を詠唱した。
ミカリンのレベルも上がっている。
とびきりデカい火球が一直線に
天使に向かって飛んでいく。
「どぉおうはっ!!」
火球の直撃を食らった天使は
さながらハンターに撃たれたカモの様に
落下した。
それも燃えながら
「のおぉぉぉううがっがっ」
墜落した場所で
引火した炎を消すべく
天使は転げまわっている。
バカだねー
そんなことしても
消えないよ。
ファイアボールの呪文習得時に
実験済みなのだ。
魔法の炎は定めた目標以外に引火しない。
そして命中すれば物理的手段では消えないのだ。
燃焼の為の酸素も大気由来では無い様だ。
水中でも発動する。
海底都市イベントがあっても
使用可能なのだ。
この事が確認出来て
やっと安心して使える呪文だ。
もし引火するようなら
戦闘の度に山火事を引き起こしかねないし
洞窟系のダンジョンなどでは酸欠を
心配しなければならない。
自然現象の炎とは全く別なのだ。
なので転げまわっても消えない。
「ぉおぉぅう」
まだ転げまわっている。
効果切れで炎が消えそうだ。
時間的に余裕がありそうなので
俺はデスラーホールを唱えた。
「ふぅ・・・ふぉわぁあぁぁ・・・」
火が消えてホっとした瞬間に落下だ。
良いリアクションだ。
最近のお笑い芸人に足りない
体を張った笑いだ。
飛べばイイのに
咄嗟だとダメなのかも知れない。
「さーん・・・にー・・・」
ミカリンがタイミングを計っていた。
ふと見ると二発目のファイアーボールを
準備していた。
まさか射出の瞬間に当てるつもりか
そんな事が狙って出来るのか
「ファイアー!!」
「ぉおっへっぶうううぅうぅぅ・・・」
すげぇ
当てた
こいつニュータイプか
上昇する垂直のベクトルと
水平方向のファイアボールのベクトルが
合わさり斜めに飛んでいく天使。
また燃えながら落下した。
「調子イイなぁ」
三発目の準備に入るミカリン。
「話さなくてイイのか・・・。」
死んじゃうんじゃね
「そっか・・・普段のウルなら
こんなの蚊が差した程にもならないんだけど
あのね、昔ね
レイバーン当てた時はすんごい怒ったよ」
誰だって怒るわ
つか消し炭にならないのか
流石タンク役だ。
「今は下級なんだろ」
まぁ仮に死んでも強制的に天界に戻るだけか。
ん
じゃあ当てまくって経験値になってもらうのが
一番じゃね。
俺はメニューを開いてみた。
おお
美味しいぞ。
ヒットだけでも結構な数字だ。
討伐したらどうなるんだろう。
ぶっ殺そう。
そう言いかけたが
ミカリンはコンタクトを取るべく
もう走って近寄って行ってしまった。
「おのれぇ!!」
立ち上がった天使は
俺達目掛け反撃の呪文を唱え始めた。
ん
この呪文・・・スパイクじゃないか。
「ミカリン。スパイクだ。光ったら退避」
走るミカリンのすぐ後ろの地面に
光る魔法陣が浮かび上がる。
だせぇ
タイミングちゃんと計れよ。
出来上がったスパイクは
膝まで行かない。
俺は試しに蹴ってみたら
ボロボロに砕けた。
強度も最低だ。
なんてお粗末なんだ。
「おのれ避けるか」
驚いている天使。
いや避けるまでも無いだろ。
ピョンピョンとあっという間に
距離を詰めるミカリン。
「ウルーおいっす」
「・・・誰だ?!」
やはりウルなのか
ミカリンに名を呼ばれて
戸惑う様子を見せる天使。
「ファイアー」
そんな戦意を無くした相手に
無情の三発目を叩き込むミカリン。
しょうがない
俺はデスラホールの準備に入った。




