第三百五十七話 流星拳
「すいません。タメ口聞いちゃって
てっきり年齢が同じか下だと・・・。」
チャッキーが落ち着きを取り戻したので
俺はストレージからお茶会セットを
取り出して、すっかりくつろぎモードだ。
魔勇者であり
独自の魔法を行使し
自らの師匠とも知り合いと言う
見た目を裏切る俺の素性に
態度を豹変させたアンドリューが
そう言って来た。
「そう見えるように偽装してるんだから
今までの対応で良いんだぞ。」
そう言ったのだが
知ってしまった以上
もう出来ないとアンドリューは
恐縮しまくりだ。
まぁ
そう言うモンか。
俺が逆の立場でもきっと同じだ。
アンドリューの好きにさせよう。
チャッキー達が暮らしている隠れ里
詳しい場所は知らないが
恐らくエッダちゃんの居た村
要するに勇者出身の村だ。
そこでもメタボが出現したそうだ。
退治の為に出撃し
ついつい深追いしてここまでって
おいおい
随分、距離あるぞ。
「もう、コイツいくら言っても
先走るんすよ。」
ひとつ倒しては
その先の敵を
で、ここまで来たそうだ。
「戦果も大事ですが
味方の事も考えねばいけませんよ。」
おい
どの口で言うんだ。
ウリハル。
「・・・スイマセン。」
アンドリュー、針の筵だ。
可哀想に
特にこの二人に言われるのは
誰も納得出来ないだろう。
「つか、お前ら武器は?」
武器は勿論、防具も装備していないのだ。
俺の問いかけに
二人とも拳をドヤ顔で突き出した。
同じポーズだ。
「コイツさ!」
決め顔だ。
殴打で倒せるのか。
メタボは骨の無い軟体動物で
打撃はむしろ一番効率が悪いだけでなく
最も接近する為、取り付かれる危険が大きい。
魔法、弓が使えないなら
せめて槍が良い。
俺はそう説明したのだが
チャッキー君は不敵な笑顔だ。
「取り付かれる前に殴り飛ばす!」
「はい師匠!!」
「溶かされる前に倒す!」
「はい師匠!!」
「くっつかれない様に避ける!」
「はい師匠!!」
「完璧っすよ。」
「はい師匠!!」
あー・・・君らは
それでいいや
そういえば前回、俺が授けたナックル
「来雷拳」が見当たらなかった。
拳にも付いていないし
肩のアタッチメントにも
装着されていない。
どうしたのか聞いたら
「何年か前に砕けましたよ。」
これは驚きだ。
気を破壊力に変換するチャッキー専用装備
どんだけ戦ったのか知らないが
あの耐久を上回るか
恐ろしい男だ。
新たに作成しようにも
前回のデーターが残っていない。
14年も経っていれば拳だって
変形している事も考えられた。
走査しなおして再作成だ。
デビルアイの為に半魔化すると
アンドリューがビクっとしたが
ウリハルの説明を信じているので
襲い掛かって来る事は無かったが
居心地は悪そうだ。
二人分の左右の拳を走査し終わると
それぞれにナックルを作成した。
チャッキー君のは前回と同様だが
アンドリューのは特殊だ。
ウリハルの剣、そのナックル版だ。
ウリハルには申し訳ないが
彼が勇者の力を継いでいるなら
本来の力を引き出してくれるハズだ。
渡す時は人化して渡した。
それでも何かアンドリューは
おっかなびっくりの様子だった。
まぁ神が造ろうが
悪魔が造ろうが
金属に罪は無い
使ってやってくれ
「オレのと違くないすか」
チャッキー君は目ざとく差に気が付いた。
基本デザインは同じだが
材質も効果も異なる。
しかし、彼が言ったのは
掘られた文字の事だった。
「流星拳」アンドリューのはそう掘ったのだ。
俺は文字と意味の説明ついでに
勇者の力、この単語は伏せつつ
効果の程を説明しておいた。
「冗談は勿論、人相手には
稽古でも使うんじゃねぇぞ。
コイツはマジ危険だからな。」
「来雷拳」の破壊力を知っているチャッキー君は
強めに念を押していた。
ただ動作確認がしたかったので
その辺の岩相手に二人にテストしてもらった。
「スゴイ!!!」
チャッキー君の試し割を見た
アンドリューとウリハルは歓声を上げた。
慣れたモノでチャッキー君は普通だ。
感触を確かめて問題無いと判断したようだ。
続けてアンドリューの番だ。
「てぇりゃあぁ!」
気合一発拳を振るう。
銀色に輝く軌跡は
正に勇者のそれだった。
軌道上の空間がえぐられている事が分かった。
叩き込まれた岩は
一瞬で小石の大きさに
更に銀色の光に包まれ
粒子化して消えた。
連続する二段階の破壊だ。
スゲェスゲェ
ウリハルも俺も
先程より大きな歓声を出した。
「マズいな、こりゃあ」
その破壊力を見たチャッキー君は
そう漏らした。
アンドリューは岩があった空間と
自分の拳を何度も交互に見て
その破壊力に驚愕していた。
信じられない。
そんな感じだ。
「何か・・・すごい疲れます。」
疲労感を訴えるアンドリューに
チャッキーは歩み寄って言った。
「だな。お前にはまだ早い
そいつは預かるぞ。・・・いいすよね」
セリフの最後は俺に振り返って
そう言った。
「任せるよ。」
ガバガバとも修練で
何度も対戦経験のあるチャッキーだ。
この力に関しては俺より
良い判断をしてくれるハズだ。
日が傾き始めた。
いかんな
すぐ戻ると言ったのに
ついつい長くなってしまった。
これはストレガ達が心配するな。
俺は引き上げを提案した。
「お二人はどうなさるのですか。」
ウリハルの問いに
チャッキーとアンドリューは
顔を見合わせてから答えた。
「朝には村に帰れるんじゃないかな。」
走りっぱなしの計算だ。
「師匠、途中で寝てはダメですか
最後のが結構きてて疲労半端ないです。」
アンドリューの訴えに
チャッキーは顎に手を当てて答えた。
「そうか。適当な所で野宿するか」
その答えにウリハルは
俺に訴えて来た。
「客人の身で図々しいのですが
彼等もメタボ退治の功労者です。
宿を貸していただけるように
交渉してはいけませんでしょうか。」
丁度良い、ハンスにも会せよう。
「そうだな。帰り道が伸びる事になるが
雨風凌げる寝床の方がイイだろう。
どうだ?」
俺はそう二人に声を掛けた。




