第三百五十六話 謎の仮面格闘家
飛行なら直ぐだ。
あっという間にウリハルの居る場所
その上空に着いた。
ウリハルはまだ玉砕剣を繰り返し
たまに横回転を入れては
鞘に刺さったメタボを振り払っていた。
上空から見ると
状況がよく分かる。
ゲームでもこの鳥観視点を
採用する事が多いのも納得だ。
余裕の様子なので
俺は手出しをしないで
上からしばらく観察した。
おお
正に上から目線だ。
倒しきった様だ。
最後のメタボに玉砕剣を叩き込むと
キョロキョロ見回す事無く
剣を鞘に収めた。
あいつはどうやって
敵の居る居ないを判断しているのだろう。
俺は拍手をしながら
ウリハルの元まで舞い降りた。
「魔勇者さま!見てて下さったのですか。」
「ああ、見事だ。」
嬉しそうに笑うウリハル。
「だが、減点だ。先走るなと言ったろう
本隊は引き上げだ。
負傷者を守る様に戦っていれば100点だったんだがな」
途端に悲しい表情に変わるウリハル。
「も申し訳ございません。敵を目の前にすると
つい・・・こう燃える様に考えが冷静には、その」
「これだけの集団戦は初か?
それに戦果を見れば責める者はいないだろうな
良くこれだけ倒したな。次からは仲間の防衛も
心掛ける様にな」
「はいっ!」
真面目な凛々しい表情でウリハルは返事した。
コロコロと表情の変わる子だ。
ここで脳内アラームだ。
久々だな。
つか何だ?
レベル100オーバーのこの俺に脅威を
与える存在だというのか。
完全膝カックン耐性で見ると
急速に接近する物体がある。
コイツに違いない。
俺はデビルアイで確認し
何だか分かると人化して待った。
「見つけたぞ!悪魔めぇ。」
木の枝から枝へ跳躍を繰り返して
高速接近した、その人物は
空中で一回転すると綺麗に着地した。
「よお、アンドリュー元気そうだな。」
俺は片手を上げて挨拶した。
決めポーズのまま
俺を睨み、しばらく考えてから
軽くずっこけるアンドリュー。
「あれぇまた君かぁ。」
思い出すのに時間が掛かったな。
それも仕方ないか
結構経っているし
あの時は夜だった。
「お知り合いですか?」
ウリハルにそう尋ねられてから
俺は焦った。
会せてイイのか
この二人
やっべーハンスに聞いておくの忘れた。
つか
普通に考えれば出会うハズ無いもんな
想定していないくても不思議じゃない。
そうだよアンドリュー
何で隠れ里から出て来たの?!
うーん
そう責めるワケにもいかないしな。
「知り合いって言うか
まぁ、以前一度だけ会った感じ」
うわ不自然だ。
何かしどろもどろだ。
「そうですか。初めまして私は」
駄目だー!
名乗るなー!
「このお方の弟子でハルと申します。」
良い子だ。
ヒタイングに来る際の偽名で名乗った。
偉いぞ俺、良く設定しておいた。
でも挨拶が
見事なカーテシーだ。
高貴な人か、それに仕える人しかしないぞ
あんな挨拶。
遠足の時のアリアの恰好に
何か感じたモノがあったのか
ウリハルも腰防具の下に
ショートスカートを身に着ける様になったのだ。
そのスカートの端を摘まんで
自然な馴れた動作だった。
「あ、あのオレ、僕はアンドリューって言います。」
同世代の女子に慣れていないのか
アンドリューは真っ赤になって挨拶した。
「アンドリュー・・・。」
ウリハルはそう呟いて
名を繰り返した。
お互いが見つめ合ったまま
少し間が空いた。
何これ?
まさか一目惚れの相思相愛
ボーイミーツガールでも
禁断の愛コースじゃないか。
面白いかも知れん。
やややや駄目だ駄目だ。
おとうさんは許しませんよ。
それにしても二人は良く似ている。
互いにまだ大人の体格に
なっていないせいもあって
顔立ちなんか同じと言ってもイイ
男女であることから一卵性では無いのだが
服を変えれば入れ替われそうな位だ。
ただ
ただ髪の色は決定的に異なった。
その違いがその他の類似点を
忘れさせる程に違う。
ウリハルの父譲りの金髪に対して
アンドリューは不自然な程の鮮やかな緑色だ。
以前会った時は夜だったので
気にならなかったが
昼間の今はよく分かる。
エッダちゃんよりガバガバの方が緑々していた。
髪が緑であればあるほど勇者の力は強いと言う事か
だとすればアンドリューは前降臨のガバガバを
超える勇者だと言える。
それほどに緑だ。
「ぃいやほーっぅ!!」
遠くから聞こえるお馴染みの雄たけび。
「な?何でしょうか」
警戒するウリハルに
俺とアンドリューは落ち着いて言った。
「「あ、大丈夫。敵じゃないから」」
MAP画面でも高速接近
て、速いなおい
「ぃいやほーっぅ!!」
ガサガサッ
木々の枝葉を揺らして
その男は跳躍した。
空間を蹴って移動するので
地形で移動を阻害される事が無い
これも速さの理由だ。
自由落下ではもどかしいのか
その男は天を蹴るとスゴイ速度で着地した。
にも関わらず足腰だけでその衝撃を吸収しきって
ほぼ無音で着地した。
これはスゴイぞ。
ダーク並みの体術だ。
「先走るなと言っているだろう!」
仮面をつけたその男は
いきなりアンドリューの頭に
ゲンコツを落とした。
ゴチンとか聞こえた。
痛そうだ。
ウリハルも自らの体に起こったかのように
自分の頭部を庇った。
「痛ーっ!すいませんつい」
これ
この二人の登場のテンプレなのか
しかし、チャ・・・正体不明のこの男は
今回は仮面をつけているな
これは・・・・。
「あぁ!仮面の格闘家Mrムチャブリレだ。」
俺は大袈裟に驚いて見せた。
「ルチャリブレだ!!何だ無茶振りって」
子供相手に本気で怒るチャッキー君。
俺は慌てて第169話を確認した。
おいいいいいアリアー!!
お前、間違って記憶しているぞーっ!!
「滅茶セレブさんともお知り合いですか」
ウリハルは俺にそう聞いて来た。
間違っているうえに
滅茶セレブってそれ自分だろ。
「ああ、この二人はどうも師弟っぽいぞ。」
「私達と一緒なんですね。」
ああ、そうだ。
勇者の子供を面倒見る
前降臨の功労者
同じだな。
俺達がほのぼのしている間も
目の前では説教が続いていた。
アンドリューは悪魔を確かに感知したと
訴えていたが
チャッキーは取り合わなかった。
アンドリューの様子に
肩入れしたかったのか
正当な訴えが正しく扱われない事が
我慢ならないのか
ウリハルは割って入った。
「アンドリューの言う事は
嘘ではありません!」
ウリハルは言ってから
しまったと思ったのか
俺を恐る恐る振り返った。
俺が魔勇者なのは内緒なのだ。
この二人にはいいだろう
俺は笑顔で頷いた。
「私の師匠は魔勇者です。
人の身でありながら悪魔の力を
行使する事が出来る。
世界でも稀有なお方です。」
ハンスに刷り込まれた嘘を
堂々と語るウリハル。
チャッキー君は訝し気に返事した。
「はぁ?魔勇者。そんなのアモ・・・。」
ウリハルの背後で
かつてのお馴染みのアモン人型に
一瞬だけチャンジしてお道化る俺。
直ぐチンチクリンに戻した。
「!・・・・あっ・・そ・・え」
ワナワナと震え出すチャッキー君。
「この姿の時ははリディって呼んでくれ。」
「うああああああああ!!」
チャッキー君は俺に
身長差を合わせる様に
両ひざを地面に着け
抱き着いて来た。
もう号泣だ。
どうも
想像以上に大変だったようだな。
男に抱き着かれても嬉しくないが
俺はよしよししてあげた。
恐らくこんな姿は
見た事が無いのだろう
師匠のリアクションに
アンドリューは固まってしまった。
ウリハルも想定外の展開に
驚いているが
言葉を発する事は無く
チャッキーが落ち着くのを待ってくれた。




