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ぞくデビ  作者: Tetra1031
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第三百五十四話 覚悟に賞味期限は無い

救世主様歓迎という事で

その夜は盛大な宴を開催してくれた。


今回はストレガも厨房に入るとの事で

料理は俺の好みのモノが期待出来そうだ。

人化して味わう事にした。


上座の偉い人用テーブル。

俺、ハンス、オコルデとブットバス

そしてウリハルが着席していた。


「大人の用事は済んだのですか。」


穢れの無い真っ直ぐな瞳で

俺を見て来るウリハル。


「あぁ何もかも問題無い

根回しが済めばすぐ

学園に戻る手筈になるから

準備しておけよ。」


教会のゴタゴタその他

全て有耶無耶に「大人の事情」として

ウリハルにはここで隠れていてもらった。

自身が特別な立場だと言うのは

ウリハルも承知の上か

それとも俺の言う事だからか

追及せずにウリハルは従ってくれた。


飛行バング襲来の時

魔導院の地下で

ウリハルに掛かっていた時空系の分断は

見事に解除された。

「これは診断に有効」とストレガは言っていたが

精神衛生上宜しくない。

気軽な使用は禁止すると言ったが

何とストレガ自身も解除には成功したものの

自身では使用不可能だと言っていた。

以前の紐の結び方で例えるなら

解けたが結び方までは分からない感じか


クフィールがマリオを連れて集まった。

俺は、そのメンツにユークリッドを

嵌める計画を話しウリハルとストレガの死を

偽装する事に協力してもらった。


「そんな巨大な物体を破壊出来ない。」


人形ストレガの射出とコントロール

及び完全破壊に自信を持てないマリオは嫌がった。

単純に壊したくないだけだったかもしれない。

破壊の方は俺がタイミングを合わせて

壊すから心配無い事を伝えた。


燃料切れのミカリンに代わり

5型を片っ端から悪魔光線で処理

最後の一匹だけ瀕死にして

俺は死角から運び

タイミングを合わせて爆破した。

前回の茶番。

ヴィータとやった猿芝居の経験が生きた。


混乱の最中、鎧を着こんだストレガは

ウリハルを連れてひっそりとベレンを後にした。

俺の書状、まぁストレガが居るので

問題は無いと思うがハンスに話を

通す為にも持たせた。


アモンは死に

リディは消息不明にしたので

適当にスキャンした市民の姿で

それから一か月掛けて

入念に準備した。


一度、スキャンした本人と

バッタリ出くわしてしまった事が有り

恐怖に引きつり固まってしまった

市民オリジナルをぶん殴って気絶させ

逃亡し、ちょっとした騒ぎを

起こした事があった。


それ以後は細部を調整して

別人にしたのだが

どうもしっくりこない顔のおっさんになった。


準備の中で

一番苦労したのがユークリッドとパウルの

スケジュール把握だった。

なんせ俺は教会に近づけないからだ。


ここで活躍してくれたのが

3期生二人組、テーンとクワン。

並びに裏三半機関を指揮するファー。

そして

しばらく1人部屋になってしまったアリアだ。

ミカリンには「メタ・めた」関係に

話を通す事と不測の事態の対応を頼んだのだ。


彼女らには計画を一部伝えた。

司教の名前は伏せたが

まぁ予想は出来るだろう。

現にブリッペは分かっていたしな。


そして、やっと終了した格好だ。


ストレガだけは葬儀を早々に行ったのは

引退させる事が決まっていたからだ

葬儀の際、喪主を務めたヨハンは無表情だ。

悲しみが大きすぎたのだと世間は言ったが

その時には茶番である事をヨハン周知していた。

さぞ退屈なイベントになった様だ。


「また特訓をして頂けるのですね。」


ウリハルの言葉で現実に戻った。

期待でキラキラした目だ。

俺は何となく視線を外して答えた。


「あ・・・おう厳しく行くからな。」


外した視線の先にハンスがいた。

変わらぬ笑顔だが

「バラすなよ」と

その笑顔は物語っていた。


いや

言えないよ俺には


浜辺での会話を思い出した。


チャッキーとソフィの現在

その問い掛けにハンスは

戸惑う様子を見せずに答えた。


「チャッキー君は降臨終了後

武者修行の旅に出ました。

ソフィは引退すると申し出があり

二人とも何処で何をしているのかは

音沙汰ありません。

元気でいると良いのですが」


これは用意していた答えだな。

誰かに聞かれた時用のテンプレだ。

俺は続けて質問した。


「ガバガバの出産の時に立ち会った面子は?」


「・・・何故そんな事を知りたいのですか。」


ハンスの瞳が見えた。

常に糸目だったが

ここで見開いた。


俺はゆっくりと話した。


「丁度、魔族の王と出会った頃だったな

ベレンに向かう旅の途中で

俺はチャッキーに会った。

アンドリューという少年を連れていたよ。」


「・・・?!」


そんなバカなとでも言いそうな顔だな。

まぁ続けるか


「若気の至りだな。先走りがちな

その少年をあのチャッキーが窘めていて

驚いたよ。立派に保護者をしていた。

誰よりも先走りがちだった

あのチャッキー君がだ。」


俺に会ったなら報告が入るハズ

そう思っているのかな。


「このチンチクリンの姿だったせいで

向こうは俺だと分からなかったようだがな。」


黙り込むハンス

俺は待った。

やがてゆっくりと口を開いた。


「アンドリューはどんな子に

成長されていましたか。」


「チャッキーの影響だな。

正義参上って感じだった。」


「そうですか。」


穏やかな笑顔で微笑むハンス。

彼自身も接触をしていない事が窺えた。


「宝珠を破壊してくれたストレガさんには

感謝しなといけませんね。

これは9大司教も知らない話ですので・・・。」


そう言ってハンスは語り・・・告白とも

とれる話を始めた。


「これは勇者パーティー最後のミッションです。」


ガバガバの出産は難産を極めた。

その原因は双子だったのだ。

1人は女の子でウリハルと名付けられた。

そしてもう一人が男の子

勇者の力は彼に受け継がれた。


「勇者の力、誰の物にもする訳には

行かなかったのです。」


降臨後、まだ世は荒れていた。

大勢は決したと言うのに

悪魔に連なる怨敵

魔族狩りが治まる様子は無く

過激化の一途を辿った。

バルババリス市民には

まだ冷めやらぬ大虐殺の恐怖が

生温かく彼等の狂気を加速していた。

親族を失った仇討ちの大義面分の元

幼い子供ですら

魔族と言うだけで殺されていった。

教会が保護地区を決定し

私刑を禁じて、鎮静化には向かったが

その間に流れた魔族の血は

ベレンを守る川を赤く染めたと言う。

そんな時代に勇者の子は誕生してしまった。


「教会は勿論の事、周辺国家、魔族の間でも

勇者の力は無視出来ない強大な力です。

取り込んで自軍の強化と大義名分を

得ようとするもの

その前に亡き者としてしまおうとする者

それらが有象無象にひしめく時代でした。」


ナリ君は10年以上も森に隠れて

生きていたんだっけな

それを決意したのは

まだ幼い頃だったろうに

当時の状況の酷さ

如何に想像しようと

肌で知っている者の感覚には

遠く及ばないだろう。


「ソフィは断言しました。

24時間完全に暗殺者の手から

守り成人させるまで警護するのは不可能だと

誰が言い出したのか覚えていません。

私だったのかも知れません。

仮にそうであっても、違っていても

我々勇者パーティーはその罪を

等しく被る事を決意しました。

産まれた子が双子

この事実を知る者はあの場に居た者だけです。」


勇者の力を受け継がなかったウリハルを囮に

受け継いだアンドリューを人里離れて育てる。


「残りの人生の大半をつぎ込んで

ソフィとチャッキーはアンドリューを

匿い育成する任務に臨みました。

私は残り9大司教、特に

あのユークリッドとパウル相手に

この秘密を守るように生きてきました。」


「ガバガバは知っているのか。」


悲愴な表情がより深まり

ハンスは苦しそうに答えた。


「いいえ、難産のせいで当時はほぼ意識不明でした。」


それが幸い・・・と言うのは変か。

後押しとなって、このミッションは即立案実行となったのだろう。


この世の全ての組織から隠れて生きる。

両親の顔も知らず

お乳すら与えてもらえなかったアンドリュー。


降りかかるであろう災難

それら全てを一身に受け止め

抗う力を持たぬウリハル。


「胸糞悪い話だ。」


俺は吐き捨てる様にそう言ったが

彼等の覚悟の前には

酷くちっぽけで貧相なモノだと

瞬間的に悟った。


薄っぺらい正論。

それこそ

クソの役にもたちはしないのだ。


そして心の片隅で

彼等の作戦が功を奏した事も分かった。

そうでなければ

ハヤトはアンドリューを解体し

まんまと勇者の力を得て

あの宇宙人軍団が人類を滅ぼしていた事に

なっていたかも知れないのだ。


バングだけでは無い

クリシアでは勇者の偽者は

幼い頃から訓練を受け

定期的に送り出され危険な目に遭っていた。

ラテラの腐りかけの左腕が脳裏を過った。

なぜウリハルは女性なのに

偽勇者は男性だったのか納得だ。

クリシアのスパイが

どこまで掴んでいたのかは知らないが

スパイも命懸けで行動していたのだ。

会ったばかりの頃のアリアの

あの冷たく固い表情を思い出した。


みんな

みんな自分を育ててくれた組織

国や宗教、団体の為に

命懸けだったんだ。


不死身の肉体を持ち

音速を超えて空を飛び

数万度に至る破壊光線を出せても

バカが動かしているせいで

大して何も役に立っていなかったな

俺は


何か立っているのが辛くなった。

俺はその場にしゃがみ込み

ハンスに聞いた。


「ウリハルは・・・あいつは

その事を知っているのか。」


凍り付いた様な笑顔で

淡々とハンスは答えた。


「如何なる拷問も知らない事を

聞き出す事は出来ません。」


これはソフィの案だろうな。

何かそう思ったが同意した以上

ハンスもこの言葉の責を

受ける覚悟は出来ている様だ。


「私自身にも思考プロテクトを

施すべく密かに研究を進めていましたが

今の所、完成には程遠い状態です。」


思考プロテクト

怪しげな研究を教会が進めている

裏にはそんな思惑があったのか

ハンス君、自分に掛けるつもりだったのか

これは、いざとなれば自分も拷問に

掛けられる事を想定していたのだ。


それにしてもウリハルは

何て不幸な事だ。

有りもしない勇者の力を信じて

あいつは特訓に耐えているのか


悲劇を通り越し滑稽

更にそれを越した先は

何て言うんだ。


アイツに俺は何て言えばいいんだ。


言えないけどね。


俺はハッと顔を上げて訴えた。


「なぁクリシアも友和に向かっている。

バングも片付いた。

ミガウィン族の問題だって解決だ。

今からでも家族一緒に・・・。」


俺の言葉を遮る様にハンスは言った。


「いいえ、バルバリスには勇者の力を

手に入れたと勘違いしたまま覇道を

進んでもらいます。

そして勇者の力は

その道が外れた時の最後の希望でもあるのです。」


そうだな

俺でもそうする。




「魔勇者さま?」


料理を口に運ぶ途中で固まってしまい

考えに耽ってしまった。

そんな俺を心配そうに

大きな綺麗な青い瞳が覗き込んで来た。


「メシ美味いな。」


「はいっ」


明るい声が脳に刺さるようだ。

それにしても変な声だよな

お前って



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