第三百五十三話 浜辺では花火の方が良い
「そうですか。これでバングの
脅威は完全に去ったと言う事ですね。」
城の地下から俺が開けた穴
今は綺麗に改装されていて
大きな階段も追加されていた。
浜辺から水路が引かれ
ダガが干からびていた場所も
ちょっとした池のようになっていた。
ダガが訪れやすいようにしたのか
それなら、階段のバカでかさも納得だ。
盗聴を避けるため
俺はハンスを連れ地下から
浜辺で散歩だ。
これなら話声が
聞こえる場所に潜伏は出来ない。
俺はユークリッドとの対決に
ついて話したのだが
ハンスはユークリッドが黒幕だった事より
脅威が去った事に安堵していた。
「ユークリッドはどうする。」
9大司教、武を担当し
前降臨での功労者だ。
ハンスの意見はただの一票じゃない。
裁決を大きく左右するだろう。
俺はハンスにそう聞いた。
しかし、本人にはその自覚が無い。
「どうなるんでしょうか、心配です。」
うーん
聞き方を変えるか。
「ハンスはどうしたい。」
「人類を殲滅するつもりは
もう無いのですよね。」
「いや、元からユーさんには
そんなつもりは無いぞ。」
この辺の解釈は実に難しい。
ユークリッドの自白を裏付けるモノは
何も無いのだ。
「結果論だが、ユーさんが引き受けたからこそ
俺は間に合ったとも言える。
他の者にハヤトが取り付いた場合
耐えきれず
あのベレン襲撃はもっと早い段階で
行われてしまったかもしれない。」
「・・・ユーさんは何と仰っておられますか」
「如何なる処罰も甘んじて受け入れるだそうだ。」
「いえ、あのー罰じゃなくて
本人はこれからどうしたいのでしょうか」
死刑すら覚悟した人間が
他の事を考えるだろうか。
「・・・もう自由は無いと
思って居る様だ。
能動的な希望は考えていないぞ。」
ハンスは真面目な顔で答えた。
「それを聞かない事には始まらないですよね。」
ハンスは俺にこう説明してきた。
乗っ取り関係無く司教として
ユークリッドの行って来た事は
全て9大司教の合意の上で決定されて来た事であり
成否に評価が付くとしても
行為そのものは正否の余地は無い。
裏切行為など一切無いのだ。
増してや乗っ取りそのものを証明する
手立ても無く、仮に乗っ取られていようが
本人の妄想だったろうが
何を考えていたか
それだけで司教が罰を与える事は出来ない。
「神ならば別ですが
それこそ我々が手を下す事ではありません。」
「裏切りと呼べる行為を押さえる以外は
神の裁きを待つって事か・・。」
バングとの繋がりを立証出来ない以上
そうするしかないのが現状か
・・・司教の前では変身は厳禁だな。
「ただ、本人が罪の意識に苛まれている以上
まずそこから救済をしないといけませんね。」
どうも俺やユークリッドが思っているような
吊るしあげにはなりそうも無いな。
心配して損した。
一つは解決だ。
問題は二つ目だが。
どう切り出そうか迷っていると
空に爆裂音が響いた。
音のした空の辺りを
二人して反射的に見た。
そこにはフルアーマーの鎧が
脹脛から火を噴き飛行していた。
一瞬で俺達の上空まで来ると
器用に空中で向きを変えて落下し
逆噴射一発で軟着陸した。
俺達が何か言う間も無く
鎧は左腕の甲冑が変形し
銃身が伸びると
そのままハンスを狙った。
「左胸のポケットの中の物を出して」
鎧の中からくぐもった声
緊張感を保った声でそう警告した。
ハンスは言われるがまま
ゆっくりした動作で
右手を上着の中へ入れ
ポケットの中身が何であるかの
問いも無しに迷う様子も無く
その物体を取り出した。
淡く明滅を繰り返す
小さな宝珠が台座にはまっていた。
パウルの秘術「通信」だ。
「置きなさい。」
アルは続けてそう要求し
ハンスは言われたまま
逆らう事無く宝珠を
砂浜に置いて
横に二三歩移動した。
アルは射出し一発で宝珠を粉々に粉砕した。
「お兄様、迂闊です。
ここまでの話は盗聴されてしまいましたよ。」
鎧の上半身が仰向けにダランと
背後にスライドした。
中の人がそう俺を叱って来た。
「元気そうだな。ストレガ」
「呑気な・・・動かないで!!」
左腕は鎧に通したままだ
ハッチは開いていても
コントロールはまだ生きている。
ストレガは左腕の銃身を
ハンスに向けて威嚇した。
「射速の遅いタングステンの散弾です。
あなたのみみっちぃ聖壁など
問題無く通過し一瞬で挽肉ですよ。」
なんて恐ろしい事言うんだ。
この妹は
俺は切羽詰まった様子でハンスに言った。
「本気だ。ハンス、頼む言う通りにしてくれ」
ハンスもゆっくり両手を上げながら言った。
「・・・助けてください。」
「・・・保証出来んがやるだけやってみる。」
「お願いします。」
怒りのストレガちゃんは
左腕を真上に掲げると
乱射して怒った。
「何で私が悪人みたいになっているんですかーっ!!」
もうバンバン撃つ
ギャグマンガのおまわりさんみたいだぞ。
射撃モードでは親指で展開、収納
人差し指でトリガー
中・薬指で弾種の切り替えだ。
ストレガは上手に操作して
最初の散弾以外は空砲
最後は照明弾と被害の少ない弾に切り替えた。
空への威嚇射撃ってよくあるが
アレ何処かに落ちるからね。
すんごい危険な行為だからね。
つか
本当に散弾装填してやがった。
ハンスを挽肉にする気満々じゃねぇか
ストレガちゃんマジキチわろえない。
「ハンス、俺は盗聴を嫌がって
ここに来たのは分かっているよな。」
ハンスは両手を上げたまま答えた。
「私は起動させていません。
取り出してビックリだったんです。」
「往生際の悪い男!!」
ジャキン
本当にそんな音を立てて
再び銃口を向けるストレガ。
「どの弾がいいかしら」とか
小さく呟いてやがった。
「嘘じゃないぞ。ストレガ」
俺はそう言ってハンスを弁護した。
ストレガは秘術通信を感知
及び盗聴が出来る。
以前、ドーマでの会議前に
ヨハンに掛かって来た通信を感知した。
今回もそれを感知して飛び出したのなら
聞かれたとしても会話の最後の方だ。
俺との会話を漏らさず聞かせるなら
もっと前から起動していないといけない。
俺は上記をなだめる様に
優しくゆっくりと説明した。
とにかく、このキチガイから
銃を下ろさせないとならない。
ハンスも油汗をかきながら
笑顔で俺の説明の要所要所で
頷いていた。
・・・こんな時でも笑顔なんだな。
「じゃあ、あの通信は・・・。」
「恐らくパウルの暇つぶしだろう」
それで貴重な情報が一度でも
入手出来た経験があるなら
クセになっている可能性は高い。
こと情報に関しての奴の執念は
誰の想像をも上回るモノがあるのだ。
「・・・そうですか。」
やっと普通のかわいい妹に戻ったストレガは
そう言って銃を格納した。
「でも、ナイスだ。
ここから先の話は教会にも内緒の話だからな」
何よりもハンス自身がそうしたいハズだ。
俺はそう確信していた。
「ストレガ、頼みがある。」
「はい、お兄様」
「この浜辺に人を越させない様にしてくれ
誰かさんが発砲したせいで
野次馬が集まって来そうだ。
それはよろしくない。」
「・・・・はい。スイマセン」
ストレガは申し訳なさそうに
そう言うと鎧状態になり
ガッシャガッシャと音を立てて
洞窟の入り口方面に走って行った。
海と空以外なら
入り口はソコだけだ。
「・・・内緒の話とは」
ストレガが離れたトコロで
ハンスがそう切り出して来た。
どう切り出すか散々考えたが
コレが良いだろう
俺の推理が外れていれば
何でも無い質問になるのだ。
「チャッキーとソフィは今
何処で何してるんだ。」




