第三百五十二話 ヒタイングでの用事
あくる日俺はヒタイングに飛んだ。
「そうだ酒が好評だったっけな。」
ドーマの門番ご機嫌のアレだ。
オコルデの所に行く前に
入手しておくか
王城の前に港町に寄る事にした。
人目の少ない公園に
高空からの音速突撃
大気操作を併用した無音瞬間着陸
慣性制御をミスって大穴が空いた。
「うーん。前回の方が上手かったなぁ」
能力的に一周目に追いついたかと
思っていたが
そうでもないのか。
しかし、今回は工作員スキルなど
前回とは異なる能力も多々習得している。
追いつくというより
違う方向に育成が進んだ感じか。
土系ならお手のモンだ。
ちゃっちゃと元に戻して
町へ繰り出した。
大体の買い物を済ませ
ふと気が付いた。
懐かしの元「メロ・めろ」が近い
今は別の店になってしまったが
ここまで来たら少し見て見るか
そう思って足を向けた。
「・・・・なんだこれは。」
看板が「メロ・めろ」に戻っているのだ。
「まさかな。」
営業時間外だったが俺は扉を
開けて中へと入った。
「ごめんネ。まだ開店前だよ」
聞き覚えのある声だ。
なんかタイムスリップでもしたかのような
錯覚を覚えた。
ここはこの姿の方がいいか。
俺は冒険者ゼータにチェンジした。
「飲みに来たんじゃ無い。」
声で気が付いたミウラは
慌てて入り口を見た。
「ありゃ、お久しぶり。」
「お久しぶりじゃねぇ何やってんだ」
「えーっと、バーテンダー。」
長年に渡りクリシアを裏から
牛耳って来た病巣
フリューラ・ファミリーが壊滅
老舗レイベルニの復活で
新体制で友和指向に生まれ変わるクリシア。
悪政の排除、バルバリスとの関係改善で
ファミリーのボスは大忙しのはずだ。
俺は上記を早口で言って責めた。
「ちゃんとやってるかと思えば
何を油・・・アルコールか
売ってんだ。」
ミウラは肩をすくめながら
コップ磨きを再開し答えた。
「勘弁してヨ。もう年なんだからさぁ
腰とか大変なんだから
あたしゃ引退、優雅に隠居。
それに、ちゃーんとやってますよ
リカルド君が
彼、優秀だよ。」
正式に代替わりしたそうだ。
裏の組織の正式って何だとは思った。
「それにね。これからの事は
これからの人がやった方が良いよ。
責任感が全然違うからネ。」
古い体勢のまま
いつまでも上の座にしがみ付き
世代交代の進まない
風通しの悪い国に聞かせてやりたい。
成程な
ミウラの無責任っぷりは
彼なりの責任感に基づいたものなのだ。
「報告は受けているんだろうな。」
丸投げ放置じゃないなら
許そうか。
「・・・全部を分かった上で
ココに来たんでしょ。
リカルドに直に聞くより
客観的な話が聞けるモンね
相変わらず人が悪いよ。」
いや、全く知らないんだが
ここは乗っておいた方がカッコ良さそうだ。
「フッ、話が早くて助かる。」
「えーっと、味分からないんだっけ」
ノンアルコールのカクテルを
作ってくれたミウラは
差し出しながらそう言った。
「ああ、でも有難く頂くよ。」
新体制と言っても
各部署の要人を挿げ替えただけだ。
レイベルニの様にフリューラに
従わず冷や飯を食わされていた人々
中には投獄されていた者もいたそうだ。
彼等に復帰してもらい
ただ汚職が無くなっただけでも
効果は抜群で公共事業に金が回り
職が増え、それに合わせて
路上生活者も減った。
総理の「クリシアは変わります」の
熱弁が大きな街を回って繰り返され
それに連動し大きな支持を獲得したそうだ。
「もう、ちょっとしたヒーローだよ。」
「まぁ表の顔担当だからな。」
「ヒーローって言えばね。」
バルバリスから派遣された司教が
イケメン過ぎるとクリシアの
若い女性が大盛り上がり
釣られて彼女等を狙う若い男も
それに倣って集まった。
若者層バルバリス支持
熟年層クリシア支持
と分かりやすく国内も分かれ
それが敵対で無く友和に向けて
動いている。良い意味で
世代を超えた交流が始まっているそうだ。
スゴイなバイス君
流石は伝説のスーパー生徒会長だ。
あの喋る銅像、売れるんじゃね。
「亜魔族、ベルタとかはどうなっている。」
「悪魔教は根強いねぇ、バルバリスから
遠い東半分はまだ彼等の勢力下だよ。
ただ以前の様な怖さは無く全く逆になったね。」
なんと町全体がカジノと化しているそうだ。
これは妙手だ。
聖を看板にしている教会やバルバリスでは
ご法度になっている賭け事は
表向きには存在せず
隠れてひっそりと裏で展開されている。
しかし
悪魔教は有りですよ。
だって悪だもん
と堂々と開催し住み分けているのだ。
欲に駆られた連中が
黙っていても勝手に集まり
狂喜と絶望を振りまいてくれる。
恐怖で支配しなくても
エネルギー供給に心配は要らないようだ。
友和政策による人・物。金の
流動の活性化に乗るというより
目玉にすらなっていて
西側で着替えて東側で
賭け事に興じる司祭や聖騎士などもいるそうだ。
「ここはバルバリスじゃねぇ
ハメ外すぜーっ」
夜の街でこの叫び声がしょっちゅう聞こえると言う。
・・・モナちゃん大丈夫かな。
大体の報告が終了したトコロで
ミウラが話を振って来た。
「アリアはどんな感じかな。」
「ああ、元気にしてるぞ。」
「・・・ありゃ、そう」
何だ?
何でガッカリしたようなリアクションなんだ。
あっさりし過ぎたか
もう少し具体的に話すか
俺は学園で起こった様々な出来事
アリアが上手く活躍してくれた話を
ピックアップして聞かせた。
もう褒めた褒めた。
しかしミウラの顔色は浮かないままだ。
「そりゃあ・・・工作員の評価だよネ。」
だって
工作員だろ。
他の部分の成長が聞きたいのか
「・・・料理とかも上手になってきているよ。」
「フーッこりゃあの娘も大変な道を選んだねぇ」
良く分からん。
ただ最後の一言のミウラの顔は
穏やかな笑顔ではあった。
「メロ・めろ」での話はここまでにして
次は本来の目的地、ヒタイング城だ。
陸路は目立つので
そのまま海岸まで出て
人目の外れた瞬間を狙って
海へ飛び込んだ
半魔化だと呼吸もしない
海中でも重力操作は有効だった。
そのまま海中を進み船の
見当たらない辺りで浮上し
一気に西に向けて飛行した。
陸路を人目を避けて走るより
こっちの方が速いな。
城の付近で上陸し
何食わぬ顔で正門前まで歩いた。
顔パスとは行かず
詰め所で待たされた。
見張りの門番がやたらと
警戒していた。
何がそんなに怖いのかと思ったが
よく見れば、俺がヤケクソで
静電気を鎧に当てた奴だった。
あの時はゴメンよ。
程なくして現れたのはブットバスだ。
「おぉ真に救世主殿ではありませぬか。
よくお越しくださった。」
なんか以前より女性っぽい
柔らかさを感じた。
それならモテるんじゃないか。
「突然、スマンな
ハンスの奴に用があってな。」
「突然なのはいつもの事
もう慣れました故」
嫌味で無くそう言うブットバスは
俺を城内に案内してくれた。
歩きながら俺はブットバスに礼を言った。
「他の連中も押し付けてスマンな。
他に頼る宛ても無く
本当に助かったよ。」
慌てて振り返り
ブットバスは恐縮した。
「礼など申されては
こちらがいたたまれません。
受けた御恩の一部ですら返せてはおりません。
それにスト・・・アル様もハル様も
城での人気はスゴイものです。
正直いつまでも滞在して頂きたい位です。」
まぁあの二人なら
受けは良いだろう。
オコルデとも相性がよさそうだ。
3人共美形なので
キャッキャウフフされれば
楽園の様な絵面になりそうだ。
ストレガとウリハルを死んだ事にする為
教会、及びバルバリス政府の
目の届かない場所に
身を隠してもらう必要があった。
ついでに言えば俺を簡単には裏切らず
教会、バルバリスに対しても
状況次第では反旗を翻せる立場が望ましい。
そんな理由で二人にはココに
居て貰ったのだ。
ハンスがいるが
俺はハンスに計画の全てを話してあった。
信用していると言ったが半分嘘で
話が漏れる様ならハンスも黒だ。
場合によってはユークリッドに続いて
ハンスも討伐対象だったのだが
杞憂で済んだ。
俺の稚拙な罠にも関わらず
ユークリッドを対抗準備無しで
引っ張り出す事に成功出来たのだ。
ハンスは信頼して良い。
・・・対バングにおいてはだがな。
一階奥の特別な豪華な小部屋で
待機させられた。
お茶と茶菓子が出て来たので
有難く頂戴し
しばらく待つとハンスがやって来た。
「ご無事ですか、心配していましたよ。」
扉が開きハンスが入って来た。
椅子に座る前から
そう言って近づいて来た。
俺は人差し指で
静かにしろジェスチャーをして言った。
残った手の方で
親指を立て背後を示す。
入室後、デビルアイで走査し
隠し部屋に宮廷魔術師チャ・ウンカイが
潜んでいる事は確認済みだ。
「ちょっと散歩でもしよう
外の空気が吸いたいな。」
さてハンス君。
もしかしたら君とも戦闘だ。




