第三百四十七話 大きければ
「取り合えずミカリンは適当に隠れていろ」
「アモン、僕も戦うよ」
「あのなぁ・・・。」
俺は存在の力の説明をした。
「でも呪いのせいでアモンが
死ぬ様なダメージで僕が先に死ぬんだよ。」
「それは有益な死だ。」
隠れていてくれれば
ゾンビアタックが一回は可能なのだ。
挑めば何も出来ずに消滅してしまう
無駄な死だ。
それだと折角のゾンビアタックチャンスが
無くなるのだ。
隠れていてくれれば
有益な死になってくれる。
俺はそう説明した。
ミカリンは何とも言えない表情で
悔しそうに言った。
「悪魔め!」
俺は例の気持ちの悪い笑顔で答えた。
「悪魔だよ。」
「ですねぇ。」
シロウも頷く
顔は見えないが絶対に微笑んでいる。
いや
笑って居る場合では無い。
俺はシロウの方を向き言った。
「相手は神なんだから司教も敵対はマズいぞ。」
前回の大虐殺で信仰が
揺らいでしまったヨハンは
一時期、神聖魔法を
行使出来なくなってしまった。
多様性の許された存在である人間なので
体本体が消滅する事は無かったが
司教としての力が消え
ただの引きこもりになってしまった。
神に対する疑念などの
マイナス感情はご法度
ましてや敵対など
どうなるか想像が付かない。
「そうですねぇ司教にはいけない事でしょう
しかし、この場にそんな人はいませんよ。
ここに居るのは亡国の戦士シロウです。」
この仮面、この姿の時は
司教ユークリッドに非ずか
成程、本人にこれだけの
自覚があるなら大丈夫だろう
確かに性格がちょっと変化するしな
素のユーさんなら「トゥ」なんて
酔っても言わない。
巨大ロボがこちらに向かって
ゆっくりとその歩みを進めて来た。
あれ、ナナイはやられたかな。
「乗って下さい。」
俺はそう言って前かがみの姿勢になった。
時間が無い、飛びながら話そう。
今、ここにゴッドビーム撃ち込まれたら
全ておしまいだ。
「トゥ!」
華麗な跳躍で俺の背に乗るシロウ。
・・・おぉライダー条件満たしたな。
すぐさま飛び立ち
一気に奴より高く上昇した。
それを待っていたかのように
ゴッドビームの光束が
俺の軌跡を後追いした。
命中した雲は油膜に洗剤でも
垂らしたかの如く
円形に避難していく
「取り合えず投げ飛ばすので
蹴って貰っていいですか。」
「うむ、作戦としては?」
「取り合えず投げ飛ばすので
蹴って貰っていいですか。」
「分かった!!」
魔法も効かない
物理も効かない
正確に言うとあれ程の体積に対して
どちらも有効打にならない。
同じ質量、例えば身長50mの
玩具バングの腕鞭なら
話は別になるのだろう。
そんな物を作成している時間は無い。
今、試す価値のある唯一の攻撃
シロウの蹴りだ。
あの俺が対抗策を見つける事が出来なかった
正体不明のダメージだ。
俺は雲海を足元に見下ろす高さまで上昇し
巨大ロボは雲に遮られ見えない。
当然、向こうからも見えていないハズだが
念の為に8の字回避運動を行った。
公文式並みに
やってて良かった。
どうやって俺の位置を測定しているのかは
分からないが回避運動をしていなければ
命中したであろうゴッドビームが
数発、俺達の傍を通り過ぎる。
丸い大きな穴が雲海に空いた。
そこから見えた奴の姿
背中の翼を展開中だった。
飛べるのか?
そりゃそうか
翼は飾りでは無いのだな。
そうなると
想像するだに恐ろしい
俺やミカリン同様に重力制御で
飛行するなら、あの巨体であっても
飛ぶ事が可能だ。
しかも物理法則を無視した軌道を描く
あの巨体でソレをされたら
大気の乱れ方は半端では無いだろう
洗濯機に放り込まれた
木の葉の様になってしまうだろう。
ここだ
翼を展開し飛行モードになる
その切り替えの最中
隙があるかどうか分からないが
有る可能性は高い。
「行くぜっ!」
「おぅ!!」
やっぱりキャラが変わるな。
俺は瞬間超音速加速錐揉版で
一気に肉迫した。
「トゥーーッ!!」
自分のタイミングで
俺の背から跳躍するシロウは
空中で縦回転を3回
俺の錐揉み効果の合わさって
残像は綺麗な球体を醸し出した。
「キィーック!!」
巨大ロボの顔面
その半分も無い小人が
超高速で放った蹴りは
眉間に命中した。
物理的にあり得ない光景だった。
物理的常識に則るならば
シロウが粉々になる。
同速度で跳ね返って来る。
刺さる・エネルギーを消費し切れていなければ貫通する
このいずれかだ。
互いの強度や質量差で
このどれかになるのだ。
科学では
しかし、どれにもならなかった。
シロウは巨大ロボの額があった位置
空中で停止した。
まるで見えない巨人に殴られた様に
巨大ロボは仰向けに倒れた。
音速を超えてずっこけた。
50mサイズの水蒸気の三角錐が
瞬間的に背に浮かび
そのまま埋もれ
続いて大地にも埋もれた。
両足が天に向かって上がり
持っていたハルバードは
両手を離れ綺麗に垂直に
地面に刺さった。
しかし、その後直ぐに
登場時よりも派手な衝撃波が発生し
ハルバードはロケットの様に
打ち上がった。
上空からだと良く見える。
地面はまるで水面の様に
滑らかに動いて波紋が発生していた。
不快感を感知した。
ミカリンが天使化したのだ。
これなら衝撃波で死ぬ心配は無いな。
運動エネルギーを使い切って
滞空したシロウは
ここに来て物理法則の軍門に下り
落下に移ろうとしていた。
俺はタイミングを合わせ
背に着地させた。
「おのれぃ、何て頑丈な野郎だ!!」
野郎って・・・神様ですよ。
俺の背で元気いっぱいの悔しさで
シロウは言った。
背後なので見えないが
何かポーズも取っているみたいだ。
「傷一つ付かぬとはぁ!!」
「・・・ちょっと待って」
転ぶ
人にしてみれば
まぁよくある事で大した事では無い。
勿論、除外項目として
怪我人や老人、階段の途中や
馬やバイクなどからの転倒は危険だ。
でも、そうで無い限りは
友達が指さして笑ったりする出来事だ。
それは人サイズが1Gの重力下での常識だ。
二足歩行の巨大ロボ
これが実現しない、出来ない問題が
実はコレ
転倒なのだ。
今、地上に発生した衝撃波
これはある意味
あの勢いで巨大ロボが地面から殴られた
とも言えるのだ。
神器の巨大ロボ
本体である戦略神ミネバは
搭乗しているのか同化し一体になっているのか
分からないそうだが
もし、人が搭乗していた場合は
今の転倒でコクピットでミンチになっている。
義体の体なら死にはしないが無事では済まない。
一体なら直接ダメージが入った格好だ。
・・・考えたくないが受肉だった場合は
コクピット開けたくないな。
「何故止める?!追加攻撃のチャンスだ!!」
それはそうなんだが
あんたは鬼か(疑問)
・・・・鬼か(確認)
「多分、壊れたりしないモノだな。」
前回、黄金のじょうろを
よく分からないまま天界から転送した。
その時に感じたのだが神器はただの物体では無い
上手に説明出来ないが
触る事の出来る幻とでも言うべきか
現に幾度も突き刺したはずの
ナナイの冠婚葬祭の跡は
何処にも見当たらなかった。
「それに、今ので中の神様が
完全にノックアウトされたかも知れない。」
ノックアウトでお願いします。
受肉は勘弁してください。
「イッターイ!オンノレェ!!」
スピーカー・拡声器と思われる音質で
巨大ロボから女性の声が響いた。
ご丁寧に頭部、口の位置に設置されている様だ。
ミネバ、まぁ女性の名前か。
良かった死んでない。
「もう一度だ!!」
背中でそう言うシロウを俺は手で制止て言った。
「話し合いに応じては貰えないかー!!」
「悪魔に語る言葉など無い!」
機能が復活してきたのか
先程より鮮明な音声だ。
俺はデスラーホールを唱えた。
「キャッ?!」
上体を起こした姿勢のまま
落下する巨大ロボ。
限界まで広く深く設定したのに
なんか風呂に入ってる感じだ。
ビックリさせただけでダメージは無いな。
「ふ・・・ふざけた真似を」
はい5秒
「をおおぉぉ・・・・・」
飛んだ飛んだ。
翼が閉じていたのは確認済みだ。
展開終了しないと飛び立てないと予想した。
空中で華麗に展開して飛翔するかとも思ったが
巨体ならでは問題をクリア出来ていなかった様だ。
素早い動作は苦手だ。
中途半端に展開した段階で
巨大ロボは再び地面に激突した。
またもや衝撃波の波だ。
治まってから
俺は同じ問いかけを行い
同じ返答を聞いては
打ち上げる。
これを繰り返した。
あの巨体の動作スピードで
この無限コンボからは脱する事は出来ない
キリンじゃ無いが転んだ時点で致命的だったな。
後は俺の魔力が尽きるか
ロボ、及びミネバの耐久が尽きるかだ
そうなる前に根負けして
話し合いに応じて欲しいのだが。
結果はどれでも無かった。
フライパンで返した様に
巨大ロボは弄ばれ
頭から腹付近まで地面に刺さると
それっきり動かなくなった。
問い掛けにも答えない。
完全に気絶した様だ。




